青春に乗り遅れ(三) - 2003年08月03日(日) 山荘の建物の引き戸は、すでにしっかりと鍵がかけられていた。 しかたなく、僕は軽くそれをノックした。 そして言った。 「こんばんはー」 ほどなく、ひとりの女性が「はぁーい、どなたー?」と言いながら、やって来た。 前に一度会ったことのある、Kさんという僕と同年代の、ややぽっちゃりした女性だった。 すでにムウムウのような部屋着(寝間着?)に着替えていた彼女は、戸を開けるや、自分の服装を意識したのか、一瞬恥ずかしげな表情になった。 後ろから何人かの仲間がぞろぞろとやって来た。 「ええーっ、●●君、今来たんだ! もう、絶対、こられないと思ってた」 と彼らは口々に言う。 「それにしても、よく来たねえ」 と、ひとまずは歓待を受ける僕。 彼らは僕が1万4千円もタクシー代をかけて来たとは、ゆめゆめ思っていないようだ。 幸い、10何名かの参加者のうち大半のひとたちは、まだ床に着かずに酒を飲んだり、ダべったり、ゲームをしていたりしたので、その集いに参加させてもらった。 その中でも、ひときわ目をひく女性がいた。 前にも一度二度、会ったことがあるので、僕もMさんというその名前は知っていた。 彼女、化粧っ気はほとんどないが、実に整った優美な顔立ちをしていた。 そして、細身で抜群のプロポーション。 ごくシンプルなニットのワンピースだけを着て、アクセサリーもろくに着けていなかったが、一座の女性たちの中ではとりわけ輝いて見えた。 彼女は某お嬢様系私大の大学院生。 美学を勉強しているとのことだった。 年齢は僕と同じで、当時25才。 このグループも、出来て何年かたつうちに、中でいくつかのカップルが自然と生まれていった。 今回も、公然と付き合っているカップルが一組、すでに先日結婚したカップルが一組含まれていた。 が、残りの十名ほどは、とくに決まった相手もなく、恋人募集中であり、僕もその例にもれなかった。 「ああ、Mさんのような綺麗なひとが、まだ彼氏無しだったらなあ。 そうしたら、僕にも彼女と付き合うチャンスが少しはあるのかも…」 ふと、そう思った。 とりあえず、この場にはMさんにぴったりと寄り添うような男性は存在しなかった。 が、それが彼女がフリーであることの、確かな証拠にはなるまい。 実際、グループの女性のひとりがよくこう言っていたものだ。 「Mさん? 彼女はまわりの男性みんなが狙っているみたいよ。モテモテなんだから」 でも、言っておくが、彼女は男性を手玉にとるタイプではまったくなかった。 むしろ逆で、いつもあまりに爽やかな微笑を、相手を選ばずにふりまいていた。 そしてそれゆえに、多くの男性にとってはかえって近づきがたい「高嶺の花」、そんな感じであった。 その夜のMさんも、誰か特定の男性を凝視するでもなく、にこやかな表情をたたえていた。 そんなMさんを遠目に眺めながら、 「こんな出遅れ気味な僕にも、彼女のような素敵な相手が現れる日が来るのだろうか?」 そう思いつつ、ぼんやりと酒を飲む僕であった。 箱根の熱帯夜はとてつもなく長く、まるで終わることを知らぬかのようだった。 (小出しですまんが、まだ続く) ...
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