星降る鍵を探して
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2003年09月04日(木) 星降る鍵を探して4-2-4

「え」
「――何だと?」
 剛は思わず割り込んだ。こう言うとき、一発ですんなり理解できない自分がひどくもどかしいのだが、それにしてもかなり意味不明なことを聞いた気がする。梨花もそう思ったのだろう、ひとつ頷いて、解説した。
「あたしも良くわかんなかったんです。どうして須藤さんのところに、敵から、わざわざ警告が来るのかなって。でもあの須藤さんが、珍しくすごく心配そうな声を出してたから、何か心配になっちゃって」
「あやつがか」
 剛はふむ、と鼻から息を漏らした。あの圭太が狼狽するなど、なるほど尋常な事態ではない。
「でも流歌と清水さんがずっと一緒にいたのなら、違うわよね。わざわざ『ひとり見つけた』って言ったんだもの。新名くんとマイキちゃんも一緒だから違うし」
「そ、そうなのか? マイキは無事か? 怪我などしておらなかったか?」
 と剛が勢い込んで訊ねたのは、マイキのことを今ここに来て一気に思い出したからだった。同時に自分がマイキを『振り落とした』挙げ句『全く気づかず走り去った』ことを卓が聞いたら殺されるのではないか、と思った時の気分まで一気に思い出して青ざめた。しかも流歌に巡り会えた嬉しさで今まですっかり忘れていた。我ながら最低だ。
 梨花はそれを聞いて、何か思い出したのか、不快げに眉をひそめた。
「怪我。……そうですね、元気に歩いてたから、大丈夫でしょうけど。あんの野郎」
 と毒づいたのを自分のことかと一瞬思ってしまうのは、罪悪感のなせる技だ。
「あ、あんの野郎?」
「高津って男です。あんの野郎無抵抗のマイキちゃんをぶら下げて地面に叩きつけたんですよ、男の風上にも置けない奴だわ!」
「た、叩きつけた……」
 更に青ざめる剛。しかし梨花が剛の狼狽に気づく前に、流歌が横から口を出した。
「あの。マイキちゃんって……誰?」
 それと『新名くん』だったっけ。と呟く流歌を、二人は同時に振り返った。
「あ」
「そうか」
「……知らなかったんだ……」
 二人の声が綺麗に重なる。流歌はぷっと膨れて見せた。
「何かやな感じ。二人の秘密ですか?」
「あ、いやいやとんでもない。うーむどこから話したものか」
 と我ながらおかしいほどに狼狽えた剛の言葉を引き取って、梨花が言った。
「あたしと須藤さんの共通の友達なの。前話したでしょ、ほら、江戸城の」
「ああ! 江戸城大落下事件!」
 何だそれは。
 江戸城、という単語と、大落下、という単語。なにやら非常にそぐわないように思えるのだが、この二つがなぜ合体するのだろう。と思った剛には構わず、梨花が手際よく説明を始めていた。卓たちに話を持っていった経緯、そして高津にひどい目に遭わされているマイキを見つけたこと、更に卓が上から降ってきた、こと。話を聞くに連れ、高津という男に比べれば、悪気がないだけ自分の方がよっぽどましだということがわかってきた剛だったが、それにしてもマイキが高津に捕まったのは他ならぬ自分のせいなわけで、やっぱり卓には知られたくない、と思う。
「――というわけなのよ」
 と梨花が話を締めくくり、剛は梨花のよく口が良く回ることに感心した。あれだけ喋ってよく訳が分からなくならないものである。流歌はよくわかった、と言う印に頷いて見せ、階段をぽんと飛び降りた。


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