星降る鍵を探して
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2003年09月02日(火) |
星降る鍵を探して4-2-2 |
あと準備ですね、脱出経路に必要なものを上手く隠して置いたりとか。 というような話を流歌は楽しそうに続けている。 いやいや待て待て、と剛は思う。今更何を言うかと言われるかも知れないが、それはれっきとした犯罪行為ではないか。いくらあの怪盗の妹とは言え、流歌は大学では『警邏会』に所属している。しかも『警邏会の怒れる孫悟空』と呼ばれて――大っぴらに呼ぶのは剛しかいないが――恐れられているほどの、会長の右腕と呼ばれるほどの、女傑なのである。構内の治安を守り、『I大学サークル間協定』に違反するサークルへの厳しい制裁で知られる彼女が、一体なぜ自分の兄貴を容認し、どころか嬉々としてその『助手』を勤めていられるのだろうか。 確かに、『人に知られては困るような宝』しか盗まない、と言っていたけど。 「清水さん?」 流歌に下から覗き込まれて、剛は咳払いをした。流歌が怪盗の仕事をしようと、それを楽しんでいようと、自分には口を出す権利はない。圭太も言っていた。『よその奴に口を出されるいわれはない』、あの言葉は今も剛の胸に突き刺さっている。 言ってはいけない。 でも。 「怪盗の仕事は、楽しいか?」 剛はそんな理性の言葉に、簡単に従えるほど器用ではなかった。流歌が驚いたように、目を見開く。 「え――」 「構内では治安を守る側で活躍する貴様が、なぜ怪盗の仕事をそこまで楽しめるのか、俺にはわからん」 内心の沸き上がる感情を持て余して、つい吐き出してしまって――流歌が言われたことを確かめるように目をぱちぱちさせたときには、剛は既に後悔していた。流歌の反応が怖かった。『どうしてあなたにそんなことを言われなければならないのか』と流歌は言うだろう。当然のことだ。もっともなことだ。だが、剛はその言葉が何よりも怖かった。 でも、口に出してしまった。 もう後には引けない。 流歌が自分を見上げている。その視線を痛いほどに感じながら、剛はその視線を避けるように下を向いていた。どうして自分は、流歌が怪盗の仕事を『嬉々として』やっているのが厭なのだろう? 圭太ならば構わない。あいつは怪盗だし、怪盗であるあいつとこの先同級生としてつきあっていくことに抵抗を感じたりはしない。飯田梨花だって、大学構内でやってることは怪盗と似たようなものだ。でも流歌は。流歌だけは。どうしても。 厭だったのだ。 流歌には、剛から見て『間違った行為』であることには、無関係でいて欲しかったのだ。 「清水さん」 囁くような、流歌の声が聞こえた。ぴくり、と剛の腕が無意識に跳ねた。おそるおそる顔を上げて流歌の顔を見ると、彼女は今まで――荒くれサークルを相手にするときにも見せたことのない、鋭い目で、剛の視線を捉えた。 怒っているのだろうか、と、その目の鋭さを見て剛は思った。 でも、続いて囁かれた声は、ひどく優しかった。 「清水さんは、いい人ですね」 「……は?」 予想と全く違った言葉を言われたものだから、剛は思わず口を丸く開けた。そんな剛を見て流歌は視線を和らげた。次いでにっこりと笑った流歌は、花開いたみたいにあでやかだった。 「あたしは――」 流歌が何か、囁きかけた、その時だった。 「流歌! いた! やっと見つけた!」 背後から、聞き覚えのある声がかけられ、誰かが駆け寄ってくる音が聞こえる。剛の目の前でそちらに顔を向けた流歌は、驚いた声を上げた。 「――梨花!」 つられて振り返ると、確かにあの飯田梨花が、廊下の向こうから駆け寄ってくるところだった。
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