星降る鍵を探して
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2003年07月01日(火) |
星降る鍵を探して3-3-5 |
「新名くん……?」 梨花は呆然と呟いた。 それは恐らく卓だった。 恐らく、というのは、その人物が、黒ずくめの服を着込んでいたからだった。いつものジーンズとTシャツといったラフな格好ではなく、体の動きを阻害しないことを一番に考えて作られたと言うようなデザインの。とても高価そうなのは見ただけでわかった。軽くて薄くて動きやすそうなのに、とても丈夫そうだ。 黒ずくめで大柄なその人影はずいぶん高いところから落ちてきた。どうして落ちてきたんだろう、と梨花は考えていた。あんなところから落ちたらいかに卓といえども無事ではすまないのじゃないだろうか、いや江戸城に比べればずいぶん低いし、卓なら死にゃしないだろうけど、でも今卓はまだ肋骨の治療中だったはずで――それに、卓が今落ちてくるその真下には、恐らく侵入者を捕らえるためなのだろう、頑丈な鉄格子でできた巨大な箱が、ぱっくりと口を開けている。 やばいな、と梨花は思った。あそこに落ちたら鍵を使わないと出て来れない。
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卓は重力に身をゆだねて、来るべき衝撃の瞬間に備えようと全身から力を抜いていた。 真下にはぱっくりと口を開けた四角い鉄格子が見えている。真下にクッションなどといった親切なものは置かれておらず、先ほど落ちてきたチューブの壁と同じようなつるつるすべすべした床しかない。固そうだ。痛そうだ。そう言えば俺今肋骨折れてるんだよな、まだ完治もしていないと言うのにまた落っこちなければならないなんて。理不尽だ。 周囲は明るかった。鉄格子から少し離れた場所には、ちょっとした人垣が出来ている。中心になっているのは大柄な男と、その男にぶら下げられている、小柄な―― ――マイキ? 小柄な人影が、襟首を掴み上げられるようにして男の腕の先にぶら下がっている。 ここからでは顔は見えない。でも卓には一目でわかった。見間違いようがなかった。わかった瞬間に脳が煮えた。どこかで音がした――ぶつり、と。 卓の体は大きな音を立てて鉄格子の中に落ちた。でも、痛みなど全く感じなかった。
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その場にいた全員が卓の出現に気を取られた隙に、梨花は行動を開始した。 とにかく鍵を手に入れないとどうしようもない。 鍵はどこにあるんだろうと一応辺りを見回したが、当然探してる暇なんてなかった。先ほど高津と対峙していたときに、「落とし穴に落ちた人がいて今落ちてくる真っ最中だ」と何とか伝えようとしていた男がいたことを思い出す。てことは落とし穴のモニタがどこかにあるはずで、落とし穴の出口はあそこなんだから、あの鉄格子を開ける鍵はきっとモニタのそばにある。あるはずだ。……あって欲しい。 などと、筋道立てて考えたわけではない。鍵がどこにあるかというのは切羽詰まった梨花の頭に反射的にひらめいたという方が正しい。どすん、と大きな痛そうな音がして卓が床に落ちた瞬間、梨花は高津に飛びついた。ジャンプして、マイキの体を宙づりにしている腕に、思いっきり、がぶり、と。 「……!」 高津は悲鳴は上げなかった。が、不意をつかれてマイキを放した。落下したマイキの体を抱き留めざま、高津の脇を駆け抜けながら、梨花は行儀悪いと思いつつも唾を吐いた。なんて固い腕だ。
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