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2015年03月29日(日) 4年遅れの再出発――ハリルホジッチ初戦勝利で飾る

27日、大分で行われた国際親善試合、日本(FIFAランク53位)対チュニジア(同25位)は2−0で日本が勝った。この試合は「疑惑の」アギーレの退任に伴い急きょ代表監督に就任したバヒド・ハリルホジッチ(62)の初戦。いろいろな面で注目を集めた試合だったが、ハリルホジッチは初戦を白星で飾った。

試合前、ハリルホジッチは「勝負にこだわる」ことを強調していたものの、先発にはFW川又、DF藤春、DF槙野ら新戦力を起用した。以下に試合展開を大雑把に示す。立ち上がりから日本は新戦力を中心に早いプレスと厳しい球際のプレーでチュニジアを圧倒。相手に攻撃の形をつくらせなかった。けっきょく前半は川又の惜しいシュートなどあったが、0−0で終了。後半になるとチュニジアの足が止まり、攻守の動きが鈍くなってきたところで、主力とも言える香川、本田(同38分ゴール)、岡崎(後半33分ゴール)を投入。彼らの活躍で2得点を上げ勝利した。

新監督の采配は親善試合ならではのレギュレーション(交代枠6人)をうまく使った、極めて合理的なものだった。前半、日本は厳しいプレスで追い込み、遠路はるばる北アフリカのチュニジアから25日に来日したばかりの相手を疲労させ、動きが鈍くなった後半になって前出の日本の主力を使って得点した。このような選手起用はもちろん公式戦では不可能。新監督が試合前「勝負にこだわる」と宣言したとおり、言葉どおりの勝利をものにしたことになる。だが、そのことは繰り返すが、公式戦とは次元が異なる。

だからといって、ハリルホジッチの就任初勝利が無意味だと言うわけではない。この勝利の価値は第一に、新戦力のテストをきちんとしたこと、第二に、ブラジルW杯、アジア杯の惨敗で陰りが見えた日本代表人気凋落に歯止めをかけたこと、第三に、主力を試合出場させ活躍させたことで、スポンサー、広告代理店、メディア、代表サポーターを喜ばせたこと、第四にアギーレでミソをつけたJFA幹部の批判をかわせたこと――が挙げられる。なによりも、この勝利に被害者はいない、すべてがハッピーに終わった――と換言できる。

代表の流れを変えたとは言え、日本代表がいきなり強くなったわけではない。ハリルホジッチは、「試合後半、主力投入でチームのレベルが上がった」とコメントしたらしいが、本気ではないだろう。日本代表のクオリティーが上がったわけではなく、相手チュニジアのクオリティーが下がっただけ、なのだから。このような展開はホーム開催の親善試合(練習試合)だからこそのものであって、公式戦では不可能だ。ザッケローニ時代、このような親善試合における日本の勝利を散々見せられ辟易している常識あるサッカーファンにとって、親善試合の結果は参考にすぎない。この手の試合に100勝したからといって、公式戦で勝ち抜ける保証がないことは、ザッケローニ時代に経験済みだ。

もちろん代表監督経験の豊富なハリルホジッチが、そのことを知らないはずがない。彼はなによりも就任初戦勝利がほしかっただけであって、それはそれで仕方がない。

チュニジア戦の見どころは前半にあった。新戦力を中心に堅守速攻型のサッカーを目指していたことを認めよう。ポゼッションよりも早い前への動きを重視した形、球際の激しさ、相手に当たり負けしない闘争心が垣間見えた。疲労度が低かったチュニジアに当たり負けしなかった先発陣のフィジカルの強さを認めよう。世界の強豪に対して「自分たちのサッカーをするだけ」と己惚れていたブラジル組への否定が彼らに見えたことを認めよう。FW川又、FW永井らに得点という結果はなかったけれど、彼らの献身的な動きに希望を見た。

残念なのは、世界サッカーのトレンド変化がブラジル大会前に始まっていたのにもかかわらず、日本代表(ブラジル組)はザッケローニの下、緩慢な「自分たちのサッカー」にこだわり続けていたことだ。ブラジルで負け、アジア杯で負けて、やっと「自分たちのサッカー」が世界から取り残されている現実を知ったというわけだ。いまさらながら、JFA幹部の無知の罪は重い、と言わなければなるまい。日本は4年、世界から遅れての再出発である。


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