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2012年09月11日(火) 日本野球に必要なセイバーメトリクス的アプローチ

読売原監督の犠牲バント作戦の批判を当該コラムに書いた数日後のこと、偶然チャンネルを合わせたCSのスポーツチャンネルにおいて、統計学の視点から犠牲バント作戦を批判した番組に巡り合った。それは、どこかの大学の統計学の先生と読売ジャイアンツ等でプレーした仁志敏久氏の対談形式のものだった。偶然であったため、前半部分は見ていないし詳しい数字もメモしていない。しかも、所要のため番組を最後まで観ていないことをお断りしておく。

さはさりながら、筆者が見始めたのは「ノーアウト1塁でバントはするな」という単元であった。後日、グーグルで検索したところ、この先生は『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート1 』という単行本の著者の一人らしい。 筆者はまだこの本を読んでいないが、誠に興味深いアプローチだ。ちなみに、セイバーメトリクスとは、Wikipediaによると、アメリカ野球学会の略称 SABR(Society for American Baseball Research)と測定基準(metrics)を組み合わせた造語。ジム・アルバート、ジェイ・ベネットが著した『メジャーリーグの数理科学(原題Curve Ball)』が、セイバーメトリクスについてわかりやすく解説しているという。

さて、筆者の番組の記憶では、ノーアウト1塁で犠牲バントをした後の得点確率は、強行したときの確率よりかなり低い。つまり、「固い」といわれる犠牲バント作戦はイメージにすぎないことになる。ちなみに、ノーアウトにおける犠牲バント作戦が強行作戦より得点確率が高いのは、ランナー1・2塁の場合だけであった。この統計がバント失敗をどのように組み入れているかはわからないのだが、かりに犠牲バントが成功した場合のみを比較したものならば、実際の結果は変わってくる。ランナー1・2のバントの成功率はかなり低いからだ。犠牲バント作戦による得点確率は、すべての場合において、強行作戦を下回るのではないかと筆者は推測する。しかも、筆者が指摘した初回、すなわち、投手が不安定な状況における犠牲バント作戦は、誠に理に合わないものというほかない。

米国メジャーリーグ(MLB)が日本のプロ野球(NPB)に勝るところは、統計的アプローチの綿密さにあるといわれている。たとえば、新人のスカウティングにおいては、選手の能力を点検する指標が細分化され、貢献度が厳密に数値化されるという。スピードガンで投手の球速を計るだけがスカウトの仕事ではない。もちろん、現役選手の契約更新の際の年俸交渉にも、多様な指標により数値化され決定に至る。

NPBを取り巻く環境の特殊性は、現役時代に優れた実績と人気を誇った選手が引退して「解説者」となり、彼らがスポーツメディアに巣食って、「仕事」をしている部分ではないか。彼らはまったく、野球について勉強していない。ノーアウト1塁ならば、犠牲バントが「固い」作戦であり、強硬策が「ギャンブル」であり、強行して併殺におわれば監督の采配が疑問視され、犠牲バントに失敗すれば、失敗した選手の技術が低い―――と評価するだけなのだ。状況を結果論として話す者を解説者とは言わない。プロフェッショナルな解説者ならば、選手の個性、特殊技術、練習方法、食事、試合前の練習時における調子の良し悪し・・・を的確に視聴者に伝えるべきなのだ。もちろん企業秘密もあるだろうから、全部を情報公開しろとは言わない。

たとえば練習方法について―――NPBでは、概ね現役時代に200勝以上した投手が解説者となるケースが多く、解説者は、投手は下半身を鍛えろ、足腰を鍛えろ、走れ、という。下半身強化が重要でないとはいわないが、いまではトレーニングの方法は高度化し、それにともなう強化方法、強化器具の開発が進んでいる。いまどき、グラウンド100周、うさぎ跳び50周のしごきが通用するはずがない。投手が鍛えるべき下半身はどこの筋肉で、どのような方法があるのか、それが重要ではないか。還暦を過ぎた解説者が行ってきた強化方法は古い。そのことを自覚してほしい。

投手の投球数制限もしかり。このことは何度も書いたことなので繰り返さないが、肩の消耗の観点と、各投手の能力・資質の適性配置の観点から、投手分業制が最善策。にもかかわらず、先発投手、とりわけ「エース」は、完投しなければいけないと、NPBの解説者は力説する。

このような、まさに「外野の声」がNPBの一般知識、一般常識、裏付けなき定説となり、NPBの現場がそれに従わざるを得ない空気を醸し出す。NPBのファンもスポーツメディアに巣食う元名選手の声に耳を傾け、それに基づいて、贔屓のチームを見るようになる。贔屓のチームの成績が落ちると、解説者の批判に同調し、監督、コーチを批判するようになる。そうやって、解説者のうちの何人かは、成績の悪かったチームの次シーズンの監督、コーチの職を得る。そこを追われた前監督・コーチは解説者席に座って・・・というわけだ。このような循環がNPBの近代化を阻んでいる。一度、解説者という職を選んだ以上、現場復帰はあきらめるくらいの覚悟がほしい。監督・コーチ⇔解説者の椅子取りゲームはいい加減にしてほしい。

スポーツメディアがセイバーメトリクスを取り上げないのは、解説者不要を立証してしまうからか。


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tram