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2011年12月27日(火) CWCを日テレが中継する不幸

サッカー・トヨタ・クラブW杯(CWC)で優勝したバルセロナのリオネル・メッシに対して、“間抜け”な質問をしたとして、お笑いタレントの明石家さんまが海外メディアから酷評されたという。バルセロナがサントスとの試合を終えた直後、TV局がメッシを呼び出し、インタビュアーのお笑いタレントが「老後はどうしますか」という質問をしたらしい。さんまは、サッカーファン、サッカー通として知られている。筆者は、この試合の中継は見たが、試合終了とともにチャンネルを切り替えたので、このシーンは見ていない。

さて、CWCがもっている構造的欠陥については、先の当コラムにて詳述しているので繰り返さない。さんまの間抜け・インタビューの問題は、CWCが、日本のTV局=日本テレビによって中継されていることにある。CWCを日本テレビが中継しているということは、日本のサッカーファンにとって、最大の不幸の一つだと言って過言でない。さんまの間抜け・インタビューは、そのことの象徴にすぎない。

問題点を列挙しておこう。第一は、サッカー中継にお笑いタレント等が複数出演することだ。彼らが世界のサッカー事情、なかんずく、各国のリーグ事情に詳しいとは思えない。筆者には彼らが顔を出す理由がまったく理解できない。お揃いのマフラーを巻いたサッカーとは縁もゆかりもないお笑いタレントが集い、わけのわからないしゃべりを繰り広げるCWCテレビ中継は、筆者の目には異様にうつる。

第二は、専門の解説者の力量不足。同大会中継に携わる解説者は、筆者の認識では3名だったと思われる。そのうち、試合ごとに2名が交代で出演していたように思う。いずれにしても、同大会解説陣は、お笑いタレント同様、大陸別に出場したチームの特色について語らない。もちろん、大陸のサッカー事情、優勝国のリーグ事情等について語らない。おそらく知らないのではないか。

たとえば、南米代表を決定するのがコパ・リベルタドーレスであることは普通のサッカーファンならば承知のことだろう。では、この大会はどういうシステムで行われているのか、あるいは、今回出場のサントスはどのように勝ち上がってきたのか――等の詳細は、試合前もしくはハーフタイム等の空き時間に十分な説明があってしかるべきだろう。

北中米はどうなのか。北中米代表を決定する大会はなんというのか。何カ国が参加して、どのような戦い方をしたのか。ワールドカップでは強い米国だが、クラブレベルではこの大会に勝ち上がれない理由は何か。

アフリカ代表でも同じようなことがいえる。ワールドカップで強く、欧州強豪リーグに多数の名選手を送り出しているコートジボワール、カメルーンのクラブではなく、マグレブ・アラブ系のチュニジアのクラブがなぜ、今回出てくるのか。アフリカ大会はどのようなシステムで、どのような戦いが行われたのか。

そればかりではない。わが国が属しているアジアの中でも、中東のリーグはわからないことが多い。今回出場したアルサッドは、アラブ系のカタールリーグに属しているが、アフリカ系帰化選手が多く見うけられた。このことは、カタールリーグの特徴なのか、アラブ諸国全体に言えるのか、それとも、リッチな産油国にのみ見うけられる特徴か・・・

オセアニアに至っては、まったくのブラック・ボックスだと言っていい。オセアニア地域のFIFA加盟国・地域は、アメリカ領サモア、クック諸島、サモア、パプアニューギニア、フィジー、バヌアツ、ソロモン諸島、ニューカレドニア、タヒチ、トンガ、そして、今回優勝クラブを出したニュージーランドである。この顔ぶれでラグビーならば、世界レベルだと思われるが、サッカーとなるとどうなのか。

オセアニアのサッカーを貶めるつもりはさらさらないが、欧州、南米はもちろん、アジア、アフリカよりも相当力が落ちるのは明白だ。いずれにしても、大陸ごとのサッカー事情を視聴者に伝えることが、CWC中継局の使命だと筆者は思うのだが。

第三は、決勝前から、“ネイマール”と“メッシ”の「対決」を煽ったことだ。サントスのネイマール及びバルセロナのメッシは、ともに、才能あふれるサッカー選手だが、サッカーがチームプレーであることは、そのことよりも確かであり、重要なことではないか。

本大会を中継した日本テレビは読売系のテレビ局で、読売といえば、プロ野球の「巨人軍」のオーナー企業。「巨人軍」の黄金期のスターといえばON(王と長嶋)だ。読売は、相も変わらず、スター選手を2人並べて悦に入っているというわけ。

決勝は、読売(日本テレビ)の思惑どおり、サントスとバルセロナの対決になったものの、ネイマールに見せ場はなく、メッシは大活躍した。しかし、メッシの活躍よりも、バルセロナの超人的なパスサッカーに観衆は魅せられたはずだ。メッシは、その中で自分の才能を発揮できたのだ。だからといって、ネイマールがメッシよりも劣っているとはいえない。繰り返すが、サッカーはチームプレーなのだから、メッシがネイマールに勝ったのではなく、バルセロナがサントスに圧勝しただけの話だ。

では、バルセロナのメカニカルかつシステマティックなパスサッカーはどうやって完成系に近づいたのか。だれが、どのような理論で指導し、選手はどのような練習をしているのか・・・わたしたちは、バルセロナのサッカーを知りたい。「機械」と称されるまでのバルセロナのサッカーの正確さの秘密を知りたい。そのようなニーズに、中継テレビ局である日本テレビは、まったくこたえてくれない。有り余る時間を、お笑いタレントのくだらないギャグと素人解説者の当たり障りのない語りで、つぶすばかりだ。

サッカー中継は、サッカーの中継なのであって、無用なショーアップは不要だ。いわんや、CWCは欧州、南米、北中米、アジア、アフリカ、オセアニアの王者同士の大会ではないか。試合こそが最良のコンテンツではないのか。

先述した中継テレビ局への筆者の要望が叶わないのならば、それはそれでかまわない、無理は言わない。ただただ、選手の入場から試合の終わりまで、お笑いタレント及び愚かな解説者抜きで、試合を中継してくれれば、それでいい。


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