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2011年09月28日(水) JもしくはKの悲劇―狙われたキム・ボギョン―

アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝第2戦、J1勢で唯一8強入りしていたセレッソ大阪は敵地で全北現代(韓国)に1−6で敗れ、2戦合計5−9で準々決勝敗退が決まった。(※第一戦はC大阪が4−3で全北に勝利)

予想外の一方的な点差による、C大阪の大敗となったのだが、筆者は納得がいかない。この試合を決定づけたのは、前半7分、C大阪の韓国人選手キム・ボギョンが全北のチェ・チョルスンのヘッドバット(headbutt)を顔面に受け、流血退場したところで決まったようなものだからだ。キム・ボギョンは顔面骨折の重傷だという。

映像を見る限り、キム・ボギョンに対するヘッドバットは意図的なものと推測できる。競り合いによるぶつかりあいではない。試合開始から、全北はC大阪に強いプレスをかけてきた。初戦で負けているチームなのだから、ホームで圧力をかけることは当然だが、全北の選手たちのプレスには、試合の主導権を握ろうという意図とは異なる目的をもっていたことは明白だった。

その予兆となる第一のプレーが試合開始直後のC大阪のGKキム・ジンヒョンに対する接触プレーだ。C大阪のゴール前に上がったセンタリングをGKキム・ジンヒョンと競り合った全北の選手が体を寄せ、意図的に手をかぶせキャッチングを妨害した。Jリーグでプレーする韓国人選手への意図的な嫌がらせである。

ところが、主審はこのプレーに対して、キーパーチャージをとらなかった。ホームに甘いジャッジという認識が全北の選手に広がったことだろう。続いて、前5分、全北のキム・サンシクが強烈な違法タックルをキム・ボギョンにかませ、イエローカードを受けた。これが第二のプレーであり、問題のプレーの序奏に該当する。

その直後、問題の第三のプレーが起きた。前出のとおり、C大阪の韓国人選手、キム・ボギョンが全北のチェ・チョルスンの頭突きを受け、顔面骨折で退場した。繰り返すが、チェ・チョルスンの頭突きは、韓国人でありながら日本のJリーグでプレーするキム・ボギョンを痛めつけるため、故意に行われたものと思われる。

前述の全北の選手がC大阪の二人の韓国人選手に対して行った3つのファウルは関連性がある。まず、GKキム・ジンヒョンへの接触プレーがファウルにならなかったことを受けて、この試合の主審がホーム有利の判定をすることを全北選手が了解した。それを受けて、キム・サンシクが違法なタックルを敢行した。このプレーに対してイエローは出たものの、あまり強い注意を受けなかった。このことを受けて、より一層ラフなプレーがC大阪の韓国人選手に向けて、牙をむいた。チェ・チョルスンへのヘッドバットは、一回目よりも二回目、二回目よりは三回目と、暴力の度合いがヒートアップした結果であることが確認できる。

TV映像のリプレーを見る限り、ヘッドバットはボールと関係のない場面で行われたことは明らか。つまり、一発レッドカードが妥当だった。このようなラフプレーにレッドが出ないとなれば、この試合の主審は全北の選手に一発レッドを出さない、というのが全北・C大阪の選手たちの了解事項となったに違いない。

前半7分のキム・ボギョンの流血退場以降、C大阪の選手たちは高いボールに対して真剣に競らなくなった。怖くて競れないのだろう。バイタルエリアの守備も脆弱だった。この試合の行方は、前半7分に決まったようなものだ。全北のゴール・ラッシュは、C大阪がリスクを冒して攻撃的に仕掛けた結果、全北の反撃に屈したものではない。全北が、恐怖心から戦う意欲をなくしたC大阪を蹂躙したまでの話である。

そればかりではない。C大阪の場合、主力の清武が故障を押して先発した。故障者が先発出場するということは、途中交代が前提である。つまり、C大阪の交代カード3枚は事実上、2枚しかなかった。その2枚のうちの1枚が前半早々で戦術上の交代でなく、まったく不本意な負傷交代で使わざるを得なくなったのだ。しかも、負傷したのがC大阪の心臓ともいえる中盤のキーマン、キム・ボギョン。C大阪がこれで劣勢に陥ったのは火を見るよりも明らかだった。

こういう試合は面白くない。主審のためらいが、試合を壊したといって過言ではない。ノックダウンシステムのホーム&アウエーの第二戦目、アウエーで負けているチームの選手に一発レッドカードは出しにくい。だが、ラフプレーで相手の主力選手を壊し、試合を優位に運ぼうというのは、グローバルな現代サッカーでは通じない。しかも、犠牲になったのが、日本でプレーする韓国人選手であったことが嘆かわしい。

2002年のW杯が日韓共催で行われたことを契機として、日韓の近代史におけるわだかまりが超越され、両国の距離を著しく近づけたと言われた。世界言語であるサッカーには、そのようなパワーがあると称賛されもした。ところが、全北―C大阪というACLの準々決勝において、韓国人選手が相手方の自国選手を傷つけるという愚挙が行われてしまった。

欧州CLの試合で、英国のクラブとスペインのクラブが戦ったとしよう。英国クラブがチェルシーだったならば、スペイン人のフェンルナンド・トーレスが、たとえば、スペインのクラブであるマドリードやバルセロナの選手から、危険なプレーを意図的に仕掛けられるだろうか。今日、そういう愚行はまず行われない。かつてそういうケースがあったかもしれないが、グローバル化した現代サッカー市場においては、まず起こりえない。

ACLにおいて、日(J)韓(K)の選手が入り乱れて試合をすることになるのは今後も必然だ。であるならば、キム・ボギョンの悲劇を二度と繰り返さないためにはどうしたらいいのか。

ラフプレーという愚挙には、制裁(退場)が必要である。ACLがアジアの複雑な現代史の清算の場となってはいけない。ACLを裁く審判団には、厳正なジャッジが求められる。


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