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2010年07月04日(日) 南米の2強、ベスト4に進めず

ベスト4には、スペイン、オランダ、ドイツ、ウルグアイが残り、なんと欧州勢が過半を占めた。ベスト8の時点までは、南米が4強を独占するかのような勢いだったのに・・・サッカーというものは、予想が難しい競技であることよ。

(1)神経質な笛――ブラジル、ベスト4に進めず

オランダが相手ブラジルのフェリペメロの「活躍」で勝った。出だしはブラジルが圧倒的に優勢だっただけに、まさかの結果だ。

オランダは「重戦車」、ブラジルは「ハイテク兵器」というイメージだった。前半10分、ブラジルのFWロビーニョが「ハイテク兵器」さながら、「重戦車」オランダから先取点を奪った。一本の縦パスに反応した、誠に鮮やかな得点シーンだった。「重戦車」はなすすべがなかった。

だが、先制した「ハイテク兵器」ブラジルも、リズムがつかめない。一方のリードされた「重戦車」オランダもエンジンがかからず、動きが重い。両軍を悩ませたのが、この試合の日本人主審の神経質な笛だった。ファウルの基準も曖昧、リスタート開始の合図の笛もワンテンポ遅い。両軍選手は流れないゲームに苛立ちを募らせた。この傾向は、ブラジルに顕著で、「ハイテク兵器」の調子が狂い始めていたのだが、前半は破綻をきたすことなく、ただただ、ぎこちないまま終了した。

後半8分、ブラジルのMFフェリペメロのオウンゴール(公式記録はオランダのスナイデルの得点に訂正)でオランダが1点を返した。「重戦車」が得点を狙えるのは、「ハイテク兵器」がオフ状態にあるセットプレーからしかない。自慢の守備が綻んで、同点となったブラジルは、ますますリズムが出ない。「ハイテク兵器」の狂いが段々と大きくなり始める。

後半23分、オランダのスナイデルが逆転のヘッドを決める。この得点もセットプレーからだった。狂いが大きくなった「ハイテク兵器」ブラジル、やっとエンジンが全開した「重戦車」オランダ。リズムを取り戻せない神経質な笛が試合を制御している以上、戦いのヘゲモニーは「ハイテク兵器」よりも「重戦車」の側にあった。

後半28分、フェリペメロがオランダ選手を踏みつけて一発レッド。一人少なくなったブラジルは最後まで攻撃のテンポがつかめないまま、終了の笛を聞く。ブラジルのワールドカップが終わった。

(2)溌溂ドイツ

ドイツが立ち上がり3分、セットプレーから先取点を奪う。集中を欠いたアルゼンチン、不用意だった。試合はここから、後半23分まで――ドイツが追加点を上げるまでのおよそ60分間――の攻防に集約されていた。アルゼンチンの攻撃にかける気迫はすさまじかったが、得点は奪えなかった。主因は、ドイツがメッシを完封したからだ。ドイツの守備は、メッシにスペースを与えないという方針で、徹底していた。

残り20分を切って2点リードされたアルゼンチンに、試合を逆転するだけのパワーは残っていなかった。豊富な運動量でテベスがボールをもっても、彼は孤立を余儀なくされた。

ドイツは、トップ下に配置されたメッシを前から押さえにかかっていた。それだけに、彼のポジションを少し上げてみる選択もあったのではないか。マラドーナ監督は相手守備陣がメッシに集中することを餌にして、メッシから前線に決定的チャンスを生むパスを期待していたのだろうか。ドイツは、メッシがパスを配給する前に、メッシをつぶしにかかっていたように思えたが。

ベスト8までは、マラドーナのカリスマ性に率いられ、自由奔放なサッカーで勝ってきたアルゼンチンだが、世界の壁は高かった。

(3)「ハンド」が多いのは、マラドーナがいるせい?

ウルグアイがガーナの決勝点を「ハンド」で防ぎ、PK戦にもちこんで勝ち進んだ。勝ちは勝ちにちがいないが、ガーナが、相手の汚い反則を無化するだけのパワーを持ち得なかったことが悔やまれる。PKの成功の確率が何パーセントあるのかしらないが、こういう勝利を許してしまうのはいただけない。

それにしても、本大会では「ハンド」の反則が目立つような気がする。ワールドカップ・メキシコ大会(1986年)準々決勝・対イングランド戦でアルゼンチンのマラドーナの「ハンド」の反則を「神の手」としてもてはやし、彼を批判しないことがワールドカップにおける「ハンド」の流行を生んでいる。「ハンド」蔓延の責任の一端は、世界のサッカージャーナリズムにもある。

奇しくも、「神の手」マラドーナがアルゼンチン代表監督として本大会に復帰し、ピッチサイドで派手なアクションを繰り返すことが話題を呼び、本大会の目玉の1つであるかのように扱われている。反則が伝説化し、それが賢いプレーであるかのような価値観が醸成されている。そして、その本人が英雄視されている。世界のサッカー報道は歪みきっている。

それだけではない。準々決勝のガーナ戦で、1−1の延長後半終了直前にガーナのシュートを手ではね返し退場処分を受けたFW・スアレスのプレーについて、同国の有力新聞が、勝利を呼び込んだとして「ビバ(万歳)」などと報じ祝福したという。

試合は、同選手の反則によるPKをガーナが外し、同点のまま突入したPK戦でウルグアイが勝利。ウルグアイの新聞パイス紙は「スアレスは歴史に名を刻んだ」と評価。レプブリカ紙は1986年のメキシコ大会でのアルゼンチンのマラドーナ選手による「神の手ゴール」と比べ「これ以上のドラマはない。スアレスは『手』で退場になった」とした。ウルティマスノティシアス紙も「奇跡は多々あるものではないが、今回は起きた」と伝えた。

決勝ゴールを防いだ「ハンド」の反則が、退場とPKで相殺されたと考えるならば、PKを外したのはガーナのミスという論理である。ルールどおりの罰則を受けた結果、相手がその恩恵に与れずミスをしたことは自分たちが犯した反則とは関係がない、ということか。

しかし、スアレスがウルグアイの国内リーグでプレーをしていたと仮定しよう。国内リーグ王者を決定するような大事な試合、しかもアウエーだったとしたら、スアレスは同じような局面で「ハンド」ができたかどうか疑問である。もし、彼がそのような局面で「ハンド」を犯したとしたら、彼は相手サポーターから命を狙われる可能性さえある。

スアレスは、ワールドカップはお祭りだから命を狙われる可能性はない、大丈夫だと考え、そのうえで「ハンド」をしたのか、それとも、たとえ、命を狙われても、祖国の勝利のためなら反則も厭わないという覚悟のうえで「ハンド」をしたのか、はたまた、瞬間的に手が出たのか――は、ここではわからない。いずれにしても、後味の悪いウルグアイの“勝利”である。


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