2009年07月27日(月) |
J1のレベルダウンは深刻 |
第19節2日目の横浜と磐田は1−1のドロー。猛暑の中、前後半に1点ずつ取り合っての攻防は見応えがあったという見方もあるが、筆者には現在のJ1の深刻なレベルダウンを象徴する試合に見えた。
先制点は磐田だ。得点は前半6分、韓国代表のイ・グノが上げた。イのFWとしての実力については、アジアで1、2を争うものであることは間違いない。彼がフランス・リーグのパリ・サンジェルマンに移籍できなかった経緯は不明であるものの、とりあえず、磐田に復帰できたことは、才能が枯渇しないという意味では喜ばしい限りである。
そんなわけで、イ・グノはおよそ1月間、実戦から遠ざかっていた。そのことはいたしかたない。そんなイ・グノが、横浜戦に先発して、先制点をあげてしまう。悲しいかな、それを許してしまうのが、いまのJリーグの実力である。
それだけではない。一方の横浜も同じく韓国代表・金根煥のワントップのフォーメーションできた。リードされた横浜の同点弾は後半5分、金根煥が上げたのである。金は高さを誇るDFで、FWに転向したのは今シーズンという選手。
韓国代表の2選手が、期待通りの働きをしたという事実が残るものの、こんなに簡単に活躍させていいのか、という心配が残る。もちろん、サッカーである以上、FWが1人で点を取るわけではない。イ・グノの場合は、左サイドから崩した、DF山本脩のラストパスがあり、金根煥の場合は、山瀬のドリブルからセンタリングがあった。2つの得点シーンは、チャンスメークが優れているのであって、決めた韓国選手よりも、山本脩、山瀬を讃えるべきだ、という見方もある。だが、フィニッシュに持ち込まれたDFの責任は免れない。2つの得点シーンは、JリーグのDFの根源的な甘さが浮かびあがった結果のように思える。
さて、韓国と日本は、日韓オールスター戦で激突することになっている。Jリーグ監督に就任する鹿島のオリベイラ(ブラジル)は、日韓は南米で言えば、ブラジルとアルゼンチンのようなライバル関係にある、と言っている。南米では、リベルタドーレス杯の予選しかり、W杯予選しかり、もちろん本戦においても、両国の代表チーム、両国のクラブチーム、そして、両国の選手たちは、それぞれの位相で、非妥協的な戦いを続けてきた。両国のライバル意識が、南米全体のレベルを上げてきた。
だから、筆者の価値観では、Jリーグで韓国選手が活躍することを手放しで喜ぶわけにはいかないのである。それは人種差別でもなければ、偏狭なナショナリズムでもない。国別に育まれた、サッカーのカルチャーなのである。コンディションが万全でないライバル国の選手、そして、DFからFWにコンバートされて間もないライバル国の選手が、即席でヒーローになることは、大げさに言えば、敵対する国の屈辱以外のなにものでもないのである。
さて、J1は19節を終え、オリベイラ監督が率いる鹿島が、ほぼ独走状態である。その中にあって、降格圏に低迷する柏は、ブラジル人のネルシーニョを監督に迎えた。前節柏は、ネルシーニョがベンチ外から指揮をとる変則スタイルでトップを行く、鹿島スタジアムに乗り込んだ。
ネルシーニョが独走鹿島に対してとった作戦は、3バック、2ボランチである。鹿島の強力2トップ(興絽、マルキーニョス)を真正面で封じ込むシステムである。結果は、ご存知のとおり、1−1のドローであった。だが、先制点は柏が上げたのである。前半ロスタイム、右サイドハーフにポジションを上げたMF村上がゴール。戦前、鹿島が1点のビハインドで前半を折り返すことをだれが予想しただろうか。
リードされた鹿島は後半11分、直前に交代出場したDF新井場の左クロスをFWマルキーニョスが頭で鮮やかに合わせ、同点に追いついた。地力では、やはり鹿島のほうが上なのである。
柏の3バックは、サイドハーフが得点に絡んだという意味で利点を発揮し、逆に、両サイドに大きなスペースを与え、鹿島にうまく使われたという意味では、弱点となった。それでも、結果としては、低迷する柏が、独走する鹿島のホームで、勝ち点1を上げたのである。何が言いたいのかといえば、プロの監督は、作戦を立て実行し結果を出さなければいけないということだ。柏の監督がネルシーニョに代わっていなければ、3バックもなければ、柏の勝ち点1もなかった可能性のほうが高い。
これもJ1のレベルダウンを如実に示す試合である。Jリーグに限らず、日本のサッカー文化では、結果よりも、自分たちのサッカースタイルを貫くことが求められる。なんとも奇妙なカルチャーではないか。公式試合は練習ではない。負ければ経営も成り立たないのである。監督は、相手チームに戦力で劣る場合には、相手の良さを消す作戦を立てなければいけない。ゲームプランである。なんとかして、勝ち点を上げる義務があるのである。それができなければ、失職するのである。選手も監督も生活基盤を失うという緊張と厳しさの中で鍛え上げなければ、絶対に強くなれない、レベルアップはない。
J1においては、折り返し時点で、大分(18位)、柏(17位)、千葉(16位)の監督が更迭された(神戸も代わったが、引き抜きらしいので含めない)。当然である。降格圏に落ち込んだ3チームが抱える事情は、それぞれ異なるものがあろうが、チームの建て直しのためには監督更迭は必然である。ただし、前任者より優れた指揮官がその後を受けるのでなければ、交代のための交代で終わってしまう。監督未経験者が「昇格」する「人事」で強化といえるのか。J1の指導者における人材不足も深刻であり、采配のレベルダウンも深刻である。
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