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2006年02月04日(土) 呪われた神様

●宮崎キャンプ終了
宮崎キャンプを終えた日本代表が米国遠征に旅立つ。ワールドカップ・イヤー、日本代表が本格的に始動する。
今回の代表メンバーを見てみよう。
GK=川口能活(磐田)、下田崇(広島)、 都築龍太(浦和)
DF=田中誠(磐田)、宮本恒靖(ガ大阪)、三都主(浦和)、中澤佑二(横浜)、坪井慶介(浦和)、村井慎二(磐田)、加地亮(ガ大阪)、駒野友一(広島)、茂庭照幸(F東京)
MF=福西崇史(磐田)、小笠原満男(鹿島)、本山雅志(鹿島)、遠藤保仁(ガ大阪)、阿部勇樹(千葉)、長谷部誠(浦和)、小野伸二(浦和)
FW= 久保竜彦(横浜F)、巻誠一郎(千葉)、佐藤寿人(広島)
(※ 鈴木隆行(レッドスター)は移籍のため、土肥洋一(FC東京)、曽ヶ端準(鹿島)はけがのため不参加)
海外組が召集できないこの時期、今回の代表メンバーがそっくり、ドイツに行く可能性はない。では、だれが残り、だれが入れ替わるのか。

●4年前のトルシエの呪縛
2002年、日韓ワールド杯決勝トーナメントで日本代表がベスト8を賭けたトルコ戦に負けた後、ときの日本代表監督フィリップ・トルシエは、記者会見で次のように語った。
「私にとっては、これで4年間の冒険が終わる。しかし、日本サッカーはまだ終わりではない。日本には海外でのビッグゲームの経験が不足している。日本は、もっと海外遠征をするべきだ」
さらに、「2006年(ドイツW杯へ向けての日本)についてどう思うか」という問に対して、
「選手はみんなまだ若い。いま24歳の選手は(2006年に)28歳だ。しかし、前園や城は自信を持ち過ぎて地獄に落ちた。マスコミには気をつけなければいけない。前園や城のようにならず、自分を磨いていけば、素晴らしいチームになるだろう」
トルシエは、ベスト16という勲章を得た日本代表選手の将来を祝福すると同時に、意味深長な警告を忘れなかった。彼は日韓大会の代表選手が順調に成長すれば、ドイツ大会でも十分戦えるという確信をつかんでいるかのように、日本国民に向けて語った。
しかし、筆者はトルシエの言葉を信じなかった。トルシエはドイツ大会で日本代表が日韓大会以上の成績を上げたならば、それは自分の育てた選手達が順調に成長した結果だ、といいたかったのだ。トルシエは、自分が日韓、ドイツの2大会の功労者であると主張したかったのだ。トルシエは、ドイツ大会で日本が予選敗退すれば、選手が城や前園のように自分を失ったからだ、という保険をかけることを忘れていない。保険がなくとも、後任監督の責任にすることも可能だ。ドイツ大会の結果がどちらに転んでも、トルシエの功績が損なわれることはない。
したたかなトルシエの予言を頭から信じた人物が一人いた。いうまでもなく、現日本代表監督のジーコだ。彼は日韓大会終了後、代表戦といえば、トルシエが育てた日韓大会の代表選手を中心にしたメンバーを組んできた。ヒデを筆頭に、海外移籍をした柳沢、鈴木、稲本、小野(浦和に復帰)、中田浩、そして、日韓大会を病気欠場した高原に対する期待は並外れて大きかった。世論が海外組偏重に異議を唱え始めてやっと、Jリーグで実績のある、久保、大黒、玉田、遠藤、巻、阿部、村井らを招集した。アジア予選では、久保、大黒が日本を救ったことは記憶に新しい。
筆者は、トルシエの確信的予言の呪縛に嵌ったジーコの選手選考に疑問をもっている。トルシエは選手が順調に成長できなかった事例として、城、前園を挙げたが、彼らが成長しなかった理由は、自信過剰や怠慢だけではない。若き日に輝きをみせたすべての選手が年齢とともに力をつけ、偉大な選手になるとは限らない。一般的には、スポーツ選手は20代後半で成熟期を迎える。体力の充実、技術の向上、そして、経験が加わるからだ。しかし、選手それぞれ、ピークを迎える年齢には個人差がある。20代中盤でピークを迎える者もいれば、20代後半に迎える者もいる。
また一方、加齢には、モチベーションの低下というマイナス面もある。目指す山に一度登ってしまった者が、4年後に同じ山に登りたいと思うだろうか。
それだけではない。ジーコは個人の成長が代表チームの成長に直結すると考えたようだが、この発想はきわめて単眼的だ。日韓大会の日本代表選手が4年間切磋琢磨し経験を積めば、より強力な代表チームができあがる、と考えたとすれば、それはいかにも観念的だ。

●神のみぞ知る
あっという間の4年間。02年の日韓の狂騒から、今度はドイツ全土をワールドカップの喧騒が包みこむ。トルシエは予選突破の勲章を胸に輝かせながら、ドイツ大会までもが自分の冒険であるかのような呪いをかけた。トルシエの後を受けたナイーブなジーコは、トルシエの子供達の成長を信じ、もっと大きな勲章がもらえると錯覚した。おそらく、ジーコは、ヒデ、小野、稲本、鈴木、柳沢、小笠原、宮本、三都主、福西を代表に選び、トルシエが選ばなかった俊輔と病気で代表落ちした高原を加えて、「最強メンバー」を組んだつもりになるだろう。ドイツ大会の初戦、対豪州戦のピッチには、FW=柳沢・高原、MF=俊輔・小野・ヒデ・稲本、DF=三都主・加地、中澤、宮本が立つことになる。高原、中澤、俊輔の3人は日韓大会で代表落ちしたけれど、当時、代表とほぼ同程度の実力の持ち主だった。先述したとおり高原は病気で代表から落ち、中澤はベテラン秋田にその座を譲り、(当時の)俊輔はトルシエが求めたフィジカル面で、レベルに達していなかった。驚いたことに、ドイツ大会の新戦力といえば、唯一加地一人ということになる可能性も高い。
ドイツ大会をテレビ中継で見るとき、筆者は、日本代表メンバーが4歳年をとった日韓大会の代表メンバーであることに驚き戸惑う。ジーコには、冒険も挑戦もないことを知って、改めて落胆する。トルシエの呪縛の恐ろしさよ。
気の早い話だが、ドイツ大会で日本代表の挑戦が終わったとき、ジーコならば、「私の冒険はまだ終わらない」とコメントするに違いない。ジーコには、日本を舞台にした、新しい事業(カネもうけ)が待っている。ジーコは代表監督を辞めても日本に留まるに違いない。筆者には、極めて鬱陶しい存在なのだが。
いずれにしても、代表メンバーはわずか23人。だれがその座を射止めるか、そして、日本はドイツ大会で予選突破できるのだろうか――そのこたえは、前者(ジーコ)も後者(本当の神様)も「神」のみが知っている、というわけだ。


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