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2005年12月17日(土) カズは伝説ではない

サッカーのクラブ世界一決定戦「FIFAクラブワールドチャンピオンシップ トヨタカップ ジャパン2005」の5位決定戦が16日、東京・国立競技場で行われ、三浦知良(カズ)が所属するシドニーFC(オーストラリア)が2−1でアルアハリ(エジプト)に勝利した。負けたアルアハリは、スピード、テクニック、組織力、ボール保持率でシドニーFCを圧倒したが、たびたびの決定機を外しまくって、負けてしまった。サッカーというのは、本当に分からないスポーツだ。まさかという感じ。
シドニーはカズのおかげでホームの試合のよう。監督のリトバルスキーもJリーグに馴染みな人物なだけに、アルアハリには気の毒だった。審判の上川氏もアルアハリに不利な判定をしてたっけ。
それはそれとして、鼻についたのは、放送権を獲得した読売グループ(G)の空騒ぎ。この大会には開催国日本のクラブが出ていない。予選で落ちた。大会が盛り上がるはずがない。そこで放送権を持っている読売G系テレビ局と大手広告代理店がカズに白羽の矢を立てた。カズをオセアニア代表として出場するシドニーFCに移籍させた。大会前、カズがAリーグ(オーストラリアのリーグ戦)に数試合出場したのち、カズを日本に「凱旋」帰国させた。どうみたって、無理筋である。Aリーグは、今年からプロリーグとしてのスタートを切ったばかり。シドニーFCには、ヨーク(英国プレミア)を除けば、プロ経験の浅い選手ばかり。できたてのAリーグに負けたアルアハリも酷いものだけれど、サッカーにはこういうこともある。
カズがいなければ、アマに毛が生えたようなシドニーFCとスターのいないアルアハリの5位決定戦は、まさに消化試合そのもの。カズがいなければ、関心を示す日本人は皆無に等しかった。当然、チケットも売れないし視聴率も上がらない。しかし、読売Gが総力挙げての「カズ・キャンペーン」が功を奏し、なんとか「感動」とやらを届けることができた。オーストラリアの選手の肩車に乗ったカズの姿をテレビカメラが写せただけで、このイベントは成功というわけ。
話は変わるけれど、読売Gはヴェルディ川崎全盛期のころ、ヴェルディ巨人軍化計画を立案した。読売G系の日本テレビがヴェルディ出場試合の独占放映権を握り、さらに、読売GがもっているありとあらゆるPR手段を使って、ヴェルディを全国区的人気チームに仕立て上げようと図った。読売GはJリーグを私物化し、読売Gがプロ野球で「巨人」をつくりあげたノウハウをサッカーに応用し、「ヴェルディ一極集中」の「プロレスサッカー」を日本に定着させようと図ったのだが、当時の川渕チェアマンの地域密着型Jリーグ構想につぶされた。読売Gの目論みはみごとにはずれ、Jリーグ(サッカー)は、地域(ホーム)をベースとした、健全なプロスポーツとして育ち今日に至っている。
挫折した読売Gはサッカークラブ経営からの撤退を決めたものの、02年W杯日韓共催を控え、サッカー・コンテンツからの全面撤退はまずいという判断が働き、読売Gに代わって、系列の日本テレビがヴェルディの経営を引き継いだ。そのとき、大幅な予算削減、リストラ断行により、当時の大スターで高額契約者のカズ、ラモスらはヴェルディ川崎を追われた、といわれている。
だから、読売Gにはカズを担ぎ出す権利はないはずなのだけれど、そこはプロの世界、シドニーFC行きは、カズにとっても「おいしい話」だったのだろう。自分を追い出した読売Gに義理は“ない”けど、お金は“ある”。
話がまとまらなくなった。なにはともあれ、カズはそれなりの優秀なベテラン選手だけれど、日本サッカーの伝説の選手ではないし、世界レベルの名選手でもない。読売Gが彼をそう呼んで、大会を盛り上げたい気持ちはわかるけれど。
現実は残酷である。この大会、読売Gによって「伝説の名選手」に仕立て上げられ、カリスマに祭り上げられた“カズ”が出場した2試合、重要な1試合目はもちろんのこと、消化試合の2試合目を含めて、カズが得点にからんだシーンは、筆者が確認できた範囲ではたった一回だった。もちろん、無得点。
筆者にとってカズは、好きでも嫌いでもない選手。彼がブラジル→日本→イタリア→クロアチア→オーストラリアと5カ国のリーグを渡り歩いたことは、日本人としては珍しいけれど、日本以外でどれほどの活躍ができたのか筆者は詳しく知らない。各国リーグで、この「カリスマ」はいったい何点取ったというのだろうか。Jリーグでも、ヴェルディ川崎→京都→神戸→横浜FC(J2)と、複数のクラブを渡り歩いてはいるものの、筆者には、全盛期のヴェルディ川崎時代を除いて、他クラブでの活躍の記憶がない。
彼はサッカー選手として、先駆者という役割を果たした功績は讃えられても、世界レベルで優秀なプレイヤーとして評価されることはない。ヒデや小野や松井のように、海外のリーグで1シーズンを通して働いたことがないことが、筆者の評価基準だから。
過去にも未来にも、Jリーグ(日本サッカー)のあるクラブがプロ野球の「巨人」になることはない。サッカーには、「常勝」という伝説・幻想を育む余地がない。どこかが強くなれば、どこか別のクラブが力を蓄えて倒しにくる。その循環があるだけだ。カネの集まるビッグクラブが結果として強豪となるけれど、強豪、ビッグクラブが常に勝つわけではない。弱小チームがコンディションを整えて、ホームでビッグクラブをやぶる楽しみが残されている。それがサッカーなのだ。
読売G、日本テレビが、ラモス監督の下、カズを入団させて「ヴェルディ=巨人軍」の夢を追いたいのならば、それはそれで構わない。しかし、過去の人気やつくられた伝説という虚構に虚構を積み重ねても、強いチームはできてこない。ラモス氏は柏でコーチとして実績を残していない。カズは選手としては全盛期を通り過ぎたどころではない。日本のサッカーファンは優秀だし、サポーターの目はごまかせない。カズやラモスで「一儲け」、というわけにはいかないのだ。読売Gが見ているのは、悪夢でしょう。


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