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2004年11月01日(月) プロ野球改革の声はいまどこに

パリーグに誕生する新球団が11月2日に決定する。報道によると、プロ野球実行委員会が29日、東京都内のホテルで開かれ、新規参入球団を11月2日のオーナー会議で決めることを確認したという。記者会見で、豊蔵一実行委議長(セ・リーグ会長)は、1社を新規参入させること、仙台市を本拠地に名乗りを上げている情報技術(IT)関連企業のライブドア、楽天のどちらかを選ぶことを明言したらしい。
近鉄が撤退を決めてから、選手会のスト決行、ライブドア、楽天の新規参入声明、ダイエーの産業再生機構入りからソフトバンクのダイエーホークス買収声明発表と続いた大騒動の幕引きがいよいよ近い。
しかし、問題は解決されたのだろうか。来季の目玉は新規参入球団の「活躍」と、セパ交流試合がでいいのだろうか。そもそも、プロ野球に求められていたのは、地域密着による市民球団化ではなかったのか。地域に根ざすことにより安定した入場料収入等を確保し、慢性的赤字を解消することではなかったのか。それには放映権料収入、MD収入等を機構が一括管理し、全球団に等しく分配することを必要としたのではなかったのか。ドラフト制度を復活し、戦力均衡を目指しスポーツとしての面白さを追求するはずではなかったのか。読売(巨人)という全国的人気球団に全面的に依存した体質を改善し、かつ、読売(巨人)によるプロ野球支配を自壊させ、地域型のフランチャイズとマイナーリーグ創設により、野球人口・野球人気の基盤を再構築することではなかったのか。
さて、この間の騒動で明確になったことは皮肉にも、プロ野球球団のもつ価値の高さだった。まず企業は、プロ野球参入が知名度アップ、企業イメージアップという面で、計り知れない効果が得られることを再認識した。遊んでいる金をプロ野球に注ぎ込めば、それ以外の方法よりもはるかに大きな効果が期待できる。
次に、プロ野球を運営する側(プロ野球機構)は、新規参入声明が相次いだことにより、球団の価値の高さを改めて認識し、自信を深めたに違いない。「野球はサッカーなんかに負けることはない、参入したがっている企業はいくらでもある、(殿様気分で、)審査とやらをやってやろうではないか、機構に入りたければ、頭を下げろ」と。
残念だが、企業はプロ野球球団を持ちたい。いや持たなくてもいいから、マスコミの報道の対象とされたい――と願うのが現実である。以前当コラムで書いたように、消費者がマーケティングでいうところの「AIDMAの法則」に従ってモノを購入する以上、企業は知名度アップに注力しなければならない。記事として報道されれば、広告料なしで、広告以上の利益が得られる。
さらに、マスコミ(報道側)も自信を深めたに違いない。「球団を持てば、俺たちが報道してやるよ、だから、市民球団なんて幻想を持つのやめとけよ、お互いうまくやろうぜ」と。プロ野球が地域に根ざせば、朝日新聞・毎日新聞が主催する「高校野球」の基盤が侵食される。たかだかハイスクールボーイがやる野球を「純粋アマチュア」という建前で高付加価値化し、いまや、高校野球報道は、スポーツの扱いを越える領域にまで到達している。高校野球は、マスコミがつくりあげた、日本の巨大幻想の1つである。高校野球とプロ野球という2つの商品を「野球文化」として作り上げた朝日(高校野球)と読売(巨人プロ野球)の「功績」は、だれにも真似できない。巨大幻想が自壊するまでおそらく、あと50年はかかる。
こうして、プロ野球の「公共財」としての価値は、日本の企業・マスコミが醸成する風土のなかでかえりみられることはなくなった。<企業所有球団=私財=マスコミ>による共通利益優先のため、<市民球団=公共財=地域住民(ファン)>というスキームによる、新しいプロ野球構想は葬り去られた。
プロ野球は残念だが、理念による再構築の道を閉ざし、これまでどおり企業のマーケティング戦略のなかにとどまる道を選んでしまった。プロ野球の理想の未来について人々が語ることはあるまい。少なくとも、ここで追求をやめてしまったプロ野球人、マスコミにはそれを語る資格はない。


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