野球がオリンピック種目となってしばらくたつ。昨今の話題は、アテネ五輪に、サッカーW杯と同じような日本代表を送り込むかどうかである。アテネ大会のスケジュールは不明だが、おそらくプロ野球のリーグ戦開催中であろう。そうなると、プロ野球界がリーグを中断して主力選手を代表として送り出すか、リーグを中断せずに、そこそこの選手を代表に出してお茶を濁すかである。 前者が望ましいというのが一般的な考え方だろう。野球の世界レベルの普及のためには、各国が一流選手を出して大会のレベルを上げ、競技をPRする必要があるという観点からだ。だが待てよ、まず、中断した場合、国内リーグ戦はどうなるのか。その年の選手の年俸はどうなるのか、大リーグがドリームチームを送り出す確証があるのか、といった疑問が残る。 大リーグの主力選手には南米・中米出身者が多いから、それらの国が代表チームを編成したら、アメリカの大リーグチームは解体してしまう。大リーグのコミッショナーがそれを阻止したら、本当のワールドレベルの戦いにはならない。 野球とサッカーの違いは、選手市場のありようの違いである。サッカーの場合は、選手はW杯で活躍することによって、主に欧州のビッグクラブとの契約が進み、莫大な契約金を手にすることができる。いわば、サッカー市場が選手の将来を保証しているのだ。 一方の野球には、そんなシステムはない。選手市場はアメリカ、日本に限られており、せいぜい、台湾、韓国、メキシコのプロリーグが機能している程度である。オリンピックで活躍したからといって、大リーグから契約の話がくる可能性は低い。野球の盛んな中米・北米・南米の選手はオリンピックを目指す必要はない。アメリカのマイナーで腕を磨いた方が近道なのだ。その過程で、大リーグをあきらめた選手がメキシコ、日本、韓国、台湾へ渡るのだ。 となると、大半の日本人選手はなにはさておき、日本国内リーグで金を稼がなければならない。うかうかしていると、大リーグをあきらめた外国人選手に職を奪われてしまう(外国人枠という規制で守られてはいるが)。アメリカ以外の野球選手の市場は、きわめて限られたものなのだ だから、私の結論は、日本はアテネ大会にドリームチームを派遣する必要はない、というところに落ち着く。日本国内リーグ戦を滅茶苦茶にしてオリンピックに出ても、日本人選手には何のメリットもないのである。そのシーズン、日本プロ野球界がリーグ戦をないことにして、選手の年俸を保証するならば話は別だ。また、ファンがリーグ戦観戦をあきらめてくれることも必要だ。記録の継続性も失われるだろう。そこまでの犠牲を払うだけの価値があるのかどうか。アテネ五輪には、少なくとも野球には、それほどの価値はない。 国のために戦えるではないか、という主張もあるかもしれないが、それには反論する気すら起きない。国がスポーツ選手の面倒を見てくれたのは、昔の「社会主義国家」のこと。国が文化やスポーツに干渉することほど愚かなことはない。
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