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2014年11月07日(金) |
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落花 |
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NHK杯には来ないのか?と聞かれた。 行かない、と答えた。 「ソトニコワは見たかったけどね、仕事があって」 「そう」 電話の向こうの声が沈む。 面倒だなぁと思う。
「直接メールしたら?アドレス変わってないと思うよ?」 「ううん。いいや。もう何年も前の事だし」
恋愛において、女は記憶を上書きし男はキャッシュとして貯めて行く。 そんな喩とは別に、時として女も、突如蘇る記憶のバグに苦しむようだ。
「あなたにも久々に会いたかったな」 「嘘つけ」
笑いながら電話を切った。
大阪か、と思う。 僕にも会いたい人間がいないわけじゃない。 会わせる顔がないわけでもないし、会いたいって気持ちがないわけでもない。 ただ、時間が足りなかった。 咲いた花が地に墜ち、雨に打たれ、日に晒され、土に還る。 その時間が足りない。 やぁ久しぶりと歯を見せるには、まだ花の輪郭が地に残る。 きっと僕は、その花に視線を落としたまま、その人の口元に咲く新しい花も見逃すだろう。
思い直して机の携帯に手を伸ばす。
「あれ?どうしたの?」 「NHK杯にはいなかいけど、大阪には近々行くよ」 「え?」 「久々に君に逢いたいなぁと思って」
嘘つきと彼女は笑った。
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