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五十嵐 薫
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エンピツユニオン

2007年12月22日(土)
ローザンヌ

女は僕が見つめていたことに気付いた。
鼻が隠れるまで布団を引っ張り「寝言言ってた?」と聞く。
僕は曖昧に笑って返す。
同じような曖昧な笑みで女は「恥ずかしいわ」と呟く。






「どうしてどちらも夢なのかしら。」
僕の煎れたコーヒーに紙パックの牛乳を注ぎながら女が言う。
「眠りながら見る夢と、未来に何が希望する夢。」
僕は女から牛乳を受け取り冷蔵庫にしまう。
「夢って呼び名は一緒だけど意味は全然違うと思うの。」
女はカフェオレのカップを口に運ぶ。



「たぶんさ、一緒なんだよ。」
女は指先についたクロワッサンの油をティッシュで吹きながらこちらを見る。
「眠って見る夢も未来に思う夢もさ。語られるのは眠っていた時間や未来であって、決して今のことじゃない。」
女はもう一枚ティッシュをつまみ唇を押さえる。
「現在じゃないことは夢、でいいんじゃない?」



「私はバレリーナになるのが夢で学校に通ってるの。」
女は不意に真顔になった。
「こういう進行形の夢については?」
女は頬杖をついていた指先から少しだけ顎を持ち上げる。
「8歳の頃の私から質問よ。」



僕は二杯目のコーヒーを飲み干してから答える。
「夢は叶ったら夢じゃなくなる。」
カップを持って立ち上がり女の使ったカップと一緒にシンクに運ぶ。
「8歳の君は獲得してない未来の話を語ってたわけだしね。」
僕はソファーに腰を降ろす。
「それよりさっきどんな夢見てたの?結構大きな声で寝言言ってたぜ。」



目の前の松葉杖の女がこれから見る夢は、もう一度舞台に立つことなのかそれとも誰かの夢をアシストしていくことなのかはわからない。

過ぎた時間も未来も全ては夢。
だが、現在だって確かな何かが見えてるってわけじゃない。

夢と対になる言葉は「現」。
あるいは、「幻」だ。


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