職業婦人通信
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2007年07月13日(金) 猛スピードで母は 後編

【ここまでのお話】

母の私に対する過保護、そして過干渉は
結婚を期に、多少収まったかに見えたが
あっさりと妊娠をきっかけに復活。

その気持ちだけは有難いものの
言うことを聞いてばかりいたらこっちが死んでしまうので
母との距離を置いていた千代子であったが・・・

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母の言うことの中で最も困るのは
食べ物についての戒めであった。

香辛料
アルコール分(の入ったもの)
着色料、保存料
中国産
輸入肉・魚
生もの(刺身とか)

牛乳
カフェイン含有飲料(←これが意外とツラい)

といった、実に様々なものが制約対象となっていたのである。

もちろんその全てを摂取せずにいれば
安全性はバッチリなんだろうが・・・

実際問題としては
働きながら、そんなに食に気を使っていられないというのが
本音のところであった。

時には付き合いや接待で外食もしなけりゃならないし、
残業で遅くなればデパ地下やスーパーで惣菜を買って済ませることも多々ある。
その都度母に言われたとおりにしていたら
何も食べられない。

「母の言うことは努力目標ということで」ということにして
毎日かかってくる電話(ちゃんと母の言うとおりにして暮らしているかどうかのチェック)には
曖昧な返事をかましつつ
日々の暮らしを送っていたのであるが

そんな先月、療養中の義父がなくなった。

通夜・告別式には実家の両親も出席し、
喪服だなんだとバタバタ慌てる娘を何かとサポートしてくれたのであった。
ありがたや。

色々とあった通夜・告別式も無事終わり、
斎場から帰ってきた遺族たちは
やっと一息ついて食事をとることができた。

目の前には仕出しの寿司がどどーんと。

「生もの」は母の、数ある禁止事項の中でもかなりの上位にランクされていた食物であり、
妊婦友達も、マグロには水銀が入っててよくないって言っていた。
これまで私も、いちおう、寿司屋に足を踏み入れないようにしていたのである。

が、大好きな寿司を目の前に置かれ、
それを食べずにいるのは正直、かなりツラい。

しかも、今朝からほとんど何も口にしていないので
めちゃくちゃにお腹が減っている。

近くに母がいないかを慎重に確認すると
母はまだ、遠くのほうで別の親族と挨拶しているところであり
それを娘が食べようとしていることには
まだ気づいていない様子。

大チャーーーーーーーンス!!

本来ならば
長男&喪主のヨメでもある私は
最後に箸をつけるべきだ、と重々承知していたのだが

他の親族に取り分けるフリをして
自分の分をしっかりキープし、
今こそ食べなんとした、その瞬間に

ふと気づけば
母が背後に立っていた。

さっきは遠くにいたはずなのに、いつ来たんだよ・・・
すごいスピードだ母ちゃん・・・。

母は、他の親族の手前、笑顔を見せつつも
娘だけにはわかる般若の形相で

「アンタ、まさか生モノ食べる気じゃないでしょうね」

と、囁くのであった。

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こうして私は
せっかくの寿司をほぼ食べそびれ

唯一、母に特別に許された
玉子の寿司だけをモグモグと2貫、口に入れたところで
「それ以上は食べすぎ」と、制止されたのであった。

母の制止を振り切って寿司を食べることだって
もちろん可能ではあったが
他の親族の手前、実母とモメているところ(しかも寿司をめぐって)
など、やはり、ヨメとしては見せるべきではなかろう。

私は血を吐くような思いで、
寿司を見送ったのであった・・・無念・・・


千代子 |MAIL
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