職業婦人通信
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2005年02月01日(火) 死に至る道程

10万ヒットありがとうございます。
(人に言われて気付きました)

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私の叔母・サチエは50代半ばの独身。

サチエは、父の4人いる弟妹のうち
末にあたるためか、
父はサチエをいたく可愛がっていた。

自己主張が少なく
おとなしくて内気なサチエは
祖父母の介護にあけくれていたために
結婚することもなく年齢を重ね、
祖父母が死んだ今では
ホームヘルパーとして働きながら
ひとりで暮らしている。

ホームヘルパーとしての収入もそれほど多くなく、
貯財もないらしいサチエの未来を
私の父はえらく心配しており
「サチエのことを思うと夜も眠れない」だの
「親父やお袋の介護をサチエに押しつけたばかりにあいつは婚期を逸して…」
だのと、酒を飲んではよく苦悩する日々であった。

そんなサチエが乳がんだとわかったのは
1月の半ば。

サチエは独りで近所の病院に行き、
独りで余命告知を受けて、
独りで手術の日どりも決めており、
親戚の我々がその事実を知ったのは
すでにサチエが入院した後であった。

一族は騒然となり、
「なぜ今まで黙っていたのか」と
本人に詰め寄ったのだが

サチエは
「心配かけたくないし、自分のことだから」
の一点張り。

病院も「近所の病院だから」というだけの理由で選択しており
他の病院にセカンドオピニオンを求めた様子もない。

「もっと有名で、乳がんの手術実績もたくさんある病院に行って
 ちゃんと見てもらった上で手術をしてもらったら?
 やっぱり病院によって対応が全然違うんだから」
と、乳がん経験のあるサチエの義姉がすすめたのだが

「いいの!もう今死んでも悔いはないんだし、ほっといて!」
サチエは珍しく激昂して電話を切ってしまったのだという。

見舞いに行っても「来なくていいのに」と言い、
「死ぬ準備はできている、もう放っておいて」の一点張りらしい。

以来、うちの父は酒浸りになってしまい
落ちこんで目もあてられない様子となった。

彼女のホントの気持ちは誰にもわからないけど
「身内とはいえ他人に心配をかけたくないから」という理由で、
また、
「自分自身のことは自分で決めたいから」という理由で
そうしているなら、その気持ちはわからなくはない。

私だって、今余命を宣告されたら
たぶんサチエと同じような対応をするだろう。

生きるためにたくさん病院をまわったりしないだろうし
家族にもギリギリまで言わない。
闘病とか絶対めんどくさいし。心配かけたくないし。

まして、自分が死ぬことによって路頭に迷うような人間は
この世にひとりもいないのだから
「死に至る道程を自分で選ぶ権利」もあっていいと思う。

それでもなお、うろたえ悩むうちの父を
娘の立場から見ていると、
サチエには
「親父の見舞いくらいは受け入れてやってほしいよなぁ」と思うし
「乳がん経験者のアドバイスくらい少しは聞いてやればいいのに、損するわけじゃなし」
という気もするのである。

たぶん、それは彼女自身にとって迷惑なお節介にしか過ぎない。

が、もしこれで彼女が死んだら
うちの父はもちろん、親戚はみな
「もっと生きてほしかったのに、彼女に十分なことをしてあげられなかった」とか
「十分な医療を受けさせることができなかったのではないか」と、
悔いたり悩んだりすることになるのではないかとも思う。

まぁそれも、本人にとってはメーワクな話なんだろうけど。


千代子 |MAIL
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