職業婦人通信
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あれは数年前のこと。
プレイステーションというゲーム機を購入したばかりの私は こっそりゲームソフトを収集していた。
毎日毎晩ゲームにあけくれる日々であったが、 OLたるもの、 私生活でせっせとゲームなんかやってるような 素振りを会社で見せてはならない。 (ゲームやってるっていうとイメージダウンだから)
私は会社の独身者用マンションに入っているので 近所のゲーム屋に行くこともできず (だって同じマンションに住んでる同僚に見られたらダメじゃん) ちょっと遠くのゲーム屋まで わざわざチャリで通っていた。
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そんなある日のこと。
あるソフトを購入しようか死ぬほど迷っていた私は その日もゲーム屋で15分ほど立ち尽くしていた。
すると後ろから
「あのぉ・・・『*****(ソフト名)』買うんですか・・・」
と、地を這うような暗い声が。
(しまった!同僚に見つかったか?!)
と思った私がぎょっとして振りかえると そこには見知らぬ男性がひとり。
ストーンウォッシュのGパンに 洗いざらした「Polo Club」と刺繍されたポロシャツ、 牛乳ビン底メガネの彼は まぁ、わかりやすい感じのオタク的外観であった。
「・・・いや、迷ってるんですけど・・・何か・・・」
と、私が答えると
「あの、先週もそれ買おうか迷ってましたよね?」
と、彼は突然言うのだ。
たしかにその前の週も、私はそのソフトを買おうか悩んでいたのだが (結局買わなかったけど) なぜそれを他人のアンタが知っているのか?
ますます不審げな目で相手を見る私に対し、彼は
「いえあの、先週もあなたを見かけたもので」
と、目を伏せて釈明し、さらに
「実は・・・あの・・・すごくあの・・・その・・・」
と30秒ぐらい口ごもった後に
「・・・お付き合いしていただけませんか?」
とのたまったのである。
私はそれまで人生二十数年、通りすがりの人に 「付き合ってくれ」などといわれたことのない人生を送ってきたため 著しく仰天し、かつ激しく動揺した(しつこい表現で申し訳ない)。
動揺を隠しきれないまま 「え?えと・・彼氏いるので・・・」とお定まりの返事をすると
男 「あの、では・・あのその彼女じゃなくていいのでお友達からで」
千代子「・・・・」
男 「ゲームの話とか色々できると思うんで」
千代子「えっ」
別にゲームの話はできなくていいんだけど。
ていうか、この男、私の外見が気に入ったのではなく (しゃべったこともないからもちろん内面でもなかろう) 単にゲーム好きで女であるという2点のみを 評価しただけなんじゃないのか。
色々な思考が浮かんでは消えていったが
男 「あのう・・・電話番号とか教えてもらえませんか」
と、チビた鉛筆とメモ帳を持って迫ってきたので 結局、パニックに陥った私は 適当なウソの電話番号を書いて逃げようとしたのだが・・・(人でなし)
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渡された鉛筆の、そのお尻をフと見ると
そこには
歯型が。
今時、成人男子として、鉛筆のお尻を齧っちゃマズいでしょ・・・。
そのことばかりが記憶に残ってしまい、 結局、その男性の顔は全くおぼえていない私であった。
こうして、人生たった一度の (いや、今後あるかもしれないからその言い方はよそう) シチュエーションは終了したのである。
そして今日、その店の前を何年かぶりに通りがかったら、つぶれてた。 なんか寂しい。
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