職業婦人通信
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2004年04月21日(水) 歯型の思い出

あれは数年前のこと。

プレイステーションというゲーム機を購入したばかりの私は
こっそりゲームソフトを収集していた。

毎日毎晩ゲームにあけくれる日々であったが、
OLたるもの、
私生活でせっせとゲームなんかやってるような
素振りを会社で見せてはならない。
(ゲームやってるっていうとイメージダウンだから)

私は会社の独身者用マンションに入っているので
近所のゲーム屋に行くこともできず
(だって同じマンションに住んでる同僚に見られたらダメじゃん)
ちょっと遠くのゲーム屋まで
わざわざチャリで通っていた。

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そんなある日のこと。

あるソフトを購入しようか死ぬほど迷っていた私は
その日もゲーム屋で15分ほど立ち尽くしていた。

すると後ろから

「あのぉ・・・『*****(ソフト名)』買うんですか・・・」

と、地を這うような暗い声が。

(しまった!同僚に見つかったか?!)

と思った私がぎょっとして振りかえると
そこには見知らぬ男性がひとり。

ストーンウォッシュのGパンに
洗いざらした「Polo Club」と刺繍されたポロシャツ、
牛乳ビン底メガネの彼は
まぁ、わかりやすい感じのオタク的外観であった。

「・・・いや、迷ってるんですけど・・・何か・・・」

と、私が答えると

「あの、先週もそれ買おうか迷ってましたよね?」

と、彼は突然言うのだ。

たしかにその前の週も、私はそのソフトを買おうか悩んでいたのだが
(結局買わなかったけど)
なぜそれを他人のアンタが知っているのか?

ますます不審げな目で相手を見る私に対し、彼は

「いえあの、先週もあなたを見かけたもので」

と、目を伏せて釈明し、さらに

「実は・・・あの・・・すごくあの・・・その・・・」

と30秒ぐらい口ごもった後に

「・・・お付き合いしていただけませんか?」

とのたまったのである。


私はそれまで人生二十数年、通りすがりの人に
「付き合ってくれ」などといわれたことのない人生を送ってきたため
著しく仰天し、かつ激しく動揺した(しつこい表現で申し訳ない)。

動揺を隠しきれないまま
「え?えと・・彼氏いるので・・・」とお定まりの返事をすると

男  「あの、では・・あのその彼女じゃなくていいのでお友達からで」

千代子「・・・・」

男  「ゲームの話とか色々できると思うんで」

千代子「えっ」

別にゲームの話はできなくていいんだけど。

ていうか、この男、私の外見が気に入ったのではなく
(しゃべったこともないからもちろん内面でもなかろう)
単にゲーム好きで女であるという2点のみを
評価しただけなんじゃないのか。

色々な思考が浮かんでは消えていったが

男 「あのう・・・電話番号とか教えてもらえませんか」

と、チビた鉛筆とメモ帳を持って迫ってきたので
結局、パニックに陥った私は
適当なウソの電話番号を書いて逃げようとしたのだが・・・(人でなし)

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渡された鉛筆の、そのお尻をフと見ると


そこには

歯型が。



今時、成人男子として、鉛筆のお尻を齧っちゃマズいでしょ・・・。

そのことばかりが記憶に残ってしまい、
結局、その男性の顔は全くおぼえていない私であった。

こうして、人生たった一度の
(いや、今後あるかもしれないからその言い方はよそう)
シチュエーションは終了したのである。


そして今日、その店の前を何年かぶりに通りがかったら、つぶれてた。
なんか寂しい。


千代子 |MAIL
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