職業婦人通信
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2004年04月20日(火) 笑ってよ、大山さん

入社十数年、千代子の大先輩にあたる大山さん(女性・独身)。
大山さん、仕事はできるししっかり者。私も尊敬する先輩である。

が、大山さんは一見とっつきにくいタイプ。態度がぶっきらぼうだし、返事もそっけない。

おまけに、そこらのオヤジ管理職なんかより仕事がデキるもんだから、どうしても
ダメオヤジども(上司を含む)を叱咤してしまう。

ちゃんとしゃべってみれば温かい心の持ち主だし、ホントに頼りになる姐さんなのだが・・・

オヤジどもからは
「女らしくない」
「態度が悪い」
との評価が下されてしまい、どうにも損をしている人なのであった。

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そんなある日のこと、社長が大山さんのいる部署のそばを通りかかった。

社長といえば、ウチの会社では神格化された存在。
客観的に見ればただのガラの悪いオヤジなのだが、会社内において彼は神であり、
口ごたえなど許されないのはもちろんのこと、
社長がくだらないギャグを言えばその周辺1キロにいる社員は一斉に笑わねばならぬ。

神は神らしく、神棚(社長室)に納まっててくれればいいのだが
この神は人間界(一般社員のいるフロア)に降臨されるのがお好き。

そして神はその日、たまたま大山さんのいる部署へ気まぐれにやってきてしまったのである。
それが悲劇のはじまりであった。

神は、「白い巨塔」の学部長回診の如く取り巻きを従え、
大山さんの横を通りすぎようとしたのだが、彼女にとって運の悪いことに
その時、大山さんはダメ上司に激しく食ってかかっている最中であった。

腕組みをした大山さんは
社長がすぐそばにいることに気付かず、
「だからぁ〜、そうじゃないって言ってるでしょぉ!」
と、上司を叱り飛ばしていたのだ。

それを見た社長は
その場では何も言わなかったが、翌日、うちの会社の全経営陣が集まる最高会議の席上で
急にその話を持ち出したのだという。

神(社長) :「なんだあの女は!ああいう態度の女子社員を放っておくような会社だから
        ウチは業績がワリーんだよ!」
僕(取巻き):「(平伏しつつ)まったくもっておっしゃる通りでございます、すぐに対処を・・・」

という(ような内容の)やりとりがあった30分後、
こんな通達が回ってきたのである。

----通達----------------------------------------------------------------------------------------------------
【ベストスマイルキャンペーンでV字回復】
 〜ビジネスマナーを守ろう!!〜

 楽しい職場で新しい仕事へのチャレンジ!
 一人ひとりの『笑顔・身だしなみ・身のこなし』から!
 
 ★一日の始まり(出社) 余裕ある出社を心がけよう・明るく元気に挨拶をしよう!
 ★仕事中        『ホウ(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)』を忘れずに、新しい仕事を創造しよう!
 ★一日の終わり(退社) 効率的に仕事をして残業を減らそう・帰るときも挨拶を忘れずに!

 ※ベストスマイル・キャンペーン月間MVPを投票・上司の推薦等で選びます
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「な・・・なんじゃこりゃ・・・」
千代子は激しく脱力した。

今さら「ホウ・レン・ソウ」はともかく「笑顔・身だしなみ・身のこなし」までを
会社業績回復のために強要されるとは思いもよらなんだ。

そして「ベストスマイル・キャンペーン月間MVP」とは。
そのサブいセンスはどうにかならんのか?

それに、大山さんの件が社長の逆鱗に触れたというならば、本来は
・上司の前で腕組みをしないキャンペーン
・社長が来たら速やかにその視界から逃げ去るキャンペーン
を展開するべきだったのではないか。便乗して「残業するな」とか「ホウレンソウ」とか
全然違うものまで盛り込むとは。あざといのう・・・。

この通達にとどまらず、さらに他部署の同僚に至っては、上司から
「この部署には女性が多いから私語も多くなっている。ついては私語を今後はつつしむように」
と言い渡され、
「私語が多いのはヒマな窓際管理職じゃん!女性だからとか余計なことまで言われてムカつくーーー」
と、キレまくっていた。

こうして「ベストスマイル」の名のもとに
社員の細かいところに至るまでの過剰な生活指導がスタートし、
バカバカしいやらムカつくやらで、ますます会社辞めたい熱が増幅される今日この頃である。

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そして今日。

「本日より、会社の出入り口にて、総務部長が朝の挨拶と、社員の遅刻チェックを行います」
というお達しが。

当社の就業規則では9時が出社時間だが
8時50分には来てないとチェックされるのだという。

総務部長みずからチェックとは。ご苦労様というかアホらしいにもほどがあるんですけど。


「大山さんの腕組み事件」はこうして、あまりにバカらしい波紋を広げてしまい、
おかげで大山さんは
「大山さんのせいで余計なキャンペーンなんぞはじまってしまった」
という視線を一身に受けるハメになって非常にかわいそうだし、
私だって、いつもより一本早い電車で出勤しなければならず、これまた(自分が)非常にかわいそうなのだ。

同僚とは冗談で

千代子「どうせなら狙っちゃうもんね!MVP!」
同僚 「ぶわはははは!マジで!?キモいんだけどー」
千代子「何言ってんのー?アタシのベストスマイルで社長も撃沈よ」
同僚 「千代子がベストスマイル!?ありえねぇ!バーカ!バーカ!」

と、悲しい会話を交わしている。

張り紙ひとつで笑えるかっつうの。
笑ったら業績回復するんだったら世話ねぇっつうの。

バーカ。(←小さい声で)


千代子 |MAIL
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