妄言読書日記
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2013年03月19日(火) 『素粒子』(小)

【ミシェル・ウエルベック 訳:野崎歓 筑摩書房】

『闘争領域の拡大』と同様、それほど入り組んだ話しではないのだけれど、説明に困る小説。
ブリュノとミシェルという二人の異父兄弟の物語が交差し合いながら交互に語られていく。
ブリュノは『闘争領域の拡大』にも登場したようなモテない、いわゆる童貞こじらせ系をもっと悲惨にしたような人物。
ミシェルは人間社会に無関心な天才科学者。
ブリュノの人生は痛ましく滑稽だが、ミシェルの人生は孤独で無感動。

両極端の人生を語る語り手が誰なのか、最後の章までわからない。
最後の最後、ミシェルの功績がなんだったのか明確になり、2200年という未来が提示されて初めて、二人の人間を通して現代社会、小説の中では過去の世界を記録していたことがわかる。
その視点から見たとき、やはりブリュノは滑稽で惨めに見えてくるけれど、哀愁を感じずにはいられない。
2200年の世界にブリュノ的な人間はいないだろうけれど、それが幸せであるかどうかはわからない。

幸せな気持ちにはこれっぽっちもならない小説だけれど、不幸や絶望への寄り添いかたはなんだか優しい。



蒼子 |MAILHomePage

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