妄言読書日記
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2003年10月03日(金) 『<魔震>戦線 魔界都市ブルース』(小)

この頃、間が空いてます。今年の残りは本屋に行かず積読を片付けたいと、思うだけ思ってます・・・。

【菊地秀行 祥伝社文庫】

菊地はいいよー。なかなか大っぴらに言えないんですが。
今回なんとなんと、あの「魔震」の謎を扱うと言う内容。
正直、魔震がなんで起こったのかなんてことは、けっこうどうでもよくこのシリーズ読んでます。
もうね、起こるべくして起こったんだとしか思えませんもの。それ以上の理由なんて無い。

で、やはり菊地です。
全く何もわかりはしないのに、分った気にさせ、その上納得させてしまうこの文章。
そうか、そうよね。だってこここは、魔界都市新宿なんだもの
全ての解はこれでいいんじゃないでしょうか。
それが駄目なら、だってせつらにメフィストなんだもの。
これで充分でしょう。

菊地作品って、読んだら片っ端から忘れていくんですが、大好きです。
暴力的なものは好みませんが、菊地はバイオレンス小説であってもエログロであっても好きです。
陰湿さはない、と思います。
そして、紙の如く命が軽く扱われているかと思えば、今回。

<新宿>においても、生命は尊いと、観念ではなく、その身体で知っている医師たちは、生命の安易なやりとりをけっして許そうとしない。

なんて一文があったりする。だから安心できる。
さらに今回、ドクターかっこよいです。

「私の恐れるものは唯一――患者の死のみだ」

患者以外の人間はどうでもいいドクター。でも患者には限りない愛を。
それにしても折角かっこいいわ、と思ったらその後、某所で全裸で発見されるせつら。
それを運んできた医師と隊員たちを後日、記憶喪失手術にかけるメフィスト…。意外と狭量か?
こと、せっちゃんのことになると、とことんお茶目なドクターもまた好きです。

そんなせつらとメフィストの会話は相変わらず素敵です。

「ところで、前から聴きたいと思っていたことがあるんだけどな」
「何かね?」
「おまえ、ゲイ・バーをどう考えているんだ?」
「さて」
 メフィストは少し考え込んだ。
「考える話かな」
 とせつら。
「報われることを知らぬ、可憐な精神(こころ)の持ち主が集う場所だ」


ドクター、本気ですかーっ!?
ドクターは真顔で冗談言うからなぁ。でもほぼ本気かもしれません。
久しぶりにドクターの女嫌いを見た気がします。最近なかなか無かったような。

「見せかけの美しい皮の中に血と肉と汚物と、醜い精神だけを詰めた汚物。いずれは、抹殺しなければなるまいな。―――患者を除いて」

とんでもない呟き。でもドクターに言われてしまうのなら仕方ないような気がしてしまいます。だって美しすぎるから!(理由なのか?)

おっとメフィストの話ばかりになりました。
魔界都市ブルースの主人公はせつらです。
今回、せつらの高校の同級生と言うものが登場。最近、せつらの高校生時代の小説が出ていましたが、実際にキャラが出ても、せつらの高校生時代が想像できません!
というか、魔界都市にいないせつらが想像できません!
ん?高校生の頃はまだ魔震来てないですよね?どうなんだろう。
せつらの学ラン、さぞドクターも見たかったことでしょうなぁ。
『青春鬼』が文庫化する日を待ってます。

せつらと、元同級生の奈々子さんのやり取りが、良い感じの哀愁を漂わせてます。
そういう雰囲気こそ「魔界都市ブルース」だわ、と思うのです。魔界医師〜の方ではこうはいかない。

菊地氏がヒーローらしいヒーローを、と送り出してきたゼン。
あの、せつらが好意を寄せ、そしてメフィストの嫉妬を受けるゼン。
確かに当たり前にかっこよかったです。いったいどこへ消えたのか…(そういや消えたんだな)
次回作へひっぱているみたいですが、一連のシリーズはだいたいこういう感じだからなぁ。

今回はラストが、ずっとシリーズを読んできた者にとっては、おっと思う感じです。

 足の下で、無数の患者と手術とが自分を待っているのはわかっていたが、メフィストは、しばらく動かないでいることに決めた。
 同じ夜明けを明日も迎えられるという保証がないことに、ようやく気がついたからだった。


今回のドクターはかなり人間的だったと思います。
何しろ、せつらにしろメフィストにしろ、魔界都市の住人というよりは、むしろ化身という扱いでしたから。
そんな彼らも住人だったのだなぁ、と思うお話でした。

ところでところで、せつらの「私」が出てくるタイミングというのが今もって分りません。
全くピンチじゃないときに出てきたかと思えば、絶体絶命でも出てこない時がある。
あまり危機とは関係なさそうです。オートで出てくるんでしょうかね。



蒼子 |MAILHomePage

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