妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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【藤水名子 講談社文庫】
初めて藤水名子の小説を読んで、これが最初で最後になりそうです。 タイトル、“うたげ”だと思ってましたが、読みは“えん”でした。 噂にたがわず凄かった。
最初に言いますが、私は孫策も周瑜も好きです。むしろ、もともと三国志は呉贔屓です。 以下はこの小説に限っての話、ということで。まあ、断る必要もないとは思うのですが。
1ページ目から、ん?という印象。
周瑜にとっては、陽光に映える萌黄の色よりもまだ、振り向いた男(ひと)の若い笑顔の方が眩しい。
ポイントは、“男”と書いて“ひと”と読む。 待て待て待て・・・。 おとこ、と読んで何が悪いんだよ。 軽いジャブを受けつつ、「お前が女だったらな」とのたまう孫策に目眩を覚えて先に進みますと、
鐙と鐙が触れ合いそうなほどすぐそばまで馬を寄せられたとき、彼の放つ強い汗の匂いがゆくりなくも鼻腔を襲って、周瑜は思わず目眩を覚えた。
周瑜殿、何か悪いご病気ですか。
ようするに、この小説、恐ろしいまでに周瑜が女です。そして孫策オンリーラヴ。もうあなたしか見えない。 そんな周瑜。 孫策と女が一緒にいれば、 「なんなの、この女。私の伯符様に馴れ馴れしい。ぶすのくせに」 てな感じです。 もちろん、こんなセリフもなければ、おねえ言葉でもありませんよ。さすがに。 この周瑜殿、顔が全てです。そしてなによりも、美しいのは孫策です。美の基準は彼。 そんな周瑜自身も、絶世の美貌であります。 伝説の美人姉妹、二喬を見た後に、孫策が 「噂に違わぬ美しい娘たちじゃ。だが、お前には劣る」 と言うくらいです。 馬鹿か?というツッコミを入れたい気分に襲われますが、これしきで馬鹿と言っていては身が持ちませぬ。
ある意味、天下無敵の美周郎殿だと思います。 美しくない、ただそれだけで100人切り、という勢い。彼の心中は恐ろしく自己中心的であります。 いいのか、こんな主人公。
真っ先に切られるのが、孫権。孫策の弟。
孫権のなにが気に入らないといって、全体この若者の、頭のてっぺんから足の先にいたるまでのバランスの悪さが、周瑜には先ず我慢できない。
己の君主だろーが。 この先も更に悪態が並びます。哀れというほかありません。乱世で容姿についてとやかく言われなければならない、孫権に同情を覚えます。 そもそも、この周瑜、孫策の死後は孫家など知ったことか、と思っています。どうとでもなれ、と。 もう、早く孫策の後を追いたい一心。じゃあ追ってしまえよ・・・。
三国志では必ず、周瑜の死に泣く私がここまで思いましたよ。
誰かこの周瑜をどうにかしてくれ。 頼みの綱の孔明先生は、どうかと言いますと、一応端正な顔、と描写されております。ちょっと、ほっとしますな。 孔明が周瑜の妻を曹操が狙っているぞ、と言ってたきつけるシーン。 なにしろ、妻を愛していない周瑜なのでものともしません。愛しているのは孫策オンリー。
諸葛瑾という、孫権の代になってから当地へ移り住み、実直だけが取り得のような控え目さで若い君主に仕えてきた有能な部将を、周瑜は決して悪く思ってなどいないが、その弟は、実に腐れ外道のような男であったか、と心中微かに憎悪を覚えた。
腐れ外道呼ばわりです。孔明先生までもが、たった2ページほどの登場で切り捨てられました。 恐ろしい男です。美周郎。 藤水名子、孔明のファンの反応が怖いと言っていますが、むしろ気にすべきなのは周瑜のファンの反応だろう、と思います。
さらに再起不能なまでに切り捨てられるのは、孔明の君主にして、三国志の主役とも言える方です。 劉備です。 全文引用はかなり長い、上にそこまで貶められた劉備の描写を引用するのも嫌なので、ちょっとだけ。 周瑜と初めての対面シーン。
まるでくたびれた安宿の主人のような物腰態度で対する劉備玄徳という男を、周瑜はこのときはじめて見て、 (なんと、卑しげな男だろう) ひと目見た途端に嘔吐を催す類の嫌悪感に襲われた。
約1ページにわたる劉備の悪態。 いっそ爽快なまでにこきおろされております。あはははは・・・・・。 生理的嫌悪感を抱かせる劉備なんてな!!ははは!!
ちょっと壊れてきました。こめかみのあたりがぴくぴくしますが、もう一人の三国志主人公・曹操はと言いますと、まだ穏当です。 藤水名子は、曹操が好きらしいので。 それでもよい描写はされてませんが。ただの、悪知恵の働く親父にされてます。
美周郎、向かうところ敵なしです。こんなに天下に無関心な周瑜ははじめて見ます。 ついでに敵なしなのが、孫夫人こと恵姫。孫家末娘ですな。わりと好きなんですが・・・。他の小説では。 「あんな優柔不断で冴えないオジサン、私は最初からなんとも思ってなかったの」 お前は、援交の女子高生かっ。
藤水名子、なにか劉備に恨みでもおありなのですか。
巻末に藤水名子のインタビューが載っています。 この作品では、周瑜と孫策の仲、男同士の友情と彼らのダンディズムを描こうと思ったのですが、書き手が女なので、男同士の友情というのが、今一つ、よくわからないこともあり、それ以上の心情も含めて描くことにしました。 <中略> 結果的に女性的なものになってしまった。女の目から見て、男同士の友情関係はこうあったらいいなという希望があって(笑)
待て まるで、女全体がそう思っているみたいな言い方をするなー! つーか、これはもう友情じゃないだろうが!!はっきりほもだと言ってしまえ。ゲイでも男色でもなんでもいいから、友情でくくるな。 女だから男同士の友情がいまいちわからないというのは、大嘘だと思います。 少なくとも、これは男同士の友情を書こうとは全くしていない。 三国志であることを抜きにして、これを一編の小説だと思って読んでも、むしろそう読んだらもう最悪の部類に入ると思います。 とにかく、周瑜の性格が悪い。演義の周瑜が素敵に思えてきました。
孫策×周瑜ならば、コミケ行くなりネット検索した方がよほど良心的な小説を見つけられると思います・・・。
まあ、ギャグ小説だと思えば最高だと思いますよ。
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