妄言読書日記
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2002年07月14日(日) 『ペルシャ猫の謎』(小)

【有栖川有栖 講談社文庫】

帯。
「買いなさい。損はさせないから」
が、作中のアリスのセリフとは。
どうりで大胆な帯だと思った。
しかし、作中のアリスはあまり売れっ子ではないという設定のはず。

有栖川有栖氏にしては、異色な雰囲気の短編集。
有栖川有栖と言えば、ミステリー入門書としてお薦めしたい本。それくらい、推理小説の面白みをスマートに、読みやすく、分り易く書く人というイメージだったから、今回のは意外な作品がいくつか。


「切り裂きジャックを待ちながら」
火村先生、演出過剰な登場にちょっと笑った。

舞台上、ツリーの上に突如現れた美しいまでに演出された死体。
息を呑む、役者、スタッフ。静寂に包まれる、ホール。
その静寂を破る、ドアの開く音。
その落ち着いた足音に、振り返るアリスの目に映ったのは。
「火村・・・」

とまあ、こんな感じ。要約なので、本文はもっと演出してますよ。
でもいいの。火村先生だから。
まあ、それに舞台脚本のイメージで書かれているから、それも有栖川有栖氏の計算のうちでしょう。
最後の最後まで、役者ね。火村先生。素で役者。
火村先生に看取られるなら、犯人になってもいい。
(推理小説を読むものの姿勢としていかがだろう。この感想)

「わらう月」
希美が、嫌。
また、えらく個人的感情の感想で申し訳ない。
だから、お前はなんなのよ!?と思う次第です。
だって、火村さんのこと「馬鹿みたい」って。馬鹿を見るのはお前だ!とか思ったり。
本当に、私は推理小説を読む人としてあるまじき、読み方をしている。

アリスと火村は、またも裏で打ち合わせしてきたのね。
そして、
「失礼ついでに……あなたの顔は右側があどけなくて、左側がよりきれいですね」
火村せんせー。女嫌いなんでしょう。どうして、そういう余計なこと言うんでしょう。

「暗号を撒く男」
アリスは火村先生と、屋台で串カツ食ってるんですね。ちょくちょく。
今更こんなとこに反応するまでもないですか…。
フランス料理食ったり、カニ食べに旅行に行く二人ですものね。
有栖川有栖氏は、なんの他意もなくこの二人を書いているんでしょうか。だとしたら、とんだ罪作りです。
でも、他意があっても嫌です。

暗号。暗号ね。
まあ、火村さんが消沈したくなるもの無理からぬ、どうでもいい暗号。
そんな小話みたいな、ミステリーが紛れ込んでいてもいいと思う。
火村先生の、得意技がなんなのかとても気になる。

「赤い帽子」
甘いマスクの新米刑事(そう描写されているんです)、森下くんが主役。
アルマーニのスーツには、森下くんなりの理由があったのか。
そうかそうか。彼も色々あったのね。

この話、今回一番好きです。推理物として。
そういう、解決への辿り着き方もあるね、と思いました。

今回、森下君の相棒となった、下駄のように四角い顔の刑事さん。
その描写で、私の中で彼は木場さんに決定。
(本当の名前は疋田さん)
性格全然違ったけど。

「悲劇的」
火村氏の付け足したあの、一文をどう見るか。
らしいと言えばらしい。
もう少し、唸らせて欲しかったとも思わなくもない。

「ペルシャ猫の謎」
有栖川有栖氏、試作品といった感じか。
こんな解法も有りじゃないかな、というような。
そういう作品があっても良いと思いますよ。
推理小説の幅が広がるのはよいことよいこと。

しかし、毎度アリスまでもが現場に呼ばれる意味がわからない。
君はいても、何もできんだろ。
やはり、火村先生が淋しいのか。
は!一緒にいる口実?
「アリス、面白い事件あるぞ。来るか?」が殺し文句??
なるほど(納得するなよ)

「猫と雨と助教授と」
この話はてっきり、漫画のための話しだと思っていたのですが、小説として書き下ろされていたんですね。
火村先生ったら、なんて可愛いのでしょう。
いいな!猫!!
火村さんとこの猫になりたいよ!(え?)

「そこまで繊細な対応が人間に対してできたらよかったな。俺以外の友だちもできたやろうし、学生時代からの下宿を引き払うて、どこかで惚れた女性と新生活を始めるのも夢やないのに」
という、アリスのセリフに、
「馬鹿だな。アリスがいれば充分さ」
くらいのセリフを期待したんですがねぇ
馬鹿は私ですか。
でも、絶対に心中ではそう思ってますよ!火村先生は!!

しかし、真面目な話しですが、推理小説書く時に、人物を掘り下げることと、ミステリーとしての構成の完成度のどちらに比重を置くんでしょうね。
人それぞれだとは思いますけど。
この二つは両立しない物だと思います。
私としては、キャラとして魅力的であれば、現実的でなくともよいというのが、推理小説の登場人物観です。



蒼子 |MAILHomePage

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