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2007年12月24日(月)
海と帽子








おっきな蒸気船の甲板から
もっとおっきな海のお腹に
真っ白な帽子が落ちてきた

海が小さな帽子に話しかけると
帽子は海のお腹でくるくると回る
海はそれで嬉しくなっちゃった
海がそれまでお話してた
月って幾ら話しかけたってなんにも言わない
微笑んだかとおもうとすぐに消えてしまうんだもの

海と帽子がお話をする
海と帽子がお話をする
帽子はくるくる回ってる

海は帽子と話すのがたのしいぶんだけ
そのうちだんだん困ってしまった
海はとってもおっきいから
波ひとつ立てないようにするのはひと苦労
いっそ帽子をひとおもいに飲み込んでしまって
海のお腹深くに沈めてしまったほうがいいのかしら
そしたら帽子はどこにもいかずに
海といてくれるにちがいないけど

けれども海はその静かさを守ったし
そんな海の苦労を知っているから
雲は雨を降らせなかったし風も強くは吹かなかった
やがて帽子は小さな海岸に着いて
小さな女の子が嬉しそうに拾っていった

海は帽子を見送ってから
おっきな波をひとつだけたてて
おっきな海へと引きかえしていく
もうすぐもうすぐ夜がきて
真っ白な月が微笑みかけるから
海はまたそれを見上げることでしょうね