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| 2007年07月16日(月) ■ |
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| カメに小銭を投げつける |
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父に連れてってもらった水族館 薄暗い廊下を進むと 左に大きな水槽があって 濃い緑色の濁った水のなかから ジュゴンが二頭こちらを見ている 右にはとても長い柵があり その遥か遥か直下に 50メートルはあろうかというプールがある プールには小銭が敷き詰められている そこには全長15メートルくらいのカメが ゆっくりと、不気味に泳いでいる
怖いもの見たさで 柵をしっかりつかみつつ 覗いていた私に 父はもっとよく見せてやろうと思ったのだろう 黙って私を膝からがっしりかかえ 柵の上へと持ち上げた
あ、ひ
走馬灯を見た わずか五年ほどの人生では あまりにも短かかったものの 突き落とされるっ、食べられてまうっ、という死への危険を 私の脳はたしかに感知したのだった そのときの恐怖はざっくり 海馬ヒポカンパスに刻まれてしまい、そのため
私は中学生になるまで そんな大きさのカメがいると信じていたし
大人になったいまでも 眠りにどこまでも落ちていくような感覚におそわれるとき 必ず下方には あの恐怖の大ガメがゆっくりと、不気味に泳いでいるのを 見てしまうくらいである
先日、たまたま行った水族館で その恐怖の一室を発見した ここだったのかーっ!と叫びたいのをこらえつつ その戦慄の展示室を冷静に観察してみると そこは学校の教室くらいの広さだったし 特に薄暗くもなかったし ジュゴンもいなかったし、そもそもそんな水槽すらなかった ただ、20年以上の時を隔てて カメはまだいた
なんてことない大きさの 室内に作られた円形の池 その深さおよそ20センチ なんの縁かつぎなのか ちらほら投げ込んである小銭 ぐるっと囲んである背の低い柵 そのまわりで ママー!カメ〜!とかなんとかはしゃいでいる子どもたち その声援をうけながら ゆっくり、ちゃぷちゃぷ泳いでるA4サイズのカメ
コトバをうしなうわたくし とりあえず、んにゃろーと 五円玉をカメの背中に投げつける
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