生存報告―目指せたくまし道。
〜こっそりひっそり編〜


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2010年11月02日(火) 耳かき殺人事件判決ー死刑回避・無期懲役(つづき)

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第5回の精神科医のほうが説明わかりやすい。被告の平素の人格や能力について「感情を表出せず、あまり社交的ではなく、我慢強いと聞いています」「(裁判所側鑑定医の)鑑定データを独自に分析しましたが、簡単に申し上げると、複雑な情報処理が苦手で、『保続』という持続して考えが続いてしまう状態になります。違う考えをしないといけないのに同じ考えを引きずってしまう。つまり切り替えが悪いということです」会えなくなったりした状況において「被告にしてみると、良好な関係だったものが拒絶されたと感じることになりました。何でそうなったのかと、原因を考えてもよく分からない。不安・困惑状態になったと考えられます」「このような状態がだんだん強くなって、自分に原因があるんじゃないかなどと、さまざまな理由を追究していきます。新しい考えをするためには一度、置いておく必要がありますが、前の考えにとらわれて、いっそう分からなくなってしまいます」「被告は理屈で考えようとするが、追究しても追究しても分からない『意識野の狭窄(きょうさく)』に陥り、不安・困惑が強まり、いっそう意識野が狭まっていきます」「だんだんこの状態になってよく分からなくなる。被告にとって美保さんは重要な愛情の対象だったが、追究しても分からない。愛情の背景に憎悪が混じることはあり、ひっくり返ることがあります。裏の感情がだんだん出てきて被害感が生じます」「被害感で愛情が見えなくなり、憎しみが先鋭化していきます。この極端なものが殺意だと思います」「6月後半から抑鬱状態だったと認められます。頭が働かない、思考静止状態にあったと考えられます」「よくあるのは単純なミス、普段、起こさないようなミスを犯してしまうことです。普段できている簡単な作業ができなくなってしまうというような。たとえば、車の運転がうまくいかなくなったりと、思考静止によって頭が働かなくなる状態にあったんではないでしょうか」

「7月19日に被告が美保さんに会ったときに、美保さんに走って逃げられたことは精神状態に影響を与えたんでしょうか」「被告はそのときの状況について、(耳かき店への出入り禁止などが)『どうしてなんだ』と追究していって(考えた結果)、選択肢が直接、美保さんに会うしかないと思って行動に移した。しかし、美保さんに会って、明確に拒絶されたことで、相当な絶望があったのではないでしょうか」弁護人「事件前日の8月2日、被告は、仕事の準備をしたり、日常の生活をしたりしていますが、それはどのように考えられますか」「不安・困惑状態にある中で、そこから脱するために不安・困惑状態じゃないことをするということが考えられます。被告は抑鬱(よくうつ)状態だが、仕事はできていた。(別のことをしていることで)不安・困惑状態から抜けることもできるときがあった。その間だけ忘れることができるが、(別のことが)終わると、再び不安・困惑状態になるという状況です」祖母をメッタ刺しにしたことについて「もともとあった一定の目的であれば、そこまでしないといけないことはないのに、芳江さんへの攻撃は意識野の狭窄での行動と言えます。言葉は非常に悪いですが、芳江さんが妨害に入ることで情動が爆発したという考えが合理的です」

「被告は美保さんに攻撃を加えていますが、美保さんが抵抗していて、犯行途中に攻撃をやめていることに関してはいかがでしょうか」「意識野の狭窄が解けた状態と言えます。我を失った状態から我に返った状態と言えるでしょう」「我に返る前は事の重大さに気づけなかったんでしょうか」「情動行為というのは一定の長い期間で恨みなどの感情、恋愛感情が続いていて、何らかの情動の爆発がある。今回の事件はその典型例とも言えます。情動行為の行為者は主体的に判断することができなくなっています。強い緊張状態です。バケツに水が一滴落ちるとはじけるようなイメージです。一連の状態から犯行様式を考えると、そのときにきちんと判断できる余裕はなかったと思います」「被告が事の重大さに気づくのは病院に行ってからなのですが、間が空いているのはなぜでしょうか」「情動行為では余波があります。一度は緊張状態から解けますが、困惑状態という余波が出ます。余波の後しばらくしてから、大変だということに気づきます」興奮状態になったからって人を殺しちゃいけない。そういう状態になった原因、それを作りだしたのは被告の人格と、被害者との関係。ずっとうまくやっていたのに、失敗した感があるよね。

で、最終的にどう決断を下したかというと。

検察官「被告は都合の悪いことを聞こうとせず、出入り禁止にせざるを得なかったのです。美保さんの対応は適切なものでした。21歳の女性が、お客からつきまとわれ、自宅の近くで待ちぶせされ、声をかけられたら逃げ出すのは当然です」「被美保さんに落ち度は全くなく、被告の動機は身勝手で自己中心的です」「弁護側は、被告にも考慮すべき事情はあると、客としてではあるが、美保さんと信頼関係があったと、あたかも美保さん側に落ち度があったように主張していました。『また来てください』程度は言ったでしょうが、今回の事件では、美保さんが仕事として接していただけで、被告もそのことを分かっているはずです」「耳かき店で美保さんとの距離が近くなったと思ったが、そうでなかったため、殺意が芽生えたのです。殺害は被告の人格、性格で十分説明することができます。決して判断能力が低下していたわけではありません」「残念ながら、被告が罪を見つめる様子は見ることができません。被告は美保さんへの恋愛感情を否定し、感情を語ろうとしませんでした。どうして来店を拒否されたか、殺意を抱いたかを考え、語るべきでした」「事件から裁判までは1年2カ月あり、事実に向き合うこともできたはずです。しかし、『美保さんに誘われて耳かき店へ通った』『来店拒否の理由は分からない』などと繰り返した発言は理解に苦しみ、罪を認めているとはいえません」

代理人(遺族側女性弁護士)「公判では、犯行の動機がきちんと語られませんでした。美保さんに対する恋愛感情やそれに近いものがあったことは、誰の目にも明らかです」「しかし、林被告は理由もなく、(店を)出入り禁止にされ、納得ができず、怒りがわいた、と公判で繰り返していました。頻繁に予約を入れるのも、すべて誘ってきた美保さんに責任がある、との供述を繰り返しました」

弁護人「被告は美保さんに『付き合ってほしい』とは言っていません。一貫して『店に行きたい』と言い続けているだけです」「芳江さんのときは、パニック状態で衝動的になっていました。美保さんのときは、善悪の判断ができなかったのです」「責任を考えるにあたり、この点を考慮してもらいたいと思います」「美保さんとの経緯には、ひとえに被告の身勝手さだけでなく、店に通っていた時の関係が影響していると弁護人は考えます」

裁判官「美保さんにだまされたという気持ちはありますか」「ありません」「芳江さんだけでなく、美保さんにもまったく落ち度はなく、すべてあなたの責任と考えていますか」「そう思います」「証人が、美保さんがあなたのことを『都合のいい話しか聞かない』と話していた、と証言していましたね。今振り返って、どう思いますか」「意識はしていませんけれども、私の性格としてそういう面があるかもしれません」「これからもっと、自分の感情とか気持ちを深く振り返り、考える努力をしていこうとは思いますか」「思います」このへんが反省していると取られるんだろうな。

裁判長「以上のような経緯に照らすと、本件は、誠に身勝手で短絡的な動機に基づく犯行といわなければならないが、他方、当時の被告人は江尻美保さんに対して恋愛に近い強い好意の感情を抱いていたからこそ、同人から来店を拒絶されたことに困惑し、抑鬱状態に陥るほど真剣に思い悩み、もう同人に会えないとの思いから絶望感を抱き、抑鬱状態をさらに悪化させ、結局、同人に対する強い愛情が怒りや憎しみに変化してしまったことから、殺害を決意するに至ったと認められる」「被告人は、(江尻さんに)強い愛情を持っていたから、犯行を引き起こしたことを直視し、(江尻さんの)気持ちを誤解し、一方的に感情を募らせ犯行に至ったことへの反省を深めるべきである」「しかし、被告人の言葉や言動は、人格の未熟さ、プライドの高さに起因するものである。江尻美保さんの名誉を傷つけたり、遺族を傷つけようとする意図までは認められない」《さらに、若園裁判長は林被告が20年以上勤続した会社でトラブルがなく、前科もないことを挙げて、死刑を回避する要素の1つと指摘。無期懲役とした判決理由のまとめに入った》

 「死刑は人の生命を奪う究極の刑罰である」

 「本件は、未熟な人格の被告人が、江尻美保さんの気持ちを理解できずに一方的に思いを募らせ、抑鬱(よくうつ)状態になり、思い悩んで起こした事件である」

 「鈴木芳江さんの殺害は極めて残虐で、芳江さんに落ち度はないが、計画性のない偶発的な犯行である」「2人を殺害したことを被告人なりに反省し、法廷で遺族の声を直接聞いて、態度にやや変化がみられる」

 「被告人に対しては、裁判を契機に、江尻美保さん、鈴木芳江さんの無念さや遺族の思いを真剣に受け止め、人生の最後の瞬間まで、なぜ事件を起こしたか、自分の考え方のどこに問題があったのか、苦しみながら考え抜いて、内省を深めることを期待すべきという結論に至りました」

遺族を責める人はいないけど、耳かき店をいかがわしくないサービスと称して展開する経営者、耳かき店で働くのがいかがわしいということを娘に教えてあげられなかった親、親身になって止めさせてあげられなかった友人にも責任があると思う。店のスタッフは1人の客を入り浸らせる接客が危険だということをちゃんと教えてあげなきゃいけなかった。親だったら、接客業でも耳かき店は普通の接客とは違うと教えてあげなくてはいけなかった。本当の友人だったら、本人がいくら家族のためにお金を稼ぎたいと思っていても「耳かき店なんかで働いちゃいけない」って言ってあげなきゃいけなかった。耳かき店で働くことを良しとしていた全員の価値観に問題がある。

100人以上在籍するスタッフでナンバーワンだった接客嬢。冷静に考えれば、人前に出る接客業やメディアに露出するアイドルも、妄想や思い込みが先走りストーカー化するタイプの人間に襲われる命の危険を抱えて仕事している自覚は持たないといけない。店の人もストーカーってことで送り迎えしてあげたらしいけど、そういう商売をすること自体が危険だし。「父親が肩のけがでしばらく仕事ができないので(トラック運転手)、金銭的に困っていて、お母さんから言われたわけではないけど、言われたときに(家に)入れられるように、いっぱい稼いでお母さんにあげたいと言っていました」「働いてからずっと貯金して、ある日、『そんなに貯金してどうするの?』と聞いたら、まりなは『まとめて親にあげる』と言っていました」いい子。でもそういう家庭環境。そういう家庭を作りだした親、祖母。ストーカー被害に遭っているのに鍵をかけない家族。この母親、ちょっと問題ありなのかなと思ってしまう。《一人で過ごすことのできなくなった母親のために、26歳の長男は家にいなければならず、アルバイトの仕事も辞めたという》……事件が起こってからも夫や長男がいないとダメで長男は26歳なのにアルバイトできなくさせる、って甘えすぎじゃ?殺人鬼に会ったら自分もそうなるかもしれないけど、この母親を産み育ててきたのなら祖母に責任がないとはいえない。だからって殺人をしていい理由にはならないけど、周囲の人は自分の価値観や行動を一度よく考えて欲しいと思う。

殺された被害者がこの世に戻ってくることはない。
毎日「あなたは○年○月○日に○○○○さんを殺害した。よって罰を受けている」って宣言されてから一日が始まれば毎日反省して生きると思うけど、そんなことしたら加害者は狂っちゃうと思うし人道的にも良くない。
どんな罰を与えようと、被害者は帰ってこない。
じゃあ、遺族が望むのは何?
社会が望むのは、社会の悪をのさばらせないこと。ルールにのっとって生活できる社会にすること。
《店側から入店を拒否された。その後、林被告は江尻さんの自宅近くで付きまとって肩を触るなどしたため、江尻さんは事件前、「客の男に付きまとわれている」と警視庁に相談していた》特に言及されていないけど、警察の責任は?

私の「死刑は社会悪を排除するため」という観点からすると、今回の被告はやはり死刑までにはあたらない、という結論を出すと思う。こういう人とそういう場所でそういう関係を築かなければ被害に遭わないから。この場合は難しいけど、祖母のことだけ切り離して考えれば、死刑でもいいかもしれない。たまたま感情が高ぶった人に出会って殺される恐怖。これは避けようがない。祖母の殺害に関しては完全に通り魔だよね。そこに居たのが友人だったら?それでも刑は重くならないの?血縁があったから今回の判決に至ったんじゃないかと思う。本当にやりきれない。

自分勝手な大人はいっぱいいる。タバコのポイ捨てだって、飲酒運転だって、やってて捕まらない人はたくさんいる。事件を起こすと犯罪者になるだけで。

反省するから、って悪いことしたって反省するだけじゃ意味がない。これから先同じようなことをしないためにも、自分の未熟さを反省し、思い通りにならないからって自分勝手な行動をとっちゃいけないってことを本当に分かってほしい。暴力や殺人なんてもってのほか。店のルールと、相手の気持ちと、自分の欲のうち、相手の気持ちが見えず、自分の欲を優先させたから事件を起こしてしまったということ。

そういう人に対してどう処罰するかという問題。制度で死刑にするのは簡単。でもそれが正しいかって言われるとそうではないかもしれないと思う。人間の良心があるから、反省や更生のための無期懲役がある。納得いかないのは恩赦なんだけど……。

殺人を犯しても、1回は許されるってこと。どうなんだろうと思う。その人が二度と同じような犯罪をおこさないなら、社会悪として排除する必要がない。精神的に異常だったり、過激な思想を持っていたりして、犯罪を繰り返すようだったら、社会的に生きていたら困るので死刑にする意味があると思う。そんなようなことが起こらないような世の中に皆でしていこう、ていうメッセージもあるのかな。だって、皆が皆に優しくしたら、そんな生きやすい世の中ってない。被告が精神的に未熟っていうのはそういうのもあるのかも。でも、世の中機嫌が悪かったら人は人に当たるし、何もしてなくても危害を加えられることはあるし事故は起こるし痴情ももつれる。人の扱い方を間違えると、人との関係をうまくこなせないと、恨まれて刺されることになる。現実には悪い人がいない世の中なんてこと絶対ないから、断る勇気や、距離感の取り方、悪い人に騙されたり傷つけられたりしないために生きる知恵を身につけなきゃいけない。

私は死刑制度容認派なんだけど、それは殺人鬼が社会にいたら困るから。普通に生活していて、無差別殺傷事件にあったら?子供が事件に巻き込まれたら?どうしてそんな人を社会にのさばらせていたんだろうと後悔すると思う。刑務所に入れるにしても更生の余地がないなら税金の無駄遣い。恩赦でいつか出てこられたら困る。残虐な事件を犯した人を、社会のルールで裁くことは必要だと思う。尊い命ってその命を奪って許されるのか?自分が遺族だったら絶対納得できない。事件についてよく調べ、犯行をおかしたことが明らかで、自分勝手な考えで残虐な事件を起こし、反省の余地もないようだったら、私たちが安全に暮らせる社会のためには死刑にするしかないと思う。あ〜でも、死刑制度容認というよりは、恩赦反対かもしれない。無期懲役+恩赦なし、だったら受け入れられる。社会的制裁として「制度が人を殺す」ということなんだけど、現実に「人が人を殺す」のはやはり良いことではないと思うから。

いろんな考え方があるし、そんなこと言ってたら女性は社会で安心して働けないことになっちゃうけど、耳かき店で働いてヘビロテでシフトを入れ仕事とはいえ距離感を近づけ過ぎた被害者に落ち度がないとはいえないと思う。でも21歳の女の子だったら若くて対応できなかったんじゃないかとも思う。被告が気の毒な部分はあるけど、遺族の思いはもっともだし。自分の感情や思い込みで突っ走ってはいけないし、何があっても人の命を故意に奪ってはいけない。検察の求刑は死刑だったけど、経緯をみると、死刑までにはあたらないというのは妥当な判決だったんじゃないかと思う。

最初から>>耳かき殺人法廷ライブ・裁判員初公判
途中途切れるのはこちら>>第2回(2)
判決公判>>耳かき殺人判決公判・法廷ライブ(上)
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