「ねぇ、聞いた?」 優希が、後ろから聞いてきた。 「おはよ、優希。何?なんの話?」 「やっぱり聞いてなかった?蓮、やっぱり知らないみたい」 「優希、情報源どこよ?」 なんの話だかわからない。美伽はきょとんと優希と蓮の顔を見る。 「だから、なんの話?全然わからないよ?」 風にあおられた髪を押さえる。上を見上げると桜の花びらがひらひら舞っていた。 「それがね、転入生が来るらしいんだよね」 「転入生?つい先週入学式だったのに?」 「入学式にどうしても間に合わなくて、1週間遅れなんだって」 「そう、本当なら今日から来るらしいぜ」 落ちてきた花びらを手に取る。薄いピンク。白に近い。 「間に合わなかったって事は、帰国子女?」 普通の入学なら、遅れる理由はないだろう。ふと、海音のことが浮かんだ。 「そうかもね。学校行ったらわかる人いるかも!」 優希はうれしそうに美伽の手を取る。 「美伽とかが違うから悲しいな。今日も教室にお昼に行くね」 蓮は美伽の頭に手を置く。あおられた髪が、蓮の手でさらにくしゃくしゃになる。 「蓮、やめてよ・・・」 「話せるヤツ、できたか?」 「兄貴面しないでよ。・・・大丈夫。心配しなくても」 「美伽人見知りするから心配なんだよ。優希と俺と離れる事なんてないしさ」 身長20センチ差の蓮の顔を見るために見上げる。 「・・・・やっぱり普通科にするんだったな・・・。それならここまで心配しないでしょ?」 「いや、それはもったいないから」 「そうそう!美伽は頭いいんだし!あたしや蓮とは比べものにならない位ねぇ」 優希が顔を近づけてきて、にっこり笑う。 「そうだなぁ。優希には絶対無理だよな、英文科・・・」 「はぁ!?なにそれ!!!蓮にだって無理じゃん!!棚上げしないでよね」 蓮がくすくす笑いながら先に歩いていく。それを優希が追いかけていく。 いつもの光景。変わらない、子どもの時から。
3人は幼なじみ。 小学校も、中学校も、高校も。 高校は、美伽は英文科、優希と蓮は普通科だ。2人は、クラスまで同じ。 学校は同じでも、科で制服も違い、校舎も違う。同じ学校なのに、違う学校のような感覚。
風が強くなって、花びらが強く舞っている。 「・・・・美伽?」 花びらの先、男が立っている。 「・・・・やっぱり。美伽、久しぶり」 美伽は顔を見た。 見たことがある。 でも、それは最近じゃない。 ずっと昔、夢の中とは全然違う。 成長した、高校1年生の姿で立っている。 「・・・・海音・・・・?」 つぶやくように。 確かめるように。 夢の中とは違う。 子どもの海音じゃない。 「美伽?どうした?誰か知ってるヤツ?」 「何々?美伽、どうしたの、何か言われた?」 蓮と優希が、突然立ち止まった美伽のところに近寄ってきた。 しっかり守るように立っている。 「あれ?蓮に優希?こんなところであえるとは思わなかった」 「・・・・え?海音!?おまえ、何でこんなところいるんだよ!」 「海音くん?海外じゃないの・・・・?」 美伽と同じように、蓮と優希がビックリしてる。 「ふたりとも、変わってない」 くすくすと笑う声が聞こえる。海音の、顔が笑ってる。
『ふたりは美伽のことが大好きなんだね。でも、それよりも僕の方が美伽のこと好きだよ。優しくて、かわいいところが』 笑顔の海音。優しく、守るような笑顔。
前に見た、海音の顔だ。 止まっていた足が動き出した。 「海音、久しぶり。どうしたの、こんなところで・・・。ビックリしたよ」 「親父の海外勤務が終わったから、日本に帰ってきたんだ。本当は入学式に合わせるはずだったんだけど、忙しくて来れなかったんだ」 「海音、同じ学校だね。英文科・・・私と同じだ」 「うん、せっかくアメリカで何年も過ごしたし」 なんにも変わってない。 アメリカにいて、離れていたなんて嘘のよう。
|