酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年05月30日(日) 映画『ENOUGH』

 ダイナーでウェイトレスとして働く美しいスリムは、自分を賭けの対象にしていた男から救ってくれたミッチと恋に落ちる。建設会社を経営するリッチで優しいミッチとの結婚。かわいい娘グレースが生まれ、スリムは幸福の頂点にいた。しかし、ある夜、ミッチへの不審な呼び出しが浮気相手だと気付き、ミッチに抗議をする。そのスリムを待っていたのは、豹変したミッチの暴力だった。
 スリムはミッチの元から逃げ出すのだが、どこまでも執拗に追いかけてくるストーカーと化したミッチ。そしてあの運命の出会いすら、ミッチの策略だったと知ったスリムは決意する・・・。

 優しかった旦那様が豹変し、暴力でねじ伏せようとする。それは女性にとっては耐えられない屈辱。この物語のミッチは浮気もやり放題、でもスリムと娘は手放したくない。そこが屈折していて怖いところ。女性を自分の従順な隷属物として扱う感覚はわからないなぁ。
 この映画の見どころは、ジェニファー・ロペスが選んだ最後の決断。もうまさしくラストは圧巻です。あんなことをされたのだから、いいとか悪いとか無視して、スリムの決断を指示します。賢い選択と言えます。女をなめるんじゃねー。



2004年05月29日(土) 『クライマーズ・ハイ』 横山秀夫

 1985年、阪神タイガースの快進撃に湧いた夏、日航ジャンボ機が墜落事故を起こした。事故現場は御巣鷹山。地元新聞記者・悠木は、この事故の全権を託される。社内外でのスクープ合戦・足の引っ張りあい。悩み苦しむ悠木が選んだスクープ記事掲載の決断は・・・。

 ものすごい物語です。今からもう19年も前にあの悲惨な航空事故が発生し、あの同じ年にタイガースは優勝していたのですね・・・。悠木というベテラン記者の苦悩ぶりが切実で、元新聞記者の横山さんならではの作品なのだと思いました。クライマーズ・ハイと呼ばれる興奮状態を山登りとスクープ合戦にだぶらせ、うまいなぁと思いました。命の重さに違いがあるのか? その問いかけに胸が痛くなりました。すばらしい作品です。オススメv

「言葉っていうものは怖いもんだぞ。案外、活字よりも心に残ったりするからな」

『クライマーズ・ハイ』 2003.8.25. 横山秀夫 文藝春秋



2004年05月26日(水) 『チルドレン』 伊坂幸太郎

 鴨居はシャッターの降りかけた銀行に滑り込む‘陣内’に付き合って、銀行強盗に巻き込まれてしまう。相手が強盗であろうとじっとしている陣内ではない。はらはらする鴨居の心配をよそに無茶苦茶な陣内。そしてそこで盲目の青年・永瀬と知り合うのだが・・・。

 伊坂さん、まさしく絶好調v 史上最強の脇役なんて誉め言葉(惹句か?)をどこかで見た気がするけれど、陣内は脇役なんかじゃないなぁ。例えるならば京極さんの榎津の流れを汲む男。周りのことなどお構いなしだが、魅力があるって感じかしら。この陣内の物語はもっと読んでいきたいと思いました。オススメv

「そもそも、大人が恰好良ければ、子供はぐれねえんだよ」

『チルドレン』 2004.5.20. 伊坂幸太郎 講談社 



2004年05月25日(火) 『ツクヨミの末裔』 倉本由布

 花は眠ったまま目覚めないツクヨミの血を継ぐ恋人・琳を救うため、《水》を捜し求める。黄泉の国の神スサノオは花が《水》を見つけてあげないと琳は死んでしまうと予言する。花は《水》をみつけることができるのか?

 タイトルに惹かれてさらりと読破。ふむ、この感じなら厭きることなくシリーズでも読めそう。コバルト文庫って私には当たり外れが大きかったり、厭きたりしちゃうから。
 花という少女の凛々しいさまが良いです。ラストは、うーん(悩)。これをハッピーエンドと人は呼ぶのだろうか。謎だ。

「言葉にすれば気持ちが軽くなること、あるでしょ?」

『ツクヨミの末裔』 2004.2.10. 倉本由布 コバルト文庫



2004年05月24日(月) 『ガーデン・ガーデン』 稲葉真弓

 夫婦が肉体を他者に与える機会を取り付ける場所、肉体の形を見せるショーウィンドウ、それが『ドミノ』という専門誌。そこで働く結婚に失敗した三人の女性の心と葛藤の物語。

 夫婦交換、そこまでして他から刺激を得ることで形を守ろうとする夫婦達。なんだかものすごーく深遠な世界でした。男と女がひとつ屋根の下で長年暮らしていると、厭きる人たちも存在すると思います。そこでよそへ走らないで、ふたりで協力をして結びつきを固めようとする。すごすぎます・・・。

 年齢も美醜も超えた欲望がひそんでいる

『ガーデン・ガーデン』 2000.8.22. 稲葉真弓 講談社



2004年05月23日(日) 『看守眼』 横山秀夫

「看守眼」
 県警の機関誌の編集を担当する悦子は、退職する警察官・近藤から必要な手記を提出してもらうために会いに行く。この男は刑事になりたくてなりたくて、しかし最後まで看守を勤め上げることになった人物だった。その彼が、退職間近にある事件を勝手に追っていたのだが・・・

 うーん、うまいものですねぇ。さすが今の横山秀夫さんにハズレなしと言った感じです。今回の短編集も読み応え充分。女心をよくわかっていらっしゃることが不思議なのだけど。さらりと読了。面白かったです。

 言葉の暴力は心を傷つけるだけだ。普通に生きていれば誰だって心なんか傷だらけだ。

『看守眼』 2004.1.15. 横山秀夫 新潮社



2004年05月22日(土) 『さよなら妖精』 米澤穂信

 高校三年生の守屋路行はある日《マーヤ》と言う異国からやってきた少女と巡り合う。日本を知るために来た少女と過ごすほんの二ヶ月。守屋と仲間達はマーヤが疑問に感じる日本の日常の謎を説明していく。マーヤが帰国した後で、守屋の一番大切な謎解きがはじまった。マーヤはいったいどこへ帰って行ったのだろう?

 不思議の国ニッポン。本当に私が暮らすこの国はなんと不思議なことが多いことだろう。そういう当たり前となった日常の謎を異国の少女に説明する高校生達。ほのぼのと暖かい交流が、一転・・・。この展開にはやられました。帯にあるボーイ・ミーツ・ガールに惑わされていると大きく足元を攫われる。これは老若男女全ての人に読んで欲しい本です。読んでよかった。ラストに私は泣きました。

「いらない。忘れたいって言っているでしょう」

『さよなら妖精』 2004.2.25. 米澤穂信 東京創元社



2004年05月21日(金) 『ダムド・ファイル 「あのトンネル」』

 隆と美沙子は、事故で繁を亡くした。そこから生まれたふたりの間の不協和音。隆は瀕死の淵にいる叔父から、死者に会えるトンネルの話を聞かされる。そして・・・

 数週間前についついパソコンを遅くまでやっていて、ふと始まったドラマに釘付けになりました。それが噂の『ダムド・ファイル』だったのです。これは怖かった。私がたまたま見たエピソードはあるマンションに霊が集まり、そこに住む少女とその家族に災難が降りかかる、というものでした。ありがちな話ですが、映像は怖かった。かなーり怖かった。その『ダムド・ファイル』のスペシャル版のノベライズです。これは映画化されているものかな?
 名古屋にあるという心霊トンネルを基に作られた物語。映画『ペット・セメタリー』でも描かれたことですが、死者は生前のその姿心模様とは違っているのではないか? そんなことを考えさせられました。

『ダムド・ファイル 「あのトンネル」』



2004年05月20日(木) 有元利夫展 光と色・想い出を運ぶ人

 38歳と言う若さで夭折した天才・有元利夫さん。おそらく本好きさんたちならば本屋さんで見かけたことがあるはず。宮本輝さんの装丁に使用されていますから。色合いが古びていて首と腕がやたら太い女性。でも生命や宗教(神の存在かな)や音楽を感じさせる独特の絵。大好きなんですよ。
 彼は岡山県津山市に生まれました。しかし、岡山での大きな展覧会は今回はじめてではないかしら。やっと「お帰りなさい」と言う感じでした。今回の展覧会へ足を運ぶのは今日で2回目(なんとかもう一度行きたい)ですが、雨が降っていたので閑散としていました。雨の音と湿度の高さがまたいい雰囲気で。会場には有元さん作曲の音楽がずっと流れていました。有元さんは音楽と絵を同じに捉えていたようです。だから絵を見ていると音楽を感じて当然。今日の私は中島みゆきさんの「時代」がぐるぐる回っていました。「まわる〜♪まわるよ〜♪時代はまわるー」と口ずさみながらゆるゆる周りました。至福とはこの瞬間。
 好きな作品は何枚もあるのですが、特に立ち止まってしまうのは「厳格なカノン」です。女性がはしごをかけて空へ昇って行く場面なのです。あの絵を見るたびに私もあのはしごを昇っていきたい・・・と思うのです。そうしたらもしかしたら亡くなったアノヒトに逢える気がして。ほろり。
 もし機会があったら是非見に行ってください。心のどこかを刺激する素敵な絵ですから。



2004年05月19日(水) 『三途BAR』 明野照葉

 和実は渉が死んでから生ける屍と化していた。なにをする気力も湧かず、アルコールにすがる日々。しかし、友人の堀江からのアプローチで仕事に復帰し、祝勝会へ。三軒目に流れ着いた飲み屋は《三途BAR》という風変わりな店だった。その店は生者と死者が交じり合うBARだった。そして和実は・・・

 明野照葉さんの物語でタイトルがタイトルだけに覚悟して読みましたが、参っちゃった。ノックアウト〜。私も三途BARに呑みに行きたいよ・・・。
 大切な人を失う辛さを経験した人が読むと、かなーり心にずっしり迫ってきます。いいとか悪いとかでなく、明野さんとんでもないもの書かれたものですわ。降参。

 酒に溺れることで、目の前の現実から逃げていた

『三途BAR』 明野照葉



2004年05月18日(火) WOWOW『妄想代理人』#13 今敏(こんさとし)

#13「最終回。」
 現実から逃げてしまった猪狩のいる昭和の古きよき時代に月子が逃げ込んでくる。まるで父娘の様に時間をゆるりと過ごす猪狩と月子。しかし、街頭テレビに馬庭からのメッセージが流れ込む。そして突如現れた妻の美佐江。そして猪狩は気付くのだった。居場所がない場所でもそれこそが自分の現実に生きる場所であると。ついに対決する猪狩と月子。マロミと少年バットの正体は・・・

 きっちり《妄想》で締め括られました。さまざまなエピソードの謎が謎のままなところがもどかしいと言うか、ウマイと言うか。ラストのラストをあぁ落とすとは参ったなぁ。うまかったなぁ。でもやはりより詳しいものを求めてしまう。どうかあの謎たちを解明して〜(泣)



2004年05月17日(月) 『もっと、わたしを』 平安寿子

「愛はちょっとだけ」
 絵真は美しい。男心をそそる美貌を持っている。しかし彼女にはその美貌ゆえに親友と喧嘩別れした苦い経験があった。ある日、絵真はそのかつての親友に再会するのだが・・・

 美しい人には美しい人なりの苦労や悩みがあるものだなぁと思います。でも、やはりかつての親友・麻衣子が指摘するように美しいだけで得をするのも事実。結局、どんなに美しくてもその内面が同じくらい磨かれないとダメなのではないかしら。
 この『もっと、わたしを』は不器用なおとなの男女の恋愛短篇集です。物語の登場人物がリンクしていて面白いです。誰も皆なにかに悩み傷つき、そしてやっぱり少しだけ頑張って生きているんだなぁと言う感じです。

「つらいことがあったみたいだけど、我慢するんだよ。人生はつらくて当たり前だからね。だから、うちらみたいな商売があるんだ。でも、やけ酒はゆっくりおやり。眠れるくらいでやめとくんだよ。二日酔いなんかしたら、嫌な一日いつまでも引きずるのと同じだもの。お酒がもったいない。つらいことをごまかしごまかし生きてける程度に酔うために、お酒はあるんだから」

『もっと、わたしを』 2004.1.30. 平安寿子 幻冬舎 
 
 



2004年05月16日(日) 『声だけが耳に残る』 山崎マキコ

 加奈子は無職で引きこもり。父親の母親に対する暴力を目の当たりにし、精神のバランスが崩れてしまったことに気付かず生きてきた。ネットで知り合った邪悪閣下にMとして調教されていたが、バイトとして便利屋で働き始め、自分と向き合い始める・・・

 機能不全家族で育った人間はAC(アダルトチルドレン)となりやすい。加奈子はひたすら自分を虐めようとする。痛々しいまでに。しかし自分が求めていたものに気付いた時、加奈子が加奈子として覚醒をする。
 痛い痛い物語でしたよ。現実に起こった事件なども散りばめられていて。でも文章のテンポが良くて、加奈子の心の声が意外に明るくユーモアがあるため読み進めることができました。
 この物語のテーマはとても重いもので気軽に感想なんて書けないです。基本的に私は自分の不遇や何もできないことを親のせいにするタイプは受け付けませんし、20歳過ぎたら全ては己の責任と考えています。しかし、暴力(虐待)で歪められた心に対してはそういうふうに言えませんね。

 不幸な出来事を人生の災難と思うか、自分を育てるための石段だと受け止めるかで、人間の大きさは違ってくるんだ

『声だけが耳に残る』  2004.2.25. 山崎マキコ 中央公論新社



2004年05月15日(土) 『禁じられた楽園』 恩田陸

 天才カリスマ烏山響一。禍々しく凶暴な芸術で人々を魅了している。大学で不幸にも響一の目に留まってしまった捷(さとし)は、彼と彼の叔父の創り上げたプライベート・ミュージアムへ招待される。そこで彫刻家として注目されている律子とともに捷が体験する《恐怖》とは・・・

 素晴らしい! 私の陸ちゃんを大好きゾーンどまんなか!な物語です。ひゃー、参っちゃった。読んでいると故・遠藤周作さんの描いた作品の中の悪魔達をふいっと思い出しました。そして読了後、その感覚はそうはずれていなかったなと思いました。エンディングは遠藤さんのソレとはまったく違う方向に置かれていましたけど。
 うまいなぁ。素敵だなぁ。ただのホラーじゃないものなぁ。この烏山響一は、『三月は深き紅の淵を』の「出雲夜想曲」にちらりと登場します。あの物語の中で好きなキャラの朱音がキライだと言い切る絵の作者として。そのシーンが妙に心にひっかかっていたのですが、見事に恐怖の大王として(笑)今回登場してくださいました。笑った。笑った。
 今回、物語のテーマ“恐怖”も良かったし、久々に最強キャラが登場したことが嬉しい。捷のねぇちゃん(笑)の香織です。この女素晴らしい。全てをさっぱりひっくり返す。そうあの西澤保彦さんの生み出したタカチに匹敵する。いやぁ、美しきヒロインたち。涎〜。

 造り出すモノがなんであれ、その作品には作者の内面が現れる。

『禁じられた楽園』 2004.4.30. 恩田陸 徳間書店



2004年05月14日(金) 『魔法飛行』 加納朋子

 駒子は、ひょんなことから知り合った(と言っていいかどうか疑問だが)大好きな童話作家・佐伯綾乃さんの弟の瀬尾さんにぽろりと言葉をこぼす。「私も、物語を書いてみようかな」と。そして駒子は書き始めるのだった。短大で出会ったいくつもの名前を持つ女性との不思議な出会いから・・・。

 『ななつのこ』の駒子シリーズ第二弾です。今回もまた駒子の遭遇する事件や人との関わりに、《今度は》佐伯綾乃さんの弟さんが名推理を展開します(笑)。日常にふとどうしてだろう?と思った小さな謎が積み重なり、今回も駒子ならではの宇宙が形成されます。今回は特に駒子と瀬尾さんの往復書簡の後に届く不気味な手紙が異彩を放っています。これもまた駒子の今回の宇宙を構成する一つだと気付く時には唸ってますよ、きっと。悶々としただけ余計にねv
 私が一番好きな物語は「クロス・ロード」です。情景が浮かぶんですよね・・・。

 死んだ人間を蘇らせるのは、いつだって生きた人間なんだってことだ。

『魔法飛行』 2000.2.25. 加納朋子 東京推理文庫



2004年05月13日(木) 『ななつのこ』 加納朋子

 女子短大生・駒子が日常で巡りあったひそやかな謎たちを、大好きな童話作家の佐伯綾乃さんへファンレターとして送り続ける。それに対して綾乃さんが名推理を返信してきてくださる・・・

 こう書くと、きっと北村薫さんの永遠の名作《私》シリーズを彷彿させる方が多いことでしょう。いい意味で似通っているとも言えますし、まったく非なるものとも言えます。・・・なぁーんて訳のわからない感想ですね。えへへ。
 加納朋子さんのデビュー作。この暖かで優しき物語を紡ぎだす加納朋子さん。文は人なり(お目にかかったことはありませんが)、そう思います。この『ななつのこ』のエピソードの中で一番好きなのは駒子と少女・真雪とのかかわりです。このふたりの間に通い合う暖かな情感がなんとも言えず微笑ましい。最後の種明かしはうまいなぁと何度読んでも思います〜。大好き。

 厭になるくらい、私は未熟だ。しかも未熟さを理由に大目に見てもらえる時代は、そろそろ頭の上を通り過ぎようとしている。これでもいつの日か、こんな自分を愛おしく振り返る時がやってくるのだろうか。

『ななつのこ』 1992.9.25. 加納朋子 東京創元社



2004年05月12日(水) WOWOW『妄想代理人』#11、#12 今敏(こんさとし)

#11「進入禁止」
 少年バット事件捜査の失敗で刑事を辞めた猪狩。妻の美佐江葉は身体が弱く、手術が必要と言われている。猪狩に負い目を感じている美佐江は少年バットを呼び寄せてしまう。しかし少年バットに語るうちに美佐江は悟る。「人間はどんなに辛くてもその現実に立ち向かうことができる」と。しかし、その頃、猪狩は自分の居場所を見失っていた・・・

#12「レーダーマン」
 猪狩の元部下の馬庭は、美佐江から「偽りの安らぎを与えるマロミと少年バットは同じ…」と教えられる。やはり事件の根っこは鷺月子にあると確信する馬庭は、月子の父親に会いに行く。そこで知らされた月子の過去とは・・・。そして月子の周りでまたもや殺人事件発生!

 うわー、いよいよ次が「最終回。」ですよ。タイトルが「最終回。」・・・笑えます。鍵は月子とマロミが握ったままだったってわけだなぁ。
 さて・・・



2004年05月11日(火) 『転校生』 森真沙子

「理化室 少年は虹を渡る」
 有本咲子(えみこ)は転校先で化学部の幽霊部員になる。転校先で友達もできない咲子は“伝言ダイヤル”の転校生マジメサークルTENにはまる。そこの人気者カンパルネルラにほのかな想いを寄せるのだが、彼の正体は・・・

「美術室 樹下遊楽図屏風」
 美術部に所属する咲子の前に美しい転校生が現れた。室生環。水際立った美しき異邦人。彼女と伝説の屏風の再現をすることになり、のめりこんでいくふたり。そして事件は起こった・・・。

「音楽室 みんな集まってくるよ」
 瀬戸内海を眺める学校に転校した咲子は、ピアノで音楽祭に出場することになってしまう。ある日、ふとした偶然から見つけた楽譜にインスピレーションを得、歌詞をつけ歌うのだが、その曲には恐ろしい過去の出来事が封じ込められていた!

「図書室 墜ちる鳩」
 松江の高校に転校した咲子は、図書室で借りる本のカードに必ず見つける名前があった。よほど物好きでない限り、手にしないだろうという本にまで。その人の名前は黒崎薫。彼は美しい少年だったらしいのだが・・・

「寄宿舎 女友だち」
 高校三年生の二学期になって、咲子は寄宿舎のある学校へ転校した。皇夕子という美しい上級生(大学生)に憧れる。しかし、彼女の周りには不可解な事件が・・・

 森真沙子さんのホラー短編集を久しぶりに読み返しました。転校生という存在の神秘さをうまく使っているな、と思います。学園ホラーって好きだなぁ。
 中でも「図書室」は松江が舞台。やはり、かの小泉八雲の存在は作家さんたちにさまざまな影響を与えるのでしょうね。あの土地は確かになにかが違う。
 しかし、9年も前の作品だと時代設定が今とはまったく変化してる。あの頃は伝言ダイヤル時代だったんだ。

『転校生』 1995.7.24. 森真沙子 角川ホラー文庫



2004年05月10日(月) 『不運な女神』 唯川恵

「枇杷」
 ああ、今年もまたその季節がやってきた。佳奈子は届けられた枇杷を見てしみじみ感じた。女のもとへ出て行った夫の叔母からだった。夫は食べないが、娘と毎年美味しくいただいていた。不倫で略奪愛だった。なのに今度は自分が奪われようとしている。そしてその枇杷の送り主は実は・・・

 この『不運な女神』は、タイトルどおり不運な女たちの物語。中でもこの「枇杷」はとても考えさせられた展開です。‘そういう’女たちに生まれるなにかって果たしてあるのだろうか? 私にはわからない・・・。

「もう意地を張るのも疲れたわ」

『不運な女神』 2004.3.1. 唯川恵 文藝春秋



2004年05月09日(日) 『五人姉妹』 菅浩江

「五人姉妹」
 葉那子は父親の会社のために成長型人工臓器を埋め込まれた。葉那子の成長のために4人のクローンが用意される。父が亡くなった後、葉那子は4人の姉妹と面会するのだが・・・

 菅浩江さんは本当にたまに手にするくらいの作家さんなのですが、読んだ後はいつも「うまいものだ」と唸らされてしまう。今回の『五人姉妹』はSF短編集。他にも良い物語はあったのですが、やはりこれが一番素晴らしかった。
 バイオ企業の社長だった父親が社運をかけた新製品を法を破って娘に埋め込む。その娘になにかあったら取替えが効くように4人のクローンを用意する。年代を分けて。父親の野心と愛情の狭間で5人姉妹はそれぞれ思い悩み成長する。長女である葉那子が4人の姉妹達と面会し、喜び傷つき絶望する。憎んでも憎みきれない娘達の父への愛。こういうテーマを父娘愛で括るなんてうまいなー。

 運命の重みは背負っている本人には判らず、周囲ばかりが、重そうだつらそうだ、と慮るのが常ですわ。

『五人姉妹』 2002.1.30. 菅浩江 早川書房



2004年05月08日(土) 『二人道成寺』 近藤史恵

 小菊は、女形役者の中村国蔵から友人の今泉を探偵として紹介して欲しいと頼まれる。国蔵が今泉に依頼したのは、女形役者のライバルと目されている岩井芙蓉の妻の事件のことだった。三ヶ月前、芙蓉の自宅が火事になり、芙蓉の妻・美咲が昏睡状態に陥ったまま。その火事の原因が芙蓉にあるのでは、と国蔵は考えているようだ。芙蓉と国蔵と美咲。三人の間にいったいなにが・・・。

 深いです。近藤史恵さんの描く男と女。女と女。そして男と男。歌舞伎が好きだからこそ自然にこういう流れが生まれてくるのでしょうね。今回の目玉は芙蓉だと私は思います。だから、芙蓉の心が明確にされなかったことが(ある部分ではハッキリ提示されていますが)もどかしい。私の想像した芙蓉の思いの行方はあっているのかしら。巻末インタビューもいいけれど、も少しそこらを描いて欲しかったな。芸に身を投じる人間の業というか、すざまじいばかりの研究熱心さには背筋が寒くなりました。

 現実はいつも、残酷で、そうして正直だ。

『二人道成寺』 2004.3.30. 近藤史恵 文藝春秋



2004年05月07日(金) 『幽霊人命救助隊』 高野和明

 天国へ行きそびれた自殺者4人が、神様の命令で人命救助をすることになる。ミッションは自殺しそうな人間を100人助けること! 八木剛造、短銃自殺。市川春男、服毒自殺。安西美晴、飛び降り自殺。高岡裕一、首吊り自殺。粗末にした命の償いをキッチリ果たせたら、4人は天国へ行けるのだ。7週間(49日)で100人のノルマを4人は達成できるのか?

 ツボです。来ました。超オススメ本。やー、読んでよかったわー。さまざまな時代にそれぞれの事情で自殺した4人が、自殺しそうな人間を助けることによって、己の魂すら浄化していく感じ。たくさんの自殺志願者が世の中には溢れかえっている。でも生きなければならないんだと幽霊達が本気で自殺を悔やみ、食い止めようとする。時におもしろく、時にほろりと。いい物語ですよ。ほのぼの。

「人間ってのはな、自分の金太郎飴なんだ。どこを切っても自分よ。それ以外に何がある」

『幽霊人命救助隊』 2004.4.10. 高野和明 文藝春秋 



2004年05月06日(木) 映画『ホーンテッド・マンション』

 ジムは不動産の仕事に乗りに乗っていた。家を得意のトークで売りまくる。しかし、そのせいで家族はいつもないがしろ。美しい妻サラとの結婚記念日も仕事を優先し、すっぽかしてしまう。高級時計でサラの怒りを鎮めようとするが、サラは許せない。そしてつい週末家族旅行を約束するのだが、家族を連れて優良物件を見に遠回りしてしまう。その屋敷は美しくおぞましく呪われていた・・・。呪いをとかない限り、ジムのしあわせは失われてしまう!?

 アハハ。面白かったですよー。超豪華な映画によるアトラクションって感じですね。ディズニーランドの人気アトラクションを題材に作った映画。さすがにディズニーはやることにソツがない。抜け目が無い(笑)。テーマは《愛》ってとこもディズニーらしい。
 エディ・マーフィー演ずるジムの奮闘振りがすっごくおかしかったです。どんな映画であろうと、エディ・マーフィらしさは失われない。喋る。喋る。ネタバレになるので書きませんが、さまざまなゴーストたちも愉快でした。ホラー・ラブコメディですね。ふふふ。



2004年05月05日(水) 『いつか、ふたりは二匹』 西澤保彦

 智己は小学校6年生になったばかり。特技(?)は、ある猫にのりうつれること! 眠っている間に美人の猫(♀)になっていて夢かと思っていたが、そうではないことに気付く。そして智己の周りに起こる小学生の女の子を狙った陰湿な事件に遭遇。猫のジェニイ(自分で命名)となった智己は、セントバーナードのピーターと事件解明に乗り出すのだが・・・。

 あぁ、これもいいですわ。読んだ後にほろほろ泣いてしまいました。まず男の子が猫にのりうつれちゃうという設定がいい。ミステリーランド万歳って感じ。後は登場人物の妙ですね。西澤先生らしいと言えば、らしい登場人物かもしれないけれど、暖かくてすごーくすごーくいい! 子供たちに生と死を考えてもらうためにも読ませてあげたいな。

(人間も、そして犬や猫などの動物も、いつかは必ず死ぬ。わたしたちは、愛するひとたちとも、そうでないひとたちとも、いずれはお別れをしなければならない。いつかはみんな、ひとりになってしまうんだ。わざわざ他者を傷つけたり、殺したりしようとするやつは、そんな単純で、揺るぎない真理を、まったく判ろうとはしないんだね。)

『いつか、ふたりは二匹』 西澤保彦



2004年05月04日(火) 『駆けてきた少女』 東直己

 「このオヤジ、殺して」・・・そして《俺》は刺されたんだ。まとわりつく男から助けてあげようとしただけなのに。《俺》は脂肪のおかげで助かった。あっと言う間に笑い話として駆け巡る噂。脂肪で助かった《俺》・・・カッコ悪い。見舞いに来た霊能者のオバちゃんの強引な泣き落としで、オバちゃんちに出入りする不気味な少女カシワギの身辺調査を引き受けた。退院した《俺》は、《俺》を刺した男とカシワギの調査をすすめるうちに、謎のライター《居残正一郎》とかかわることになり、思いがけず腐敗する道警と札幌の夜の闇のイベントに巻き込まれていくのだが・・・。

 東直己さんのススキノ探偵シリーズ第7弾です。この主人公《俺》さんがいいんですよね。駄洒落親父だけど(苦笑)。ただ今回のラストのいきなりな纏めようはいったいぜんたいどうしちゃったんでしょう? そこに行くまでが最高にスリリングだったのに、あっけない纏めと落とし。納得いかなかったなぁ。最後まで丁寧に描ききって欲しかった。散りばめられた様々なテーマは面白いんですよー。なんだか悔しいなぁ。むー(怒)

「俺は、君の代わりに眠ることもできないし、君の代わりにメシを食うこともできないんだ。眠たいなら、眠ればいい。腹が減ったら、食えばいい。他人には、そこらへんのことは、どうしようもないことだ」

『駆けてきた少女』 2004.4.15. 東直己 早川書房



2004年05月03日(月) 映画『完全犯罪クラブ』

 ハイスクールの人気者リチャード。金持ちで男前のスポーツマン。友達のいない孤独でオタクな天才ジャスティン。学校ではまったく接触しないふたりが、断崖に聳え立つ廃墟で密会していた。ふたりは「究極の自由」を手に入れようと完全犯罪を目論んでいた。そして発生する殺人事件。過去に傷を持つ一匹狼の女性捜査官キャシーは彼らにどう対するのか?

 タイトルがいいし、期待して観た割には肩透かしを喰らってしまった気分。ヒロインのサンドラ・ブロックが好みの女性ではないからかもしれない(笑)。
 リアルワールドで時代に関係なく想像を越えた犯罪が起こる。それを解明しようとしても犯人の心の闇に到達できない限り(もしくは同化できない限り)どうしてそんなことが起こったかなんてわからない。
 この映画は、ちょっと優れたふたりの少年がいい気になって世界を動かしてみようとしているみたい。遊び心的犯罪なんて題材としても目新しいとは思えない。私が惹き付けられる悪とか犯罪というのは、どうにも理解しえない種類のものなのかもしれないなぁ。



2004年05月02日(日) 『犬飼い』 浅永マキ

 糺(ただし)は、電話番号の記されていないアルバイト募集に興味を惹かれ、昔懐かしいのどかな田舎にやってきた。勤め先は、井向(いむかい)家。そこは村人から守り神と呼ばれているらしい。井向家には少女の風貌をした弥勒。その妹の美しい夏央吏(かおり)。執事の修江。当主の車椅子の女性がいた。糺は井向家のしきたりや秘密にどんどんど踏み込み、迷い込んでいくのだが・・・。

 うーん。題材がそこそこに横溝チックなのだから、こういう伝奇ポルノで終らなければよかったのに。なんだかもったいない気がしました。糺が巻き込まれる非現実的な淫靡な世界だけって言うのがどうも食傷してしまう。姉や当主や地下牢の存在をもっと書いて欲しかったな。

「ちっとも、めでたし、めでたしで終るお話なんかじゃないわ。あたしなら、王子様のキスもいらない。百年後の目覚めもいらない。いっそ世界が終るまで、体が朽ち果ててしまうまで、ずっと眠り続けて、死んでいけるほうがいいな」

『犬飼い』 2004.3.30. 浅永マキ 学習研究社 



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