「今まで自分はBカップだと思っていたのに実はEカップだった。」
そんなちょっと信じられない勘違いをしていた女は私の友人だ。 一気に3ランクUPな彼女から、いらなくなった下着をいくつか譲ってもらった。 この際サイズなんてどうでもよかった。 彼女はいつもいい洋服を着ているので、下着も高級なメーカーものに違いない、そう思った。 普段、通販かダイエーの「下着まつり」でしか下着を買ったことのないこの私が、 有名メーカーの下着を、しかも上下セットで、タダ同然の値段で手に入れることができる。 素晴らしい話が舞い込んできたもんだ。 私も欲しい、と名乗りをあげてきたユリビビと身体障害者用トイレに篭り、便器の上でブラジャーの争奪戦が始まった。 下着はどれも絶対自分では買わないような代物だった。 色も様々で、デザインも可愛らしいものからカッコいいものまでいろいろあったが、結局引き取る数の少ないユリビビにチョイスは優先させ、残りの全てを私が引き取った。 1枚300円で商談は成立し、私は代金1500円を支払って、ホクホクで家に持ち帰った。 こんなとき私の頭に先ず浮かぶのは 素敵な下着が手に入って「ヤッタア!」よりも 「これで当分自分で下着を買わなくて済む。」である。 貧乏なのか、面倒臭がりなのか、 とにかく酷い女だ。 買い取ったなかでもひときわ可憐な、 春のお花見を連想させる桃色の下着は、私のガラに合わないと直感的に判断したので、私のかわいいメリーウイドー(母)にあげることにした。 なにはともあれ、私のたんすの上から2段目は近年稀に見る充実っぷりである。 今日あらためて感じてしまったのは 高い下着をつけて、 お洒落な服を着て、 原宿あたりの美容院に行って… みたいなことが普通のハタチそこそこの娘の日常なのだということ。 勿論、私の今居る環境のなかでの話だが。 以前、そんな一般的な街娘の友人に 「美容院は美容師と話が合わないことが多いから好きじゃないが、普段読まない『女性セブン』とかが読めるのはいい。」 と言ったところ、 「表参道の美容室にそういう雑誌はないよ。」 と言われたことがある。 (そんなところで私の日常が露呈してしまった!) 後日、試しに私の友達たちのよく行く都会の美容室に行ってみたのだが、コレが結構よかった。どうよかったかは面倒くさいので書かないでおくが、高い金を払うだけのことはあるなと妙に納得してしまった。 そんなことを思い出した。
この話に結論はない。
こことこユリビビさんとの間で密かなブームのマニキュア。 今更ながら、そのルックス的というよりは精神的な方面への効果の大きさに感心してしまう。 思えば大学に入学してからというもの、マニキュアなどほとんど塗ったことがなかった。 浪人の頃は、爪塗り、化粧、原宿古着散歩あたりが私のささやかなストレス発散であり、唯一のこだわりであり、プライドであったので、 わりかし頻繁にマニキュアは塗り替えていたんだ。 (今こうして「ねいる」と入力すると「寝入る」と変換されてしまう。この事実からしても「ネイルアート」や「マニキュア」だなんて話題にものぼっていなかったことがおわかりだろう。)
今まですっ飛ばしていた雑誌のネイルのページを一寸見てみたりしつつ、マニキュアは色づいた爪先の繊細さと、色を選ぶたのしみが醍醐味なんだと、わかったようなことを呟く。 キレイになった指先が嬉しくて、指輪をハメてくるようになったユリビビさん。 金属アレルギー気味の私はそれは出来ないが、それでもなんだが気分が良くって手の動きひとつひとつが優雅にさえ感じてしまう。 嗚呼、春思う年頃の少女じゃあるまいし、今頃そんなことに目覚める少々無頓着過ぎた大人たち!
すっかり気分を良くし、この先ずっと爪を塗り続けていくつもりでいるこの単純な大人は、 色のレパートリーは多ければ多いほどいいだろうということで、当時のマニキュアを引っ張り出してみた。 浪人時代や高校時代のものばかりなので、ほとんど固まってしまい使いものになりそうもなかったが、 それ以前に色の趣味が当時と全く変わってしまっていたので、今は全然塗る気にもならない色達ばかりだった。 引出しのなかには、 キミドリ、緑、パープル、みずいろ、赤、ピンク、帆立貝の裏側のような光沢のホワイト… そして、ラメが散ってゐる! あっ、蝶のネイルシールまである! なんだろうこれは。 徳川埋蔵金なのか、それともカリブの海賊の仕業か!! 想像が膨らみ過ぎましたが、それほど私にとって衝撃的であった。 季節的なこともあるだろうが、今私の目にとまるのは、ブラウン、ベージュ、紺などダークな色ばかり。 引出しのなかで宝石のように輝く、使えないネイルエナメル。 ラメのキラめきは、若さのキラめき。
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