ウラニッキ
You Fuzuki



 踊る大捜査線THE MOVIE2(ネタバレ)

というわけでネタバレ感想をつらつらと。例によって主観まるだし思った順ですのであしからず。

全体の感想としては、なんというか、期待通りという感じ。求めていたものをもらえたというか。私の思っていた、これこそ「踊る」の醍醐味! というものはすべて詰め込んでくれてました。でも逆にいうと、すべてに「見覚えがある」という感じも否めない。大怪我ネタも真下君、青島に続いて3回目ですし、ガチガチのキャリアのせいで捜査が混乱するのも、青島が現場で突っ走るのも、ラストになって室井さんが出張ってくるのも。どれもこれも見せてくれなきゃ「踊る」じゃない! と憤っていたでしょうけれど、それ以上のプラスアルファもなかったかな。「踊る大捜査線」としては素敵、でも、ひとつの映画としては、少しだけ物足りないかなと。贅沢なんですけどね。面白かったしさ。
マイナス評価はまあ、つらつら書いても仕方ないのでこの先は愛を叫びます。皆さま覚悟してね?(笑)


さて最初の叫びはやっぱり「むーろーいーさあああん!!」(ハァト)
素敵です。可愛いです。もう大好きです。貴男にめろめろ。某王子の次くらいに映画キャラとしてめろめろ(笑)
いろいろ良かったんですがまずは自動販売機! ほんとに販売機ごと返しやがった! 自費なのか公費なのかがちと気になるところですが(笑)自販機のとこでの会話も、もうおなじみになりましたねえ。しかし青島「まだ管理官なんすか」はないだろう。たぶんあんたのせいだ。
かっこえー! と思ったのは当然、地下の監視室を出て特捜本部に入り指揮をとるまでの一連のシーンですね。正式に権限を得るより先に、飛び出してしまう貴男が好き。最初は歩いてるのが、だんだん早足になって、ついには走り出してしまうのよね〜あのしかめっ面で! いけ室井さん! と叫んでました、心の中で。新城とすれちがうときの新城の「本部を頼みます」これも良かったなあ。新城氏は前作ラストで変わりましたよね。なんていうか、立場も考えも違うけれども認めているって感じ。彼自身は上の不興を買わずに器用に動けるタイプだから、不器用にしか立ち回れない室井さんがもどかしいんじゃないかしら、なんてのは深読みでしょうか。
捜査本部に入っての第一声「捜査を立て直す」以下の室井さんの各台詞はほんと、しびれます。ええ。あんなふうに信頼されたら、きっと持ってる力全部注がずにいられない。あれでいきなりすべてがうまくいくのは理想というか幻想というか、ですけれども、だからこそ理想として見せてほしいんだ、私は。
解決後の病院での青島との会話も素敵でした。上に引用? しましたけど、「しびれるような命令を、ありがとうございました」「よくやってくれた」この会話が好き! 悶えた!! もう完全にガッチリ信頼関係築いてますよね。ご多分に漏れずこういう男同士の絆っての好きです。かっこええ。こういうとき男性が羨ましいなあ……。てかきちっと病院に来る室井さんに愛。
ここでの、和久さんの長ゼリフ。良かったですよね。欲を言えば和久さんが去るシーン、敬礼で送ってほしかったぞ! 前作とかぶるからやらなかったのかしらと思いますが、ここは敬礼だと思うんですよぅ。残念。
そして表彰式。笑顔で東北弁。ああんかわいい……。40近いおじさん(禁句)が可愛くてどうするのって感じですが可愛いんだから仕方ないじゃんー。ところであの東北弁はなんだったんだろう。もう少ししたらネットで情報あさってみようと思います。

賛否両論いちばんありそうなのは沖田管理官でしょうか。個人的には、女として不愉快ではあったけれども、あれも現実のひとつのデフォルメと思います。広告塔を志願するのも高圧的になるのも女を強調するのも、男性社会を生き抜くために彼女がえらんだ武装なわけで。その選択は私は好きではないし沖田という女性も好きになれなかったけど、他人事じゃないなあ……と。必死になってる姿は滑稽さすらあって、身につまされます。

ところで真下君ですが、活躍してるんだかしてないんだか微妙ですな(笑)青島ばっかり目立ちますが真下君の推理とか情報ってのはいつも操作を進める鍵になってたりするんですよね。沖田氏のキッツイいやみを平然〜と受け流してるところとか、雪乃さんに対してはとことんへたれなとことか(プロポーズで子供つくろうはないだろう。ってかすみれさんの心配はひとこともなしかい)真下君らしくて好きですよ私。しかしネゴシエイターか……専門のほうへ行くっていうのは出世街道的にはどうなんでしょうか。管理職方面でない気がしますが、でも彼には似合ってるようにも思えます。


長いなあ。なんだかほかにも語りたかったことがあったような気もしますがこのへんでー。

2003年08月28日(木)



 『その花の名前は』Century20編草稿3

「でも朔はずっと、そのままなのよね」
 声音がほんの少し、変化していた。
 朔は梢に向けていた目を、梨花子の背中に向ける。
「出逢った時は、あたしのほうが年下だった。いまはだれが見てもあたしのほうがおばさんだわ」
「……うん」
「ごめんね。辛くなっちゃったの」
 ふりむいて女は笑う。
 出会ったころはひまわりのように屈託なく笑う少女だった。
 当時よりはるかに整った笑顔に、いまは苦味ばかりが強い。
「朔が好きよ。でもこの木みたい。綺麗だけどなにも実らなくて、時間ばっかり過ぎて、待つのがだんだん辛くなるの」
「……うん。そうだな」
「ごめんね」
「謝んなよ」
 また微笑まれて、思わず伸ばした手を、けれども梨花子には触れさせずに朔は引いた。
 その様子を哀しげに眺めやって、女は一歩朔に近づいた。
 体温が伝わるくらいに近く、けれども触れ合いはしない距離で。
「――ねえ、わがままを言わせて。約束をひとつ、頂戴」
「約束?」
「あたしがいまよりもっとおばさんになってから、一度だけ、会って」
 囁いた唇が震えていた。
「あたしは馬鹿だから、そうしないときっとあなたを忘れてしまう。憶えていたらいつまでも哀しいから、記憶を捨てたくなってしまう。でも、そんなの嫌じゃない」
「りか」
「朔を好きになったあたしまで、捨ててしまうの悔しいじゃない。だから、会いにきて」
「……それで、梨花子がいいんなら」
「ありがとう」
 女はもう一度、笑う。
 今度の笑顔は、昔のものによく似て見えた。
「そうね、この庭に、梨をもう一度植えてみるわ。今度はがんばって育ててみる。……十八年たったら、実がなったかどうか、確かめに来てくれる?」
「十八年後の、秋、だよな。わかった。必ず来る」
「約束ね」
「ああ」
 女が目を閉じたから、彼女が望むものを朔は与える。
 そしてまぶたがふたたびあげられるより先に、背を向けた。縁側から家に入り、鞄ひとつを拾い上げて、玄関で靴を履く。追ってくる気配は、なかった。それを寂しいと、思う気持ちは薄い。
 いつか来るだろうと、もうずっと、覚悟だけはしていたからだ。
(もう、慣れた)
 その呟きが強がりに響かないことを願いながら、瀬能朔は相棒の待つ街に向かって歩き出した。
 それでも自分には、まだ帰れる場所がある。


 ――あの街の桜は、もう散ったろうか。


【3】

 高都匡との会話の中で、今年が十八年めだったと思い出したのは、8月もなかばを過ぎるころだった。約束の季節にはかろうじて間に合っていた。
 たくさんの女が自分のそばをすり抜けた。たくさんの約束が残った。果たされた約束、果たされなかった約束、いまだ来ぬ約束――
 それでもそのひとつひとつを大事に憶えていたいと、思うのだ。
 思うの、だが。
「朔はもう少し、約束の安売りを自粛したほうがいいね」
 大真面目な顔で高都匡が忠告した。それは正しいと、朔自身も思う。もともと物覚えがいいほうでも、几帳面なほうでもないと自覚はしている。朔が忘れずとも、約束を交わした相手がそれを忘れてしまう可能性も、いつだってある。
 それでも約束に頷いてしまうのは、せめて自分が存在したことを、わずかにでも残したいと思ってしまうからだろう。
 高都匡のように笑みを浮かべて超然と在ることは、朔には出来ない。
 ――だから。
 10月の晴れた日、瀬能朔は自宅をあとにした。行ってきますと、軽やかな声を背後に投げて。
 約束をひとつ、果たしてくる。匡にはそれだけを告げた。


 十八年の歳月は、古い住宅地をすっかり様変わりさせていた。背の高い鉄筋の集合住宅がいくつも建って、空が記憶よりずいぶんと狭い。それでも一軒家が立ち並ぶ一角では、昔とおなじたたずまいを見せている家屋が多くて懐かしかった。
 おぼろげな記憶を頼りに目指した家も、ありがたいことに変わらずそこにあってくれた。だが近づいてみると表札が消えている。門自体もずいぶん薄汚れて、人の暮らしている様子がない。
(……ま、こんなもんか)
 肩をすくめて、それでも朔は開いたままの門から敷地に足を踏み入れた。裏庭にまわるとすぐに、甘いにおいが鼻をついた。
「う、わ……」
 思わず声が漏れる。
 視界を占める、鈴生りの薄茶色の果実。
 枝いっぱいの、梨の実、だった。
「すっげぇ……」
 旨そう、と続けようとしたところで、背後からかすかな足音が届いた。
「梨花子?」
 十八年前に別れた女の名を呼んで、朔は振り返る。
 だが見つけたのは、予想していた中年の女の姿ではなかった。
「……梨花子……!?」
 再びその名を、違う感情をのせて呼ぶ。
 そこにいたのは少女だった。洒落けのない紺の制服、ふたつに分けて束ねた髪、美よりも理知を感じさせる顔立ち。別れた春よりなお若い、けれども確かに懐かしい少女。
 出会った秋と寸分たがわぬ姿。16歳の篠原梨花子がそこにいた。

======================
おーわーんーねえ〜(泣

合計200枚行かない程度の話の番外が30枚近くなりそうなのって、どうなのかしらねぇ……

2003年08月08日(金)



 さんにんのかい「新撰組〜名もなき男たちの挿話〜」

穂高あきらさんのお誘いで行ってきましたこのお芝居。
たっのしかった〜!
なんというかね、笑わせ泣かせの王道。お芝居ってこうよね。序盤は笑いで引っ張り中盤でボルテージ上げて締めで泣かせる、と。


------以下ネタバレ--------


能の知識があるひとなら、進藤が登場した時点で死人だとわかるようになっているそうです。なるほどー。私はそういうことは知りませんでしたが、なんとなく、このひと死んでるんじゃないかしらと思いました。6番隊全滅って本人が言ってたし。
真面目進藤、皮肉屋明石、お子様鉄之助、というキャラクターの分担が見事でした。わたし進藤さんのにやにやわらいがかーなーり好きだ。大人の余裕、ツボなんですよねえ。
鉄之助は剣を握ったときのギャップがステキ。ですますもステキ。進藤との立会いの場面、「一度も勝ったことがないじゃないですか」なんだかツボにはいったんですけど……。
うるっと来たのも彼の台詞でしたね。さすが声優さんだと思う。やっぱり「声」がすごかった。泣き出しそうな、爆発しそうな、かすれてわずかに裏返った、そんな声でいわれてみー。もらい泣きするってば。わたし実はドラマとか映画でのもらい泣き得意なんだってば。あうう。

声なしの、顔の演技もすごい良かった。能の舞台の2列目で、すごく近くでやってくれるから、本当に細かな表情まで見える。手ぇ抜いてないなってよくわかった。ほかの二人の会話を聞きながらほのかに笑ったり泣き出しそうな顔をしたり。

暗転と衣装だけ、言葉遣いだけで過去を演じたり違う人物を演じたり。これは舞台だけで通じる楽しみだなあとおもう。

ラストの鉄之助の台詞がすごく印象的だった。
――何遍うまれかわっても、あの誠の旗のもとで!
わたしは新撰組に肩入れする人間じゃないし、彼らには生きてほしいと願ってしまうけれど、でも、あの台詞は心に沁みた。
迷うことなく……ちがうね。迷いながらも、殉ずるものがあるというのは、誰がなんと言おうと幸せな生き方なんだと思う。かしこい生き方ではなくても。
羨ましいとは言わないことに、するけど。

つれづれに書いたので支離滅裂すみません。

2003年08月02日(土)



 『その花の名前は』Century20編草稿2

 桜にわずかに遅れて、その木は繚乱を迎えていた。
 鬼の棲むという、死体が眠るという、花ばかりが先走って視界を染める桜の在りようと、それはずいぶんと違う。若葉の緑と花弁の白と、二つの色を同時に抱いた平凡な花木が、まるで世の理〔ことわり〕そのもののように見えた。
 誘われるように庭に出て、瀬能朔はその木を間近に見上げた。
 きりりとした眉と通った鼻筋が与える力強さを、いくぶん大きめの黒目がやわらげている。180を越す身長のほかにはとりたてて特別な容姿ではないが、神も瞳も黒くて日に焼けているせいだろうか、影の濃い印象があった。雑踏にいても目立つだろう。
「なんか、いいな、この木」
 しばらく無言で見上げたあとで、朔はぽつりと呟いた。
 らしくもなく感傷的なのは、相棒の気鬱がうつったのかもしれなかった。花の季節が来るたび、高都匡は少しだけおかしくなる。それでも朔の前ではいつもどおりに笑うのが気に食わなくて、喧嘩の果てに出奔してきてしまっていた。今年もまた桜が散るまで、ひとときの別離が訪れるのだろう。
 新緑の頃にはお互いけろりとして、もとに戻るのもわかっているのだが。
「気に入った?」
 背後からかけられた声に、朔は振り向いた。ラフな部屋着にカーディガンを羽織った格好で、笑いかける女は二十代半ば。容姿も服装も典型的なハイティーンの朔と並ぶと、少しばかり奇妙な取り合わせに見えることだろう。姉か、いとこか。それくらいの年齢差だ。
「朔が花が好きとは知らなかったわ」
「や、別にそーゆーわけでもねんだけどさ」
 ぽりぽりと、朔は人差し指で頬を掻く。目の前の木に感じたものを、うまく言葉に表すのは難しかった。
「よくわからないけど。気に入ってくれたなら嬉しいわね。この庭の中であたしの一番好きな木なのよ」
「そーなんだ? 俺、初めて見た気がすんだけど」
「そういえば、今年は開花が早いわね。いつも朔が帰ってから咲くから。これ、梨の花よ」
「へえ」
 朔は感嘆の声を口にのぼらせた。意外な身近さに加えて、感嘆の種はもうひとつある。
「てことはこれ、梨花子〔りかこ〕と同い年だったり」
「するのよ、ありきたりなことにね」
 目の前の花の名前を持つ女は、肩をすくめて笑った。梨の花のようなとは、楊貴妃を讃えた言葉だったか。歴史に名高い美女に比するには、あまりに平凡な容姿の女だった。そういうところが、魅力でもあるのだが。
「でもいいじゃん、毎年自分ちの梨食えるんだろ。今度秋に来ようかな」
「残念でした。梨の大馬鹿十八年って知らない?」
「は?」
「桃栗三年柿八年、の続き。小学生の頃さんざんそう言ってからかわれたわよ。梨って実をならせるの難しくてね、うち、十八年どころか二十五年たってもいまだに実がなったためしがないわ」
「じゅうはちねんー? なっがいなそりゃ」
「長いわよ。生まれたばかりの子供が、高校を卒業しちゃうんだもの」
 いとおしむように、実のならない木の肌を梨花子はやわらかく撫でた。
「二十五年なんかもっと長いわ。大学も出て、就職して、嫁きおくれて」
「……りか?」
「でも朔はずっと、そのままなのよね」

===================
まだまだ続きます。やべえなんか長くなりそうだよ……プロット3行なのに! なぜだ!

2003年08月01日(金)
初日 最新 目次 MAIL HOME