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「 死と詩と 」
2014年05月15日(木)


 
 季節外れの蒸し暑く寝苦しい夜

 幼児を寝かせていると、耳の上の髪の毛一群が、急にそばだった

 「本当に私は消えてなくなるのか」

 という胸の奥からの声に沸騰したかのように

 
 マグマの如く脳内が焼け爛れたようになり

 どうしようもなくなった


 どうして、この幼児のように死を考えないように生きられないのだろうか

 死を第三者の死に追いやり、身内の死さえ悲しみだけで終わらせてしまう生き方があるというのに

 一人称の私の死が全てを停止させる、という考えを持たない生き方がどうして出来ないのだろう


 この肉体の老いは今後も深まっていく

 年金や保険の話をすれば、死は避けられないかのような扱いである

 ローン、消費、節約などの計算が何時か止まるが、肉体の停止である、と結びつけない生き方が、あるというのに

 
 マグマの沸騰が私に詩を書かせる

 詩だけが死を慰めるものなのだから

 

「 鐘に白蛇 」
2014年05月01日(木)




けたたましい、カァカァという叫びが、パラパラという小雨に反響している

晩夏の名残を残す虫襖(むしあお)から鉄色への深い森に、白々した霧が這うように伸びていく

上がり下がりを、右左を繰り返すアスファルトの坂を歩いていく

歩いていく

子連れの遅い夏休みのぽっかりと空いた午後の自由時間

訳もなく歩いていく

インターネット、電話、喧騒からすっかり離れての、休養

休養だけれど、日常生活の喧騒から離れて感覚が鋭くなっていた

子育て、日々の生活サイクルで心の浮かんでも、スッと流してきていた研ぎ澄まされた感覚が

「お前は誠実に生きているのか」と連月の問いが

「お前は何者かになるのではないか」と若かりし問いが

一歩、一歩、坂を上がり下りする間に胸の下から首元へと湧き上がってくる


眼(まなこ)には白い霧が入り始め、歩みは深緑に絡めとられるかのように遅くなってくる

フッと使われていないだろう、水色地の別荘が眼に飛び込んできた

駐車場には鎖がかけられ、草が無造作に、自由時間を満喫している

私はこの別荘にさえなれるのだろうか

私は本道から離れたように想う

不惑を超えて、これから一本の道を選択しようという人生なのだ

本や雑誌に目を通すと同年代は一本の道を選択している

私は本道から離れたように想う

都会に住む本宅にはなれないだろう

では別宅にさえなれるだろうか

年に何回か使われるのを待っているだけの、心から待っているだけの存在者になれるのだろうか

もっと歩みを進めると、そのような別宅が街を形成していた

街の交差点に立つと、白い霧が深緑の山を食い殺そうという絵は見えなくなっていた

ここから右でも左でも真っ直ぐでも進んでいけば別荘街に入っていける

私は別荘街に入る勇気さえなく、まるで鐘に巻きつく白蛇に見える道までとぼとぼと戻ることにした

「あなたは、芸術家になるのか あなたはよい父親になるのか」

という問いを振り払うように水色の別荘を見ないようにして


付記:鐘に白蛇とは「紀州道成寺にまつわる伝説」を指します。


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