小べんをチーっとひっかけると
信さんのようで堪りませんな
ズボンのすそも、時々ね
注記「ひっかける」には、「小便を野外にする」の意味がある
「信さん」は、秋山好古大将のこと。野外の小べんが癖であった
「堪りません」には、「嬉しくてたまらない」の意味も
「ズボンのすそも」とは、ズボンのすそにチーっとなるので
われわれ大和
雄大嘶く天空の恒星ではなく
しとしとと形状不定の雨滴
煌かずとも夫婦地蔵を求む
注記:「嘶(いなな)く」、「煌(きらめ)か)」
暗い雨を被ったケヤキの街路樹を
とぼとぼ
魂の行く先に迷いながら
とぼとぼ
赤茶けた煉瓦 剪定された樹木
少し安心して
魂を導く人工物の安全装置
ちらちらと
いっそ自動車でぶっ飛ばして行けば
ピューっと
アスファルトもガソリンも同じ人工物
ピューっと ピューっと
水色の傘を畳むと一面に水滴が溢れていた
梅雨の雨滴の物理定数には地球の重力が つまり地球の質量が含まれている
そして右腕に入れた力による遠心力で雨滴は振り落とされる
振り落ちる水滴はまるで私たちの命のしずくのよう
何時か必ず振り落とされる私たちの中には、つまり地球の質量が含まれている
命のしずくの奥底に 快楽や情緒や思想しか見いだせなければ 見ようとしなければ
しなければ
しなければ
雨滴はまた地球に降り注ぐのだろう
大手旅行代理店の前に来れば
君を
街ゆきて漫画喫茶を通り過ぎれば
あの子を
さらにゆかば さる洋服店の前で
この衝動を、この浮かび上がるものを
私の中に取り込めるだろうか
私を拡大していけるだろうか
思い出の出来る前に決して戻れないゆえに
狂った痴男になると分っていても
本能や衝動や環境から独立した私であれないのだから
白黒茶のバーバリーチェックが醜い膝うらを隠す
ホワイトショートスカートの上のフリルブラックレースが愛らしさを香らせる
路上のライトで梅雨の跳ね返る雨滴の多さにハッとする
国益や政策や法案一本で右往左往し、涙まで流してみせる
そうやって日々の醜い移ろいを隠す
梅雨が毎年来るように国体が法案一本で揺れもしなくてハッとする
パチンコ屋の黄と黒の、居酒屋の白赤のネオンを、高笑い大笑いを突きぬけたまだらな天空
真っ暗でも灰色一色でもなく、地上の輝きに全く移ろわず
大鍋で湯で上げたようなモクモク、モクモクと湯のような動きにハッとする
暴力と裏切りと裸と明快なストーリーを求めるようでいて
それでいて
追記:「死角過敏(しかくかびん)」は造語 法案一本にかかっている。法律一本の危険性に知覚過敏になっていて、死角であると騒ぎ立てる。けれども、私たちには国体という紛うことない安定的な価値がある。本当に憂うのならば目先のことだけでは続かないという意味。
乳首の増えた毛を切りながら
想う老い
田植えの終わった
闇夜の曇った
大合唱の蛙の尽きない
田圃は真っ暗ではない
稲刈りの始まる
猛夏の晴れ渡る
ノシメトンボの群がる
田圃は真っ暗でしかない
嫋やかな苗たちの彩どりが
私をあやめていく
追記:「あやめる」は「殺める」、「危める」、「彩める」の3つの意味
「殺める」は存在者としての私をうす暗い初夏の世界へと引きづり込んでいく、という意味。初夏=昼と対比して闇=欲望=存在一般へと還元する、という意味。
「危める」は存在としての私を危めていく、という意味。可能性を意味する「危める」は、理性的な私を外にある存在へと広げていく、という意味。「殺める」との違いは、実行と可能性の点、全体の情のみの点
「彩める」は存在者としての私に世界を引きずりこむ、という意味。前文の「彩どり」が私の肉体の中に浸透してくる、という意味。初夏、特に曇りの夜は空が真っ暗にならず田圃も暗くはない。その気づきの瞬間、明るい暗いという二項対立=固定観念を壊す何か=驚き=彩どりが肉体に侵入する、という意味