祭りを知らせる花火が胸で太鼓を打つように
炎天の海辺へ入る瞬間に潮の臭いが胸で太鼓を打つのように
人の暗い面しか見ない人は哀しいけれど、
人の明るい面しか見れない人も同じように哀しい
生きることでしかない死
死ぬことでしかない生
追記:台風の後に道路脇に寄せられた折れた小枝を見て
地方都市に電車でついて急いで階段を下りた。
人が2人も通り合えないほどの狭い入り口に、190センチもない低い天井は電車の下だけでもなく息苦しくてしょうがない。だというのに、トイレの中はムワッとしていて湿気に臭気が混ざってしまって戸惑いで足がとまった。壁だけが白く、デザインだけに手入れが行き届いていて白々しい気持ちになった。
夜が明け白む頃に尿を催(もよお)した後、蛍光灯の下で鏡と目が合った。
これが私の人生、これが私の人生 これが私の人生
望んだ結果なのだろうか 本当に望んだ結果なのだろうか
一瞬立ち止まるように鏡の自画像に戸惑い、避けるようにステンレス色の蛇口へと視線を落とした。
毎日の習慣で左手で檸檬(れもん)色と匂いのする石鹸(せっけん)を持ち上げた。右手で蛇口をひねり、水道水を石鹸の上にほんの少し掛けて泡立てる。
毎朝のスキッとした匂いに少し安心して視線を戻すと、ギョロリ、とした緑蛙のような瞳が襲ってきた。
カエル、瞳の中が赤く充血した赤ガエル
カエル、眼の周りが灰色に充満した鈍ガエル
駅のトイレの臭気も使いづらさも人の肉体活動の結末、徹夜明けの赤ガエルも鈍ガエルさも同じ結末でしかない。
臭気とカエルを結びつけて共に嘆(なげ)くのさえ肉体的な感覚に基づくものでしかなくて、ウンザリする。
もう1度視線を落として石鹸から檸檬色を赤鈍ガエルの顔面に塗りつける。ガシガシと垢でも落とすように思いっきり両手をこすりつけた。3日も変えていない斑(まだら)模様のタオルでさらに両手でこすりつけた。
こすりつけてこすりつけて、こすりつけた。