「きれい」
窓を叩く雨の向こうに、うっすらとその通り道が残る空を眺めていた。
輝きはその残滓までもが輝くものなのだろうか、
その問いに返ってきたのは輝いた声での輝きのない答え。
ありふれたもの言いはこの先の何かを示す道だった。
「きれい」
僕がこの言葉を発するまでには随分の時間がかかってしまった。
僕は思い出す、あの時の問いを。そして既に答えを得た自分に気づくのだ。
執筆者:いおり
遠くで雷の光。遅れて雷の音。夜の空が一瞬だけ明るくなってから、ゴロゴロと重苦しい音が響くまでわずか数秒。
数秒あったら、何か考えてみる。
数秒あったら、何か考える事が出来るのか、考えてみる。
数秒あったら、何か考えて、何か考える事が出来るのか、考えてみる。
実際は、数秒なんて数秒の価値しかないから、多くを考える事は出来なくて、結局、僕はツーっと雷の光を眩しく感じ、ソーっと雷の音を疎ましく感じる事しか出来ない。
でも、それでいいじゃないか、と思う。何も出来ないと感じる事が何かしている事になるのだから。僕はここにいる。ここで、雷と生きている。
眩しさに目がくらみ、そのまま、目を閉じる。何も見えない。でも、何かが聞こえる。それだけで、十分だ。
執筆者:ヴェカンヴェ
幼い頃
クレヨンで
全部
真っ黒に塗りつぶした
白い画用紙に
黄色い線を書いた
それが「雷」という
空から落ちてくる光
学校の先生が教えてくれた認識
昔も今も変わらない
雷の絵という物は
黄色で
真黄色で
小さい頃
雷が怖くて
お父さんやお母さんに飛びついて
そこで私が見た雷は青かっただろう
矛盾を押し越して
生活して
自分を押し殺して
生活して
雷が
青い事も
白い事も
分かっていたけど
表現者の私は
世間での認識の高い色を選んだ
いつか自分の子供に言われるかもしれない
「雷は黄色いって誰が決めたの?」
私には答えられるだろうか
自分をごまかしてきた私には
答える資格も
正論を言う資格も
そんな事を考えていたら
朝になり
私はまた普通の生活へと戻る
そして誰もが考える
矛盾を私も考えるのだ
執筆者:しょお
夕霧は、凪を過ぎると益々乗りかかってきた。
光化学スモックのような禍々しさは、荒涼な平原を進む肉体までも蝕んできていた。
僅かにも零れる太陽の光が、哀しくて、冷たく感じてきた。
永々と生命を育んできた日の光が、夕方に沈むという知識と霧の結びつきによって心の体温も強奪していく。台所に立つ母親の背中、父親の肉々しく分厚い手、斧で出来た黄白いたこに触った記憶が浮かび上がってくる。小さかった犬までもが、暮れていく太陽の光と体温を補うように、浮かんでは消されていく。
暖かな朧を追いかけるように、速度と高めていた。
濃灰の土壌が明度をこれ以上ないまでに下げようとするせいで、時によろけながら。
私そのものに感じて愛しくなっている人生の思い出が、なすすべもなく霧散していく。
私自身が、ただ消えていくのが哀しくて、荒野のきりへと速度を高めていった。
何と心許無い人生の記憶の総和
何と心許無い私自身そのものという無形
流れ出した涙といえども次々と、光化学スモックのような霧に溶け込んでしまった。
あの一歩を踏み出さなければ、良かったのだろうか。
好奇心や沸き立つ激情に身を委ねなければ、良かったのだろうか。
その問いかけだけが雷のように、荒地の遥かな山々に木霊しようと飛び立った。
付記
「禍々(まがまが)しい」 「蝕(むし)ばむ」 「僅(わず)かに」 「零(こぼ)れる」 「育(はぐく)む」 「遥(はる)か」 「木霊(こだま)」
執筆者:藤崎 道雪
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ある題を元に各執筆者がそれについての短編を書く、というものです。
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