宿題

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2003年12月31日(水) H vol.22/小沢健二×松本大洋
小沢「創作のなんとかって、一般的な態度をしゃべることはできるけど、

これが絶対ですなんてことはあり得なくて。

今しゃべってることと全く正反対の行為でもきれいなものってできるはずだし。

だからいつも自由で、なるべく言葉で考えずに。なるべく黙って。

ただインタビューなんかで困っちゃうのはしゃべらないと終わらないから」

松本「終わらない。ずっと『……』でもいいけど(笑)」

小沢「(笑)。ほんと、『……』をもっと雑誌の人が重んじてくれたら、

楽なんだけどぼくは『……、あっ!……』とかいう状態が一番好きで(笑)』

松本「(笑)いいな。どこまでこれを切り取って読者に伝えられるか。波の音までも」

小沢「ほんと波の音まで。『……ザザザザ(波の音)』

『うわっ!……ザザザザ(バイクの走り去っていく音)って感じで』


★H vol.22/小沢健二×松本大洋★

2003年12月30日(火) アンラッキー・デイズ〜ナツメの妄想〜/西永貴文
今回ナイロン100℃から長田奈麻女王様をお呼びしました。

私の中のダークサイドを、ヒールの踵でがっつりと踏みつけて欲しいのです。

そして更正させてくれますでしょうか?

「あんた間違ってるよ」と。


★アンラッキー・デイズ〜ナツメの妄想〜◇猫☆魂/西永貴文★

2003年12月29日(月) 青空の方法/宮沢章夫
天気のいい日だった。

頭上には青空だ。

向こうから笑いながら近づいてくる人がいたのだ。

もちろん女と私は、ワークショップで学ぶ者と教える者の関係だ。

恋人同士だったらお互い笑いながら近づきあうのもよくあることだろう。

距離はこれ以上ないほど接近し、笑顔とゼロに近い距離が二人の関係を強調する。

そのときの、女の笑いと接近は、恋人同士のそれとはまったく異なるもので、

わからないと困惑しているうち、それがひどく幸福なことに思えてきた。

なにしろ笑っている。見上げると青空。そして言うのである。

「本、読みました」

きっと私はそれを待っているのだと思う。笑いながら近づいてくる人だ。

言葉にするのはむつかしいがそれはきっと、幸福な距離の取り方、

まさにそれこそ「青空の方法」ではないか。


★青空の方法/宮沢章夫★

2003年12月28日(日) 君と僕とBEEの★BEAT戦争/ミネタカズノブ
俺こないだよぉ、新宿でライブあってよぉ。

俺外さ出たらよぉ、3人待ってけたんだよ。女。

(客)おー!

ち、違うんだよ、聞けよ、まず話を。

待ってけの、3人。で写真撮って下さいとか言ってけんの、

俺嬉しいったらそんな。あたりまえ、嬉しいよ、握手して下さいとか。

でよぉ、俺なんか、これいけっかなと思って、

(客)そっちかよ、オイ。

3人の1人さよぉ、じゃあサインすっけどよぉ、あんた俺と結婚できますか?

っつったら「それは無理」って言われたのね。



こっちはよぉ、シャレんなってねえんだから、毎日が。

おめえら、余裕こいてクリスマスライブ来れっけどよぉ、

こちとら余裕なくてよ!もう。

ほんで昨日渋谷さ行ったんだよ、撮ってるエグチ君と。

ケツばっかり目の前で女、ブイブイブイブイよぉ。

1回よぉ、マジで渋谷とか全部海とか全部、全部マジでホント、爆発させんだよ、俺ホント。

ダメですよ、これ、クリスマスとかホントあっちゃ。

でも、俺はクリスマスのソングを、歌を作りましたわ。



えーとですね、これがクリスマスの歌になんでぇつったら、

俺は最近彼女と別れたばっかりでよ。

で、その彼女さ何にもやれねっからよ、プレゼントだぁて、まぁ何にもやれんけ。

彼女の誕生日が11月にあって、俺そん時ツアー中で、誕生日何いいべなぁって、

何にも買えねくて俺。何も買えねえからよ、プレゼントできねっからよ。

で、何かケーキでも食うかぁって思って。

そのケーキ屋も閉まっててよ、行ったら。

で彼女んちさ行ったら彼女が自分でケーキ買って来て。

はーーーぁ(ため息)俺…。

…そんな感じだっきゃ。

(沈黙)。

こないだ雪が降ったねぇ?

あん時に、彼女と別れたばっかの時、あん時雪が振って。

ちょうどマサと俺と一緒に雑誌の最後の作業してて。

あん時俺、思ったっけなぁ。

こんな素晴らしい世界を、

この俺の命と引きかえに、彼女に贈ろうと思いました。


「惑星基地ベオウルフ」っていう曲をやります。


★君と僕とBEEの★BEAT戦争◇ライブ中のMC/ミネタカズノブ★

2003年12月27日(土) 徹子の部屋/タモリ
今回徹子さんといっしょに「鉄人タモリの徹子をもてなす満漢全席03」に参加した堀文子さんについて。

タモリ「笑ったのは『あそこのバーでよくお会いします』『あ、どうも』

『私、あの、信じらんない人たちがいるんですけれどもね。

お酒を飲んで「あ、もう一杯どうぞ」「いやあ、僕はもうこれで」って言うんですが、

あれ何なんでございましょう。ああいう人たちは。お酒は酔っ払うために飲むのが普通でしょ。

ベロベロになるために飲むんで「いや僕は、僕はもうこれで」。

あの人たちは何ですか、理性はいいもの、とお考えなんでしょうね』  

っておっかしいなぁ、この人は本当に面白い人だなぁと思って」



─鉄人タモリの徹子をもてなす満漢全席03─

徹子「これは先生が感心なさってたんですが、まずテーブルの上に『春』という字を、

あなたがお書きになったんですよね」

タモリ「あの日は本当に冬にしてはすごいあったかかったんで。

あ、これまで写真、ああ撮ら」

徹子「撮りました撮りました。もちろん撮ったんです」

タモリ「もうちょっとちゃんとあれすりゃ良かったかな」

徹子「いえいいんです。それで…あの」

タモリ「こんなものはお盆の、あの上に」

徹子「そう、この上にお盆をのせるんですが。でもま、一応こういうのがあった。

それでお盆をおのせになったんですね。一番最初は『春菊としめじのおひたし』でございました」

タモリ「これ一応ちゃんと撮ってる」

徹子「こん時はねぇ、私はすぐ撮りました。撮りましたよ、私は。

ちょっとぼんやりしてて、でも接写って言ってる割にはちょっとねぇ。

接写するとぼけるっていう写真機でねぇ」

タモリ「そりゃちょっとねぇ、やっぱコンビにで売ってる写真で接写は無理でしょう」

徹子「でも接写もよし、って書いてあるんだもの。言ってるんだからさ。

接写もやれるって言ってるんで、フラッシュもつくって言ってんですから」

タモリ「ええ、あええ(笑)ああ」


途中。


★徹子の部屋/タモリ★

2003年12月26日(金) ニンゲン御破産/松尾スズキ
南北「あんた、聞けば、侍分を捨てたって話をしたな。

何かよほどのことがございましたな。あんた自身の話のほうが、おもしろそうだ。

この一両分の時間の中で、あんたというニンゲンの話を、

お金の匂いのする狂言にしたててくれよ」



ムツ「三ですよ!おもしろは!七は怒ってんです」



実ノ介「芝居という芝居が、実は、芝居という芝居のふりをした芝居であれば

いい芝居だなと思ってたんですが」



実ノ介「ほんと、誰かに、いつか否定してほしいんだけどね、(しみじみ)命ってさ、

言いたくないけど、重い軽いがあるからね。(刀をチンとさやに収める)

俺は否定できないよ。ただの、くだらない侍だから。

ただあんまし痛くならないように、ヤットウだけは、ちゃんと稽古したからな。勘弁よ」



南北「嘘か真か、命をはったガセ小判が二両。あんたの命の一かけ二かけと思って、

懐に抱きましょうか。ただし、これがガセだとわかれば、あたしも地獄行きだ。

それを覚悟に聞くだからして。こっから先のあんたの嘘に、これっぱかしも嘘が混じってたら、

いいかい、あんたも地獄に道連れだよ」

世阿弥「いいこと言いますね」

南北「…え?ごめん、今のそれ、批評?」

世阿弥「い、いやいや、……他意はないです。素直な、ほんと…ええ」



実ノ介「掘れ、掘れ。もっと深く掘ってくれ。この穴は俺の夢だ。

家も国も捨てた俺の夢が、そんなに浅いわけがない。

なあ、なんか見えるか。見えたら教えてくれよ。

しかし、江戸ってところは、俺と相性がいい。

国じゃ基地外扱いされた俺が、こうして、なんとか生きてる。

だから、この町で、俺は書きてえんだ。書きたくてしょうがないんだけどよ、

じゃ、何が書きてえのかっていうと、おもしれえことに、書きたいことが何もねえんだ。

おもしれえこと思いついてもよ、世のなかのの方が、先におもしろくなっちまうんだ。

でもよ、空っぽのはずはねえじゃねえか。掘れ。掘れ深く掘れ。

なんかあるだろう!おーーーーーい!」



灰次「…わからんが、とにかく、ふつうにしてろ」

お吉「(引き留める)ふつうって、何さ?」

灰次「お吉っぽくしてろ。おまえの持ってるお吉さしらを、あますところなく、醸し出してろ」

灰次、走り去る。

お吉「そんなの無理だよ!あんたがいうお吉って、どんなお吉さ?

そんなの、生まれてこの方、自分で決めさせてもらったことないもん!

わかんないよ、勝手なやつばっかだ。……ああ、嫌だ。もう、嫌だ」



南北「盛り上がって、よかったじゃない!これ以上、何が必要だ!」

間。

実ノ介「ほめてほしい!」

南北・世阿弥「はあ?」

実ノ介「天下の鶴屋南北、河竹世阿弥にほめてほしい!

日本を変えるような大芝居を打ったのに、なんの評価もいただいてないんです!」

南北・世阿弥「すごかったね」

南北「さあ、口ずけをしよう」

実ノ介「たりねえ!たりねえ!」

世阿弥「お上に背を向けるわ、ほめられたいわ!どっちかにしろ!

この、ほめられ乞食!」

南北「なあ、俺たちに、さわろうとしてごらん」

実ノ介、南北たちにさわろうとするが、どうしてもさわれない。

世阿弥「さわれないでしょ、あんたはまだ、あたしたちと同じ板の上にいないからよ」

実ノ介「同じ板?」

世阿弥「ほめてほしくば、こっちゃきやれ」


★ニンゲン御破産/松尾スズキ★




南北◇松尾スズキ
世阿弥◇宮藤官九郎
実ノ介◇中村官九郎
ムツ◇片桐はいり
灰次◇阿部サダヲ
お吉◇田畑智子

2003年12月25日(木) 大人の悩みに子供の涙/みうらじゅん
大人の悩みに子供の涙

大人の悩みに子供の涙を流すのさ

僕がいなくなっても生きてる君も

君がいなくなっても死なない僕も


★大人の悩みに子供の涙/みうらじゅん★

2003年12月24日(水) アイデン&ティティ/峯田和伸
緊張したのはファミレスの麻生さんとのシーン。

オレまだ何もしてないうちに息苦しくなっちゃって、もう呼吸困難ですよ。

外に空気吸いに行きましたもん。

だってもうどうしようって思うくらい可愛いんですよ、麻生さん(笑)。

カメラテストってあるじゃないですか。

あれをね、何回でも何百回でも何万回でもしてよかった。

「君は馬鹿ねえ。私だけは味方なのに」

なんて言われて泣きそうで死にそうでもう大変で(笑)。


★アイデン&ティティ/峯田和伸★

2003年12月23日(火) ROCK/岡崎京子
くらやみとおんがくとおさけがあればいいの。


★ROCK/岡崎京子★

2003年12月22日(月) 名前をつけてやる/草野正宗
名も無い小さな街の

名も無いぬかるんだとおりで

似た者同士が出会い くだらないダジャレを吐き笑った

ぼやけたクモの切れ間に なぜなのか安らぎ覚えて

まぬけなあくびの次に 目が覚めたら寒かった


名前をつけてやる 残りの夜がきて

剥き出しのでっぱり ごまかせない夜がきて

名前をつけてやる 本気で考えちゃった

誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな


マンモス広場で8時 わざとらしく声をひそめて

ふくらんだシャツのボタンを ひきちぎるスキなど探しながら

回転木馬回らず 駅前のくす玉も割れず

無言の合図の上で 最後の日が今日だった


名前をつけてやる 残りの夜がきて

むき出しのでっぱり ごまかせない夜が来て

名前をつけてやる 本気で考えちゃった

誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな


★名前をつけてやる/草野正宗★

2003年12月21日(日) 絵描きの植田さん/いしいしんじ
音によってつながれるこの世の営み。

歩きながら植田さんは思った。

自分はずいぶん長く、この世の物音をきこうとしてこなかったのかもしれない。

耳が悪くなっただけじゃない、みずから耳をふさぎ、

かたく耳をちぢめ、音を遠ざけていたんだ。

それはまた、自分で音を出さずにいる、ということでもある。

ちょうど冬の山奥でかたく凍りついた岩のように。


絵を描くことが、自分の音だ。

かすれがちのさえずりであっても、それこそが自分の営みなんだ。


★絵描きの植田さん/いしいしんじ★

2003年12月20日(土) 続一年一組 せんせいあのね/なかたにゆうすけ
えらい人より 

やさしい人の方がえらい

やさしい人より

金のない人の方がえらい

なぜかというと

金のない人は

よくさみしいなかで

よくいきているからだ


★続一年一組 せんせいあのね/なかたにゆうすけ★




■河合隼雄さんが大好きだという詩(書いたのは小1の子)。

よくさみしいなかで
よくいきているからだ

2003年12月19日(金) 痛快ウキウキ通り/小沢健二
プラダの靴が欲しいの そんな君の願いを叶えるため

マフラーを巻いて 街へ出る

恥ずかしいながらもウキウキ通りを行ったり来たり


喜びを他の誰かと分かりあう!

それだけがこの世の中を熱くする!

降りしきる 雪の中 肝心かなめの夜はまだ

クラクション鳴らして車が走ってく


”ポーギーとベス”の流れる 喫茶店で1人ワインを飲んで

酔っぱらってしまった! こんなハズじゃなかった!

急いで外出りゃ 街に光るのはネオンサイン


喜びを他の誰かと分かりあう!

それだけがこの世の中を熱くする!

降りしきる 雪の中 肝心かなめの夜はまだ

あちこち覗いてブラブラ歩いてく


長い長いアラビアン・ナイト ほんの一夜の物語を行こう!


クリスマス・イブも過ぎて 1年遅れで買うプレゼント

遅れてごめん! 残念無念!

済まない気持ちはサルにもあるとか言うけれど


喜びを他の誰かと分かりあう!

それだけがこの世の中を熱くする!

立ち止まり 息をする 暖かな血が流れていく

心の中でずっとキラキラ弾ける!


長い長いアラビアン・ナイト ほんの一夜の物語を行こう!


それでいつか君と僕とは出会うから

お願いはひとつ 笑顔で応えてと!

唾を吐き 誓いたい!それに見合う僕でありたい!

しびれっぱなしの手のひら! 鼻水出りゃこすりながら!

痛快に降る雪の中歩いてく


★痛快ウキウキ通り/小沢健二★

2003年12月18日(木) Yahoo!ブックスインタビュー/西原理恵子
描いたものを自分で笑うってことはないです、絶対。

面白いって思うこともない。



(コンスタントに作品化していないと)恐いんですよ。

いつ人気がなくなってお客さん(=読者)がいなくなっちゃうか、

という物凄い焦りがあるから。本を出す時も恐い。

出すたび毎回、『今度こそ決定打で"つまんない"って言われるんだろうな』

と絶望感に襲われて……。描けば描くほど落ち込む。



諍いを避けるために笑わせる。

きついツッコミを入れても、最後は絶対に笑いに持っていく。

私程度のギャグを言う人は、高知の飲み屋に行くといっぱいいますよ。



セバスチャン・サルガドを尊敬しています。



別れた夫が報道の仕事だから、よく言っていたのが

『取材はその場所から絶対動くな。何かを掴むまでそこにいろ。寄れ。もっと前へ前へ』。

結婚する前は、取材ものは編集者がガイド役をしてくれて

『お気楽観光記を描いてください』みたいな感じだった。

でも、彼に出会ってから、もっとちゃんとやらなきゃ、その場所に絶対いなくちゃ、

と思うようになった。彼から唯一いい勉強をさせてもらったことです


★Yahoo!ブックスインタビュー/西原理恵子★

2003年12月17日(水) ふつうがえらい/佐野洋子
(三角関係で対立してる女の人が、男の人に対して包丁を持ち出したので

男の人はまいってしまい、「みよちゃん」は軽蔑してる)

「あなた彼と彼女のこと話し合うんでしょ、彼、どういうつもりなの?」

「私、あんな最低の女のことは無視して話題になんかのせないわ。私の自尊心が許さない」

ああ、みよちゃん、やっぱり何か違うんじゃないか、私にはよくわからないけど、

人と人が生きるってもっと抜きさしならないところに追いつめられて、追いつめて、

追いつめる自分の醜さに耐えて、あたふた楽な方に逃げようとする相手のずるさを

出刃包丁でさし殺すことではないのか。


★ふつうがえらい/佐野洋子★

2003年12月16日(火) ふつうがえらい/佐野洋子
「いやさ、お前の家来て、おばさんに貧しい食事ご馳走になってるけど、

でもお前んちの方が不幸でさ、何だか中身が濃そうじゃん、

こんなこと言ったらもしかしたら失礼かもしれねえんだけどよ」

「ふーん、何だか失礼だわねェ、肉なんか引っぱらないでよ」

「でもおれ別に不幸じゃなかったぜ。テッチャンちが勝手にそう思ってくれたんだけど。

なら、山形は?」

と息子は言うのである。山形も又世間的には幸せのサンプルでない家庭であったのだ。

アル中の父親からのがれて一家四人が車の中で寝たりしたこともあるのだ。

「おれんち、おれんち普通ですよ。家なんか普通と思ってないとやってられないよ。

テッチャンちも普通、おばさんちも普通、普通じゃないのは、ケンの図々しさ」

「普通じゃないのはテッチャンの女々しさ」

「えー、おれ女々しい?」

家族をはみ出して、人はそれぞれつながって生きてゆく。

どんな家族であれ、家族をはみ出して人とつながってゆくのを支持してゆこうと思って、

やっぱり肉は女々しいテッチャンの皿にわけてやった。


★ふつうがえらい/佐野洋子★

2003年12月15日(月) ふつうがえらい/佐野洋子
それからあと、やたら酒ビンが並び始めた。

私は、「そんなチャンポンに飲むといけないんじゃない」とオロオロした。

朋子さんは、

「こんなのどってことないわよ。私なんか、この年には、三日酔いってのやってたからね。

ホラ、お前、ワダ?ワダ飲もうよ」

「いや、すいませんす、オバサンはこわいなあ」

「こわかないわよ、ほら、ワダ、お前の髪の毛わざとこうしているの?

柄をつけたら、壁洗うブラシになるやんか」

「これ、苦労してこういう型にしてるんですヨ。なかなかつらいもんあるんすよ」


─中略


突然マサノリが「オバさん泣かしてやるぜ」と叫んで

「アンダルシアにあこがれて」をうたいだした。私はすぐ泣いた。

チンピラが彼女をメトロのホームに待たせている間に、ヤクザに撃たれて死んでしまうのだ。

死にながらチンピラは、

「ホームのはじで待ってる、かわいいあの子に伝えてよ。必ず行くから待ってろよ」

と絶叫するのだ。私はオンオン泣いた。


★ふつうがえらい/佐野洋子★



■佐野さんが、佐野さんのお友達の「朋子さん」と、
自分の息子の友達たくさんと一緒に飲んでいる時の話。
「マサノリ」も佐野さんの子供の友達。

2003年12月14日(日) ふつうがえらい/佐野洋子
この間、百歳の奥村土牛の展覧会を見に行った。

私はあんなに混み合っている展覧会に行ったのは、その昔ゴッホ展以来である。

どこからわき出たか、全国のおばさんが集合して来たと思われた。

─中略

「あれえ、ねえちゃん、これ、九十七歳、すごい」

土牛さんの絵は横に制作年齢が表示してあった。

「や、や、や。これ、九十九。ねえちゃん、ねえちゃん」

と姉妹づれのおばさんもいるのである。

私はウロチョロと外へ押し出された。おばさんたちはうず巻く「鳴門」であった。

ごーっとそこ鳴りがしている。私は自分がおばさんであるのに、

おばさんの力に圧倒されて呆然とし、しかし、何故ともなく、

ああ日本は大丈夫なんだ、このおばさんたちがいるかぎり、

日本はどんなことがあってもへこたれないのだと涙が出そうである。


★ふつうがえらい/佐野洋子★

2003年12月13日(土) ふつうがえらい/佐野洋子
私昔とても好きな人が居た。

好きでも、私好きですなんて手紙に書いたり出来ないので、

雨が降った話や、地図やどっか行った時の話を、毎日手紙に書いた。

雪の上におしっこをして詩を書いた話まで書いてしまった。

せっせと書いた。電車の中でも書いた。

そしたらその人「あなたが好きです」って言った。

私一言も好きだなんて絶対に書かなかったのよ。

私その時から手紙書くの好きになったのかもしれない。昔々のはなしです。

そしてそんな昔じゃない時、私は忘れていたのだが、

「あなた、覚えている。『私あの男絶対に落として見せる、手紙で』って言ったのよ」

と友達に言われて仰天した。私本当に、その男落として今一緒に住んでいるのである。

その時だって、好きだって一言も書かなかった。本当だってば。

だけど、私そんなに助平じゃない。今せっせと八十四歳のおばあさんに手紙書いてる。

私おばあさんを落とそうなんて思ってない。ただ手紙書くのが好きなのよ。


★ふつうがえらい/佐野洋子★

2003年12月12日(金) 父っちゃんは大変人/北杜夫
「いろんな記事によっても、桜井さんはよほどラーメン好きのようですが、

何か幼児体験というか、原因がおありですか?」

「そんなものは一切ない。ただ、あれは実に手軽に作れる。

要するに一九八〇年代の食品として、前々から研究していただけですよ」

「ほほう、八〇年代」と、記者は鼻で言ってなにかをメモし、

自分でウイスキーのびんをとって、空になったコップに濃い水割りを作った。

「八〇年代の構想は、ラーメンの他に何かおありですか」

「ウウ、今、研究中じゃ」

「ところで、あなたが前に住んでいらした江東区のアパート、

というより下宿屋ですが、そこもいま別の記者が調べているのですよ」

「ふん、それであなた方は、一体どんな記事を狙っているんです?」

「つまり乞食と王さまの物語ですよ。あなたはこの間まで乞食だった。

それが一躍王さまになってこんな豪邸をぶっ建てた。生活環境から何から、

すべてが狂ってくる。この狂うというのが、わたしは八〇年代の発想と思っています」


★父っちゃんは大変人/北杜夫★

2003年12月11日(木) わたしとわたし ふたりのロッテ/島田満
「ああどうしよう。こんなはずじゃなかったのに」

「そういうもんよ、世間て。

だいたい離婚の原因なんて、大人がすんなり話す訳ないじゃない。

あたりまえよ、ケンカになるのも」

「イルゼって結構、物知りなのね」

「そうでもないけど、私みたいないじめられっ子は、

人生のことなんかを深く考えないとやってけないのよ」


★わたしとわたし ふたりのロッテ/島田満★

2003年12月10日(水) ★★
三回忌。

2003年12月09日(火) 午前4時のパーティ/SPANK HAPPY
目覚めたとき、すべてのパーティは終わってしまっていたので

彼女はふたたび眠り続けることにした。


彼は懸命にドアをノックする、

あとで大変なことが待ちかまえてるとも知らずに。


午前4時それはずっと続いているキックとハイハット、デッドなベースライン


「眠り知らず午後まで、舞い上がる踝と共に照り輝く時を追い掛け

若き血と愉悦出会うとき」


★午前4時のパーティ/SPANK HAPPY★

2003年12月08日(月) ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ/SPANK HAPPY
復讐心ですか?どうだろう。今の東京の子供に比べればね。


★ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ/SPANK HAPPY★

2003年12月07日(日) 人生はギャンブル/蛭子能収
(「オン・ステージ」という雑誌でいろいろなライブに行って感想を書く

という連載を持ってますが、ロックバンドのライブはどうですか?と聞かれて)

うーん、ロックってね、言葉がよく聴き取れないんですよ。

楽器の演奏の音が大きすぎて。

だけどね、ひとついいことを発見したんだけど、

そういう大きな音の演奏の中にいるとね、眠たくなるんですよ。

で、目をつぶっていると、いろいろ漫画の案が浮かぶの。


結局はね、逃げるような感じで辞めてしまったんですよ。

万国博覧会に行くって言って。

その当時ね、万国博覧会って本当に国民的イベントで、

万博を見に行くんだったら休みを取ってもいいっていうぐらいだったんですよ。

私は全然興味なかったんですけど、それを口実に会社を逃げてきたんです。


俺、一度だけデモに参加したことあるんですよ。

でも、恥ずかしかった。ああいうのは俺にはできないなと思いました。


(画材屋で働いていた奥さんの所にお客として通っていたのが二人の出会い、

というのを美しい話、と言われて)

そんな美しいなんてことないんですよ、

うちの女房の顔が鈴木ヒロミツみたいなんですから。

いや、本当にそうなんですよ。


★人生はギャンブル◇サエキけんぞうのマニョマニョトーク/蛭子能収★

2003年12月06日(土) 雪/伊藤比呂美
てんてんとつづく足あとを目で追っていきますと

うさぎが殺されたのがわかりました

まっすぐつづくのはきつね、と教えてもらいました

そろってぱたりそろってぱたりとつづくのはうさぎ

「そろってぱたり」と「まっすぐつづく」がまじわって

「まっすぐつづく」になっていました

血はみあたりませんでした

「そろってぱたり」は暴れもしません

わたしは裸足です

靴をぬぎ靴下をぬぎました

なにもかもがむきだしになりました

あなたはそれを見ます

靴と靴下をぬいだら

わたしの足ゆびには毛が生えていました

足ゆびのまたから血がでていました

あなたはそれも見ています

わたしは字をかいています

あなたはそれも見ています

わたしはそれを見せたいと思っています

あなたも字をかいています

わたしはそれを見ています

なんてうつくしい字をかくおとこだろう

とわたしはおもっています

なんてうつくしい

おとこだろう、おとこたちだろう、おんなたちだろう

あなたは字をかきおえてそれをしまいこみます

わたしにはみせないつもりらしい

あなたは靴をはいて

雪の原を横切りに出かけます

わたしはここに残ります

雪の原を「そろってぱたり」なら

「まっすぐつづく」の取られる運命

それはきっとあたりが明るくなる

朝のこと


★雪/伊藤比呂美★



■高橋源一郎「文学がこんなにわかっていいかしら」に載ってたもの。

2003年12月05日(金) 何にもしないで生きていらんねぇ 連載第2回目/ECD
生命の危機を察した本能がぼくを発情させているのだ。

とにかく不謹慎な気持ちが高まっているのだ。

これは素晴らしい精神状態だと思う。

なにしろ、最近の自分はコンビニでエロ本を立ち読みしても全く欲情できない、

というていたらくなのだから。

反戦デモは不謹慎だ。戦争は真面目だ。それが嫌だ。

音楽も文学も美術も、不謹慎でなくなったらそれは死んだも同然だ。


★何にもしないで生きていらんねぇ 連載第2回目/ECD★



■「最近デモに行くと女の子が気になる」という話で。

このあともいろいろ続いて「クソッタレが!!」で一度締め括られた後、
突然「写真(ダンボールにたくさんCDが入ってる写真)は
プレス工場から送られてきたCD。こんなんなってるんですね。
裸で重ねられ、サランラップでぐるぐる巻きになってます」
と続いてそこで終わり。

2003年12月04日(木) アイデン&ティティ/みうらじゅん
彼女がニューヨークに旅立って もうすぐ二年になる

ボクは果たしてその間に どれだけ成長しただろうか?

あと二ヶ月近くで帰国する彼女の目にボクはいったい、どう映るのか?

例の武道館ライブが近づいていた

でもその選択が正しかったのか、今のボクにはわからない

君は何と言うだろう?ボクはその答えだけが知りたい

君が正しいと言う方向に ボクは行きたいだけだ

もしこの世に神がいるとしたら ボクにとっては君が神だ


★アイデン&ティティ/みうらじゅん★

2003年12月03日(水) ぼくが猫語を話せるわけ/庄司薫
ところが世の中には成行き、または行きがかりとでも言う他ないようなものが

ゴロゴロしていて出会い頭の事故をもたらす。

或る日ぼくは、繰返すけれど主観的には全く突然に、

極端に旅行がちの友達の猫をちょっとばかし預る羽目に陥ったのだった。


それから実を言うともう五年たつわけだ。

そして結論を言うと、その問題の居候は何故かいまだにわが家に住みついていて、

たいていぼくの周囲一メートル位のところで眠っている。

そうして、これまた何故か、その猫本来の飼主までうちに住みついている。

彼女は(その本来の飼主は女性だったわけだ)、

預けた猫が心配でしょっ中様子を見にきていたのだが、

いちいち通うのが面倒くさくなったのか、いつの間にか「住みこみ」にあってしまったのだ

(そして猫だけでなく、ぼくの面倒まで見ているつもりらしい)。


★ぼくが猫語を話せるわけ/庄司薫★

2003年12月02日(火) ぼくが猫語を話せるわけ/庄司薫
そもそもぼくは犬の飼主だった。

小学校四年生から十三年間、ぼくは一匹の犬を大切に飼っていた。

とてもいい奴だった。

この犬のことを思い出す時、ぼくの中には或る柔かく懐かしい何かが溢れるように目覚める。

率直に言って感傷的と呼ばざるを得ないような何かが甘く渦巻いたりして、ぼくを狼狽させる。

ほんとにいい奴だった……。あいつについてこれ以上話そうとすると、

ぼくはきっと何冊も本を書かなくてはならないだろう。

いずれにしてもぼくは、彼に死なれた時、こんな思いをする位なら二度と

生き物は飼うまいと心に決めたものだった。

その後、ぼくは「バクの飼主」めざして暮らすことになった。

人間の眠りの平安を守るために、ひたすらその悪夢を食べるというバク…。

ぼくは、その種の健気なバクをぼくのうちに育てようと張切ってみたわけだが、

その結果、そんな具合に張切った時すべての男子がするように、

ぼくも生活の基本に一種のストイシズムをおまじないよろしく持ちこんだ。

つまりは、どうでもいいことからは逃げて逃げて逃げまくれ。

この「非常時」に、犬・猫の類になどかまけていてなるものか!


★ぼくが猫語を話せるわけ/庄司薫★

2003年12月01日(月) ロンドン日記/南方熊楠
十一月八日 月

午後、博物館書籍室に入りさま毛唐人一人ぶちのめす。

これは積年予に軽侮を加しやつ也。

それより大騒ぎとなり、予タムソンを罵し後、正金銀行へ之、

中井氏に十磅(ポンド)かる。


十一月九日 火

夜、リード氏を訪、不在、妻に面し、ホイスキーのみ加藤氏を訪う。

大酔乱言して帰る。


★ロンドン日記/南方熊楠★



■「ロンドン日記」を自分で読んだわけではなくて、
澁澤龍彦「悦ばしき知恵」で紹介されてたものから。

マリ |MAIL






















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