○プラシーヴォ○
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2002年07月30日(火) ガス抜き

まさか

ハム男以外の男性と手を繋いで歩くことなんて

ありえないと思ってた



後ろを振り返ると

友人のタコちゃんが

不安げな目で私を見ている



今までさんざん2人で飲みに行って

男性と意気投合することはあったけど

2人がバラバラになって



それぞれお持ちかえりすることなんて

今までなかった



タコちゃんの横には

タコちゃんのことを好きなゴロウくん


これでいいの?



「ここから歩いて15分くらいだからね」


ヒライさんの家に向かって歩いている私達


何もしないから、



ホックリ微笑むヒライさんを見ていると

そうかな、と思ってしまう





だけど

気がつけば私は

ヒライさんの部屋で

ヒライさんとキスをしていた



今日会ったばかりの人と

キスを



少しでも私の体が離れないように

何度も何度も私を引き寄せて

キスをして

セックスをした



ヒライさんは

動きや言葉遣いがハム男とそっくりで

私はハム男の名前を呼んでしまわないように

何度も口をつぐんだ



『土星人はヘソから上でセックスをする』


と細木数子さんも言っているように


動きが激しくなるヒライさんと

反比例するように

私の頭は

どんどんクリアになっていった


「これはハム男じゃない
 
 この人も彼女がいるから
 
 これは遊び以外の何物でもない」


頭にこびりついた

思いが

どんどん私の下半身を麻痺させていく


何度も頭をなでてくれるヒライさんに

ニッコリと笑いかけ、

早くハム男に会いたいと

強く思った



2002年07月23日(火) 挫折タイム

また職を失った


迷いながら友人達に相談しながら
決めた職場だったのに



スタッフが私一人で
朝の10時半から夜の20時まで
狭い店に入りっきりで

しかも20時ぎりぎりに
お客さんがきたりすると
店を出るのが22時すぎになったりするし

週に一日 水曜日しか休めないし


『シフトを組みたいので
 もう一人雇って下さい』


と言って、雇ってくれたのはいいけれど


『シフトを組んで、今までの半分くらいしか
 働かないんだから
 給料も半分だよ
 一ヶ月、10万ちょっとになるけどいい?』









イイワケ ナイダロ





もう一人の人は、やる気まんまんで

『シフトなんていいです
 私、朝から晩まで働きます』

って笑顔で言ってのけた


店長が言いにくそうに
そのことを私に伝える



そうだね

そんな人がいるのなら


シフトだ給料だって
ぶうぶう言ってる私は
いらないよね


『辞めさせていただきます』


働き始めて2週間弱


私、社会生活ができない子になってしまったのかな



いやだいやだ


頭がごちゃごちゃしてきた


もう誰にも相談しない


相談した友達を
頭の片隅で恨むなんて


小さい小さい小さい


なんて小さい私


就職も
退職も

私のせいでしょう



この業界で働けないのかしら


2002年07月18日(木) しゅきしゅき

ねえ水曜日、会いに行っていい?


勇気を振り絞ってハム男に聞くと
あっさりと


うん、おいでおいで


ですってさ



金曜日も会いたいんだけど


うん、おいでおいで






ハム男の横でうつらうつらと
しながら
思ってることを言った



「私、今すぐ死んで
 ハム男の後ろにずっとくっついとくよ
 ずっと離れない」


これまた眠そうな声でハム男が答える


「死ぬなんて、言わないで」



もう眠りの崖から滑り落ちそうなハム男に
もうひとつ言葉をかけた


「ねえ、今月の27日、何の日だ」



「…海の日…じゃないよな
 ええっと、あ、旅行に行く日だね」


確かに27日は私の家族とハム男と一緒に

日本海に行く日



だけどね


違うよ


本当はね


私が


子供を


殺した





2002年07月11日(木) 飲まれた

それは、核爆弾のスイッチのように

カバーがあって、
暗証番号があって

ちょっとやそっとじゃ
発射しないものだと思ってたのに



ジョッキ7杯のビールで

いともあっさりと
私はそれをハム男へ向けて
発射した



「もういいです
 もう別れましょう。さよなら」


今送信履歴を見ても
なんて冷え冷えとした言葉だろうと思う





金曜日の夜、ハム男の家に行っていい?

と、

今日の昼にメールをしたのに
ちっとも返事がこなかった



友人と飲みに行っていたので
夜中の1時にハム男に電話をすると


「メール?
 ああ…忘れてた
 土曜日に友達の引越しの手伝いするから
 金曜の夜はその友達と飲むからダメ
 日曜日もサッカーだから」


忘れてた?


私のメールを

忘れてたって?


頭に血が昇る



そうして、最初にあったような文面を

ハム男に送ってしまった


嫌い

とか

バカ

とかいう単語なら

今まで何度も送ってきたけれども


こんなにはっきりと

別れ



あらわしたのは初めて



ハム男



何考えてる?


2002年07月10日(水) 燃えろよ燃えろ

夜、ハム男の家へ行った


一緒にテレビを見て

番組が終わって、

CMになった瞬間、ぞぞぞっとした



今、すっごく つまらない


テレビを見ながら
あーだこーだということしか
会話が無い


昔はこんなんじゃなかったのに

こんなんだったら
家でパソコン見てる方が楽しいだなんて

そんなこと思う自分に


びっくり


そして

2週間ぶりのセックス



これまた驚くほど

つまらない



喉の上の方から

お決まりのあえぎ声を出す


無表情を見られないように

感じたフリをして

ハム男にしがみつく



あくびを噛み殺すのに必死


ハム男が体中で息をして

私に倒れかかってきたとき

ホッとした


やっと終わった

って

思った




買う気なんてサラサラなかったのに


本屋でつい買ってしまった
最後の一冊だったし


今テレビで話題の

女性のための
セックスハウツー本



とりあえず読んだけど


ハム男がしてくれなさそうなことばかり


もうハム男に

期待することなんて

何もない



それでも別れないなんて


なんて小さい女なんだろう 私


2002年07月07日(日) 粘着

私に持ってないものを持っている友人がいる


『いい意味の粘着性』


彼氏とは毎日でも会いたい

彼氏が友人と会ったり、
友人の結婚式に行ったりすると
たまらない

昔の友人の話は聴きたくない
(まるでドラマのように耳を塞ぐらしい)

今すぐにでも
結婚したい



THE 女の子って感じ


スーパー淡白だった彼は
彼女の教育のおかげで

週に何度か電話をかけてくれるようになったし

好きだと口にだして言ってくれるようになったらしい



例えば私自身は

昨日今日と

ハム男から電話が無くても


昔ほど、動揺しなくなった


むしろ

このままフェードアウト
してしまいそうな
気にすらなる



って、書くこと自体

動揺しているということなんだろうけど



口に出すか

出さないかの違い?



本当は私も

ハム男に会いたい?


2002年07月06日(土) 豹変

「ハグをね、して欲しいんだ」


まだお店に勤めていたときに
同僚のシノちゃんが呟いた


八ヶ月の子供がいる未亡人
(籍を入れる前に恋人が死んだ)


でも明るくて、色っぽくて
ちっとも不幸の匂いをさせない
できた人


お店のストレスもあって
心が限界で
誰か男の人にギュウと抱きしめてもらえれば
穏やかになれそうな気がする




シノちゃんは続けた


それから少しして


「アスカにハグしてもらった!」

とホクホクの顔をしていた


アスカとは、うちの店のお得意さん
(ほぼ毎日通ってきてくれていて
 偶然にもシノちゃんと共通の友人がいる
 
 チャゲアスのアスカに似ているから命名
 
 不動産屋の店長)


共通の友人と3人で食事をした後、
偶然帰り道で2人きりになったとき、
お願いしたんだそうだ


そんな会話も忘れてしまっていた今

シノちゃんから電話


アスカに告白をされたらしい

「店でお前ばかりを指名していたのに
 俺の気持ちに気づかなかったのか?
 共通の友人と頻繁に会っていたのも
 お前との会話のネタを増やすためだったんだぞ」

実は、その共通の知人は
アスカに恋をしている

2人とも30代後半だから
お似合いなのにね、と

シノちゃんが言っていたのに


まさか自分が告白されるとは思ってなかった


丁重にお断りすると

今まで穏やかで優しかった顔が
ガラッと変わり


「シバクぞ、ダボ(神戸弁でバカとかアホの意味)」

と低い声で言ったそうだ


「今から共通の知人のとこに行くよ
 あいつだったらヤらせてくれるだろうからな」


本当に、今までずっと
まるで森本レオのように
穏やかで優しい人だったのに


こいつもバカ店長同様

ちっちゃい人間だったんだ


「タイに研修に行った時
 店長とヤったんだろう
 
 タイ人なんて、金をやれば
 ホテルのスペアキーくらい
 いくらでもくれるんや
 
 店長がお前の部屋に入ってきたんだろう?
 
 お前なんかに
 俺の本当の気持ちなんて分からないだろう
 
 俺は大人だからな」



大人はそんな小学生みたいな
悪口はいいません


汚い言葉に耐えて

シノちゃんは店から出た瞬間

ダッシュで逃げた


まったくあの店にかかわってから

ろくなことがない




 


2002年07月05日(金) せっかく平気だったのに

『ぜひ来て』

と言ってくれたほへと店は
遠い


家から1時間30分くらいかかる


でも世の中にはそれくらい
通勤、通学している人が
ゴマンといる


現に、ついこないだまで働いていた店は
2時間弱かかってた



ハム男にその話をすると


「遠い、遠い
 そりゃ遠いで。止めておきなよ」


そんなとこに行くなんて
有り得ない、と
笑うハム男


「…だって、せっかく来てくださいって
 言ってくれてるのに…」


「なんでそんなにあせってるの?
 ゆっくり探しなよ
 なんでそんなに遠くに行くの?」


「収入がないと困るからだよ」


「…それを言われると、俺も何も言えないけどさ…
 がちゃ子にあんまり遠くに行って欲しくないんだよ
 しんどい思いをさせたくないねん」


普段めったに言わないような
甘やかな言葉を言われ

一瞬、クラリとする


だけど、だけどね


それはあなたの自己満足だよ


しんどい思いをするのは
私で、重々承知


どうして私の意気込みをくじくようなことを
あっさり言えるの


それは優しさじゃない

優しい言葉を言ってる自分に
酔ってるんだよ



オマエガエランダミチナラ

マチガイナイヨ

オウエンシテルヨ

シンドカッタラ

イツデモハナシヲキイテヤルヨ



って言って欲しいって思うのは

私の我侭?


可愛げなさすぎ?


高校も
短大も
就職先も

誰にも相談せずに決めてきた


そんな私だから

私の行き先に干渉されると

動揺する


もしかして
そうすれば幸せになれるのかと


勘違いしてしまいそうになる


2002年07月04日(木) 引っ張りだこ

「求人はありませんか?」

と問い合わせた店から
返事が来た


いろは店から
『面接にいらしてください
 日時は、明日こちらからお電話します』

ほへと店から
『すぐにでも来てください
 お待ちしてます』


一ヶ月と少しとはいえ
経験者であることが有利だったらしい


嬉しい


こんなご時世に

私を必要だと言ってくれるところがあるなんて


2002年07月03日(水) ドーパミン

朝目を覚ますと

母のメモがテーブルの上に


私と母が共通で好きなあの人の情報だった



手早く身支度をして

電車に揺られる



いた


道路に面した壁が全てガラス張りになっている

ギャラリーにあの人はいた



興味の無いフリをして

とおりすぎる



またとおりすぎる


あまりそこにじっとしてるのもおかしいので

電話をかけるフリをする



お百度参りですか?

というくらい往復したとき


ギャラリーにおばちゃん達が

どっと入っていった



私も勇気をふりしぼり、

流れに乗る


比較的被写体が大きく写された写真が十数点


ぐるりと見回り、


彼の元へ



エッセイを購入し、サインを書いてもらう


「写真、いいですか?」


彼の横にいた、

彼よりもかわいらしい顔をした

スタッフさんがニコッと笑う


「はいはい、撮りますよ
 任せてください!」


2枚、縦と横の構図で撮ってくれた


胸がはちきれそうになる


最後にそっと手を出してくれた


私もそっと握り返す


ドアも開けてくれた



嬉しくてたまらなくなって


駅まで全力疾走で帰った



明日、天気予報を見るのが楽しみ


今日会った顔を確認しよう


2002年07月01日(月) もうどうにでもして

お店の鍵を持って帰ってしまっていたのに気づき

同じく持って帰ってしまっていた
スタッフの子と3人で
恐る恐るお店に行った


3人揃って来たのを

お店に戻って来てくれたのだと
勘違いして

店長は大喜び


そして急にこんなことを
言い出した



「レジのお金が
 売り上げと合わない」


クビだクビだと
騒いでいたチビちゃんズが
盗んだに違いないと


憶測だけで言い切った



「だって 
 あの子たちはぜんぜん俺と目を合わそうとしなかった」


どうだ
すごい証拠だろうと言わんばかりに

ゆっくりと含めるように
私たちに言った



ああ


この人は本当に


頭がおかしいんだと


再確認した



「失礼します」


とそそくさと店を出ると



走っておいかけてきた



もう戻ってきてくれないの?


と、不思議そうに聞いた




ハイ


と3人で短く答え


まだ何か言いたげな店長を無視し

足早に去った



怖い怖い





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