○プラシーヴォ○
目次←どうして?それから?→


2001年12月31日(月) 涙の晦日

26日から九州の実家に帰っているハム男。

それから一回も連絡が無い。



けれど、いくらなんでも年を越す時と
年が明けた時くらい声が聞きたい


事故したの?
体調が悪いっていってたお母さんに何かあった?
ナニナニナニナニ?


頭の中に?を飛び回らせながら
ハム男の携帯に電話をする


5回コールして、ハム男がでる

「…どうしたの?」

それはこっちの台詞だよ。

心配したんだよ
声が聞きたかったんだよ
彼女が彼氏に電話するのが
そんなに驚くようなこと?


思いがけないハム男の返事に、私が黙りこくっていると


「こっちは暇でさあ、することなくて
 テレビばっかり見てるよ
 じゃあ、また電話するな」


電話は切れた

総会話時間、30秒

また電話するって…
これは私からかけた電話でしょ


テレビで江口洋介が何か言っている
松雪泰子も何か言っている


もう聞こえない
もういやだ

こんな彼氏


いやだいやだ


さようなら
2001年


2001年12月26日(水) 最後の晩餐

週に数回とはいえ、私が通うようになってから
ハム男の部屋には物が少しずつ増えていった


化粧水 乳液
化粧品一式
生理用ナプキン
調味料
料理道具


片手鍋一つとフライパン一つしか無かったという
ハム男の台所には
所狭しと調味料が並び(まあ、一般的なものだけど)
炊飯器やトースターも設置された



だけどなぜか
今現在も、砂糖だけ置いていない

最初のうちは、コーヒーに入れるスティックシュガーを
入れて料理をしていたのだが

最近そういえば砂糖を使うような料理をしていない


「いつも揚げ物とか焼き物ばかりで
 煮物なんてつくらないから、砂糖いらないね」


ハム男が急に得意げな顔をして反論した
「俺は昔、作ったもんね!
 ほら、魚を味噌で煮込んだやつ」


そうそう、あれは確か味が薄くて
なんとも表現しがたいシロモノだったね


そしてね、ハム男
確かあれは






中絶する前夜

ラミナリアを入れてうんうん唸ってる私のために

作ってくれたやつだったね





ハム男は、『いつ』作ったものなのかは
覚えてないらしく

何事もないように再びペットボトルから
お茶を飲んだ


そんな横顔を見ながら


中絶という事実に対する情熱の温度差を


感じずにはいられなかった


2001年12月25日(火) 耐えられない軽さ

携帯が鳴っている

そうだ、ここはハム男の部屋で
あれは、目覚ましとしてセットしておいた
携帯のアラームだ…


ハム男を起こさないように手早く支度する
そして、いつものように
寝ているハム男にキスをして出社しようとした


したんだけれども


結局、昨日は喧嘩しっぱなしで、ぐずぐずと寝てしまったので
私の心はモヤモヤまみれだった


ハム男の怖い顔 怖い声

サッカーと私どちらを選ぶ?
だなんて
比べようもない質問をしたとしても


サッカー


と即答されるかもしれないと
知ってしまった昨日の喧嘩



思ってたより
軽かった私の必要性


目の前で寝息をたてているハム男が
まったくの他人に見える朝


キスする気にはなれず
コートをはおって、マフラーを巻きながら外へ出る


こんなに悲しい思いで
ハム男の家を出るのは
初めてのことだった


2001年12月24日(月) イブバトル

12/24 クリスマスバトル
歩く速度が世界一速い人種の群れの中で
私はクリスマスのディスプレイを見上げる
1人で、見上げる



「行っていいの?」
嬉しそうな声、嬉しそうな顔


明日、サッカーの試合があるんでしょ?

と私が尋ねたのは、

「行かないよ
 イブはがちゃ子と過ごすんだから」

という返事が聞きたかったからなのに

そんな顔で、そんな声を出されたら
「いいよ。行っておいで」
としか、言えないでしょう


これまた嬉しそうな顔で、今朝、ハム男は出かけていった



しばらくして、私も街へとやってきた
予想通りの人、人、人
人ゴミからかばってくれるハム男はいない
なんとかケーキの箱を死守しつつ、電車に乗り込む


夕食…どうしよう
メニューが思いつかないし、
食べに行くところも思いつかない


 そんなに楽しいなら、そのままサッカーの友達と
 食事して来て下さい

とメールを打った


私は、宅配ピザでも食べればいい



ハム男の家で、ピザのメニューをながめていると
電話が鳴った

「がちゃ子?今から帰るよ
 カレーを作ってあげるからね
 あと、途中でチキンも買って行くよ」

メールの事には一切触れず、カラリと明るい声で
私の名前を呼ぶハム男


食べて食べて飲んで飲んで
すっかり瞼が下がり気味の私は、
素早くお風呂に入って、ベッドに倒れこんだ

それを見たハム男は
部屋の電気を消して私の頭を撫でた

そして、自分は再びテレビへと向き直る


特にきっかけがあったわけじゃないけれど
今しかない、言うのは今しかない、と思った


ベッドの上で寝転がったまま、ハム男の方へ顔を近づける

「あの…さ、週に一、二回しか逢わないんだから
 もうちょっと大事にしてくれても、いいんじゃないのかな?」


膝を抱えてテレビを見ていたハム男が、
顔をこちらへ向ける

「大事にするって、どういうこと?
 俺は、ちゃんと大事にしているつもりだけど?」

予想を遙かに上回るキツイ口調に、私はたじろいだ
こんなに私を突き放すように話すハム男は
初めて見た


「ねえ、どうして大事にされてないって思うの?
 例えば?言えよ」

いつも笑って言い逃れするハム男が
今回は逆に私に詰め寄ってくる
怖くて、口ごもる私を見てハム男が言葉を足す

「今日、がちゃ子を置いて、サッカーに行ったこと?
 でも俺からサッカーを取ったら、何も残らないくらい
 サッカーが好きだし、大事なんだよ」

今日だって、メンバー殆ど全員揃ってたよ
彼女がいるやつだって、ちゃんと来てたよ
交代で審判をやったりして、いろいろあるんだよ
俺だけ、急に休むわけにはいかないんだよ



知ってる、知ってるよ
知ってるんだけどさ、イブの日くらい一緒に…って
期待するのはいけないことなの?



もうすっかり、涙にまみれて嗚咽し始めた私に頬をよせて
ハム男が言った

「がちゃ子も、何か見つけないとだめだな」

それは私が今まで付き合ってきた人達に、さんざん言った台詞


私のことだけ考えないで
趣味を持って
何か熱中できるものを探して


そうだね、分かった、ゴメンネ

ティッシュで涙を拭くハム男の手をやんわりとどかして、
私はハム男に背を向けた



次の瞬間、私は暗闇を見ていた
横でハム男が寝息をたてている

AM4時

どうして目が覚めたんだろう


いろいろ体勢を変えても、どうにも寝付けない


「…目が覚めたのか?」

一度寝たらめったなことでは起きないハム男が
起きてしまった
私がガサゴソと動いたからだ

「あ…うん。ごめんね」
なるべくハム男から離れようとして、
壁にぴったりと身を寄せる

壁とベッドの隙間に埋まりそうな私
首の下に、ハム男の腕が潜り込み、私を引き寄せる


開いている方の手で、布団と毛布をきっちりと私の肩へ掛ける


ずしり、とベッドに私の体重が乗った
いつの間にか緊張していた私の体が弛緩したのだ


今日がイブでなければ
あなたを気持ちよくサッカーへ送り出して
あげられたかもしれないのに


2001年12月19日(水) 逮捕します

誰にも罰してもらえない
だから、自分で罰するしかない


と私は以前書いた


しかし、

『刑法212条 堕胎罪』

というものがあるということを今日、初めて知った



・中絶を希望する人が肉体的、精神的に出産に耐えられない
 と、医師が判断した場合

・強姦による妊娠

・既に子供が多数いて、経済的に困難な場合
 
・出産前の検査で、障害児になる可能性がある胎児だと
 分かった場合


上記4つの理由に当てはまらないのに
堕胎を行った場合、
本人と、中絶に同意した男性共々
1年以下の懲役

こちらが
「中絶したいんです」
と言ったからといって、ろくすっぽ話も聞かずに
あっさり堕胎を認めて処置すると、医師は5年以下の懲役


障害児を堕ろすのは罪でないの?
初めて妊娠した人が避妊を怠ったは責められて
既に子供が大勢いる人のそれは認められるの?



障害児を減らす
人口を減らす

国のための法律

今だに、
膣の中で射精しても
コーラで洗い流せば精子は死ぬんだとか
ある種、おとぎ話じみた嘘を信じている成人が
現実にいるということ


そういう人間を産み出す、中途半端な性教育


悪い堕胎と
悪くない堕胎があるという 現実


2001年12月18日(火) 表情

ふと思い出した事を書いてみよう。

1年半前、7月27日、堕胎手術の時のこと




手術が終わって、個室に戻り、

「俺、路駐してる車を病院の駐車場に戻してくるね」

というハム男の声を聞いた後、
まだ残っている麻酔と、終わった安堵感からか
再び私は眠りについた。


目が醒めて、時計を見ると3時間ほどたっていた


トイレがしたい、

と思い
恐る恐る立ち上がり、点滴を台から外して手に持つ
どこにも痛みとか、違和感が無い

トイレに入ると、ナプキンがもう血まみれだった


普段より若干力が入らない足で、ゆっくりとベッドに戻る


さっき、立ち上がった時には気づかなかったが、
ベッドの、私のお尻があった辺りが大きく血で染まっている


大丈夫なのだろうか?
こんなに血が出てもいいのだろうか?

ハム男、ハム男、と口の中で呼びながら、
不安で力がどんどん抜けていく体をなんとか支える

ガラリ、と個室のドアが開き、ハム男が帰ってきた
血まみれの私やベッドを見せたくなくて
慌ててベッドに横たわる

ハム男の後につづいて、看護婦さんも入ってきた
「あら、目が覚めた?
 じゃあ、おトイレ行きたくない?大丈夫?」

「あ、今行きました」

ええ?という、笑いながらも困った表情で
看護婦さんはハム男を見た

「1人で?んもう、術後、絶対に1人では立ち上がらないように
 伝えてねって言ったのに!彼氏さん、何やってたのよ
 テレビでも見てて忘れちゃってたんでしょう!」

自分では麻酔が抜けたと思っていても、
急に意識を失ってトイレで頭を打った人とかが
実際にいるらしい


じゃあ、あと30分くらいゆっくりして、
大丈夫そうだったら受付に来てね

と言い残して、看護婦さんは出ていった


2人きりになって、ハム男は椅子に身を投げ出すように
荒々しく座った

「彼女にこんな事させて、
 しかも麻酔がかかって寝てる時に1人で放っておいて
 最低の男やと皆思ってるんやろうな…そうや。俺は最低で最悪やわ」


いつも優しくて穏やかなハム男の
そんな自嘲的で、苦々しい顔は初めて見た

手術が決まってからも
私が怯えないように、ずっと笑顔で
「すぐ終わるよ 大丈夫だよ」
と励ましていたのに

あれが、本当の今のハム男の気持ち
苦しんでる顔

一生忘れられない



ハム男だって、泣きたかったんでしょう?


2001年12月15日(土) 判明

ごちそうさまでした…ごめんなさい

と、心の中で唱えて箸を置く
7割ほど残った蕎麦定食

お腹そのものは空腹なのに、
胸の辺りが満杯で、うまく飲み込めないのだ

店を出て、自然と早足になる
ハム男の家への電車がいつもより遅く感じられる


テレビの上に置いてある車のキーを
ポケットへ滑り込ませ、
さっき入ってきたばかりのドアから、再び外へ出る

5分ほど歩いて駐車場に着き、
ハム男の車の横に立つ

さっき、キーを手にした時、うしろめたさが
最高潮に達した。
でも、もう見ずにはいられない。

夜の冷気で冷えきったシートに座り、
バイザーを開ける。
あの時、ハム男がしたのと同じように
ハイウェイカードや高速道路の領収書を引きずり出す

びくん、と心臓が跳ね上がる
青と黒の色調をした何かが私の手の中にある
あわてて車内灯をつける


「これ…」

マクドでもらった、ガソリンスタンドで使える割引券だった
青と黒の模様で、100円割引と書いてある

「そうですか…」

誰に言うでもなく、呟く

綺麗に再びまとめて、バイザーに押し込むと、
押し込んだ反対側から何かが出てきた


一度静まった血が、再びスゴイ勢いで流れ出す


ハム男、知らない男1人 知らない女2人 計4人
印刷された『みんな仲良し』の文字
温度差で、少し変化したり落ちている色


誰?いつ?どうして?どこで?

よくよく見ると、この男性に見覚えがある
3つ子で、そのうち一人だけ鹿児島にいるという人だ
あとの2人は見たことあるから、きっとそうだ
顔が似てる

ピースするでもなく、肩を抱くでもなく、
何かの行事の時に撮った集合写真のように
整然としている4人

日焼けしているハム男
きっと今年のお盆に鹿児島へ帰省した時
撮ったものだろう

嫉妬心がちっとも温度を上げなかった
いい写真だな、とすら思った


これ以上憶測しても、意味が無い
今度、無邪気を装ってバイザーを開けよう
そして、これは何?と
ハム男に直接聞こう


なんか、ホッとしたなあ
もっともっと泣きわめいてしまうような
ドラマチックなプリクラを予想していたのに


次の日、プリクラを見つけた時より血の気が引いたのは、
車の鍵を元の場所に戻していなかったこと…

ハム男が寝ている間に
慌ててテレビの上に置く


…気づかれて…いませんように


2001年12月14日(金) こぼれ落ちたモノ

12/14 こぼれ落ちたビックリ
今からハム男の家に行く
今日の晩、泊まるために

それはハム男も知っていること

家に行ってから、ハム男の知らない事をする
誰も知らない、知られちゃいけない事…





先日、カニ旅行に行った時のことだった
高速道路の料金所が見えてきたので
ハイウェイカードを取るために
ハム男はバイザー(っていうの?目の前の日よけ)を
パカッと開けた

ざらざらざら…
予想だにせず、整理不足の領収書やカードが落ちてきたが
ハム男はかろうじて全て膝の上でキャッチした

その雑然とした荷物の中に、プリクラが混じっていたのだ

3枚ほどつながっていて、青っぽい色をしていた
写っている人物は全く見えなかった

「あ、見て見て〜がちゃ子
 これ、この前○○君と撮ってん」

と、見せてくれるだろう
いつものハム男なら

しかし、ハム男は他の荷物と手早くまとめて
またバイザーの隙間に押し込んでしまったのだ

その、ある種せっぱつまった様子を見て、
思わず私も見なかったフリをした

前の車は運転がヘタで、中央分離帯に激突しそうだったこととか
料金所のおじさんのアームカバーが花柄だったことなんかを
必死に話して、プリクラなんて見てないぞということをアピールした


でも、胸のドキドキは一向に静まらなかった

普段、プリクラなんて撮らない人だということ
隠し事をされたこと
この前、携帯のメールを盗み見した時、コンパの誘いがあったこと

私が知ってる範囲のいろんな事実が
ぐるぐると頭をよぎる


今すぐハム男を車から道路へ突き飛ばして
バイザーを開けて、調べてみたい衝動にかられる


口の中を噛んで、目をつむる
最近、動揺するとすぐ泣いてしまう私は
熱くなっていく瞼や喉が静まるように祈った



そしてついに今日、チャンスが訪れた
ハム男が帰ってくるのは、22時前後
私がハム男の家に着くのは19時前後

時間はたっぷりとある


さあ、何が出てくるのか


2001年12月13日(木) オペラ座の怪人

想像以上に水分をたっぷり含んでいたシートを
破らないように、そっと顔の定位置に貼り付ける

ヒヤリとした感触に耐えていると
ハム男から電話がかかってきた

「もひもひ?」

口を大きく開けれず、不明瞭な返事になってしまう
ハム男は、受話器の向こうでなにやら歌ってる

うっとおしいので切る

かかってくる

「おい!切るなよ!聞けよ!」
と言って再び歌い出す コブクロらしい

また切る
それをあと2回繰り返して、ようやく普通の会話になった


「がちゃ子…今週の日曜日サッカーに行っていい?
 試合なんだけど…行っても怒らない?」

2週間ぶりに逢えるのに?
土曜日はハム男が仕事で夜しか逢えないのに?

「…怒らないよ。行ってくればいい」

私も実は日曜日にお芝居を見に行くので
ハム男を怒るわけにいかない

けれども、悔しいのは
私が腹立たしくて悲しいのは
ハム男がサッカーをすること自体では無く
毎週毎週どんなに忙しくても、どんなに疲れていても
サッカーだけは、きっちり行くというハム男の気持ち

私との待ち合わせは平気で寝坊するくせに
いくら揺り起こしても起きないくせに


おっと、いけないいけない
またマイナス思考ハム男ムカツクスイッチが
オンになっちゃった

と思った時にはもう遅い


美容液と混じってトロトロになった涙が
顎からつたいおちる

ジェイソンのようにシートパックを貼り付けた私は
顔の筋肉を動かせないまま
ひたすら涙をこぼした


2001年12月11日(火) 武装解除

疲れたな、と正直思った

私がいくら怒ったりすねたりしても
ハム男は私を責めたり、許したりしない

いつもどおりの会話をして
話を早目に切り上げて
怒っている私をほったらかしにする


一人でプンスカ怒るのには限度がある
とにかく飽きてしまうし、
相手にしてもらえないやり場の無い怒りは
完全に消滅しないにせよ、いつまでも持続しない

一度だけ、聞いたことがある
「どうして私が怒っても、笑ってごまかすだけなの?
 私が理不尽な理由であなたに怒ってるなら
 反論すればいいじゃないの」

ハム男は、だって…と薄く笑った
 
「俺、頭悪いからさ
 口論では絶対がちゃ子に負けるんだもん
 口論を押さえられずに別れ話になるのが嫌だからさ」

ハム男は、おびえていたのだ
中絶手術をしてから泣き上戸になって
少しヒステリックさを増した私が、
中絶手術を容認したハム男から、勢いで離れていくことを

いろんな人のホームページを見たり
お寺に供養をお願いしたりして
少なくとも誰かに心の声を聞いてもらった私と違って
きっとハム男は
私の手術のことを誰にも言ってない

言えてない

唯一手術のことを知っている私には
傷をまた開くことになるだろうということで
話ができないだろうし

一人で抱えたままで
ずっと、負い目を感じていたのだろうか
この人は



そう思うと、今のハム男の心境が知りたくて
メールを打った

『事務所が寒すぎて、手がかじかみます』

全く関係ない内容。
けれども、
私から連絡(メール)するということ
それは、もう怒ってないという合図

昼、弁当を食べながら会社のパソコンでインターネットを
見ていると、ハム男から電話がかかってきた


仕事で京都にいるけれど、大阪に急いで戻らなくてはいけないこと
お昼も食べられないほど忙しいこと

とてもそうとは思えないほど弾んだ声が
電話から響いてくる

今回も、無事ハム男の
『怒りのがちゃ子を黙って見守る』ミッションが成功し、
私の怒りがおさまったのが嬉しいんだろう

ハム男、もっといっぱい話そうね
あなたが萎縮してしまうのなら
なるべく怒らない方向で検討したいと
思っています


2001年12月09日(日) 私はタイクチです

空腹で目が覚めて、
頭の横にあった目覚ましがわりの携帯を覗き込む

AM10:00

ああ、今日はどうするんだっけ?
結局昨晩、ハム男からの連絡は無かった

確か今日は、朝イチからサッカーの試合があると言っていた
遅くとも昼過ぎには体が空くんだろう

PM1:00

母のつくってくれた焼きソバで満腹
電話の子機を握りしめて、しばし見つめる

つきあって1年半が過ぎようとしているのに
今だにハム男に電話をするのが苦手だ
私からは、何か連絡事項がある時のみ電話をかける

緊張しながらハム男の携帯番号をプッシュする

しばらく呼び出し音が鳴って、無機質な留守電の声が聞こえてくる

きっと、寝ているんだ
昨日お酒を飲み過ぎて、サッカーには行けなかったんだ

だとすると、手強い

ハム男が一旦寝てしまうと、電話のベルくらいでは目覚めない



PM2:00

PM4:00


やはり電話に出ない

実は私は朝から半泣きだった
ハム男のバカバカバカヤローと唱えながら
ずっとずっと畳の上をゴロゴロと悶えていたのだ

私に会う努力をどうしてしてくれないのか?
電話一本、する暇が無いのか?

ああ、そうだ、がちゃ子に電話しないと
俺のことを待ってるかもしれないな なんて
むっくり目が覚めたりはしないのか?


どうして私ばっかり好きなまんまなの?
どうして私を長年連れ添って興味を失った妻みたいに扱うの?
どうして昨日の新郎はあんなに優しいの?


このままつきあっていって
私はずっとこんな風にあなたに文句を言い続けるの?


泣きつかれて、このままでは頭がパンクしてしまうと思った私は
久しぶりにプレイステーションを引っ張り出した
読み物形式のゲームにのめり込み始めたころ…

PM7:00

電話が鳴った

「がちゃ子?元気?」

寝起きにしては、スッキリした声

「寝てたの?」

「まさか!サッカーの試合してたよ
 朝から、2試合もあってヘトヘト!メンバーと飯食って
 今、家に帰る途中」

ハム男は、ハム男のスケジュールをこなしていただけだった
私が怒る余地はどこにもない

一日中ぎゅうぎゅうと胸にため込み続けたハム男への不満は、
突然行き場を失った

早くクッションに顔を押しつけて
体を丸くして、行き場を無くしたいっぱいの言葉を
一人で反芻したかった
体の中から出してしまいたかった

「もしもし?あれ?がちゃ子」

「…うん」
声が出ない
口が開かない 

「なんか、暗いね。どしたの」

「ばいばい」


チン と電話を切る
うずくまる
バカバカバカ バカは私

私がいなくっても十分に楽しそうなハム男を見て
嫉妬してるだけの
度量の狭い私

やっぱりがちゃ子がいないと寂しいよ

って言って欲しいだけの
退屈な私


2001年12月08日(土) ご結婚

磁石ですいつけられるみたいに
新郎と新婦は時々見つめ合ってウフフと笑う

それは、スピーチでもからかわれる程
幸せそのものの光景で、
私達はただ羨望の眼差しで、おめでとう、と
口々に言うことしかできなかった

2次会でも、とにかく新婦を守るように
常に寄り添って新郎は腰に手を回している

妊娠4ヶ月とはいえ、全然目立たないお腹を時々触りながら
また新婦は新郎を見て微笑む



気がつくと、私は友人と3人で、
2次会会場そばの喫茶店でコーヒーを飲んでいた

「あ…、終わったんだ」

なに言ってんのよ、とyouちゃんが笑って
油とり紙でおでこを押さえる
「あっという間だったわよね
 2次会も、楽しかったし」

同い歳の友人、トモがお腹のそこから息を吐いて、
細めのタバコを再びくわえる
「ほんっとにイイ男だったわよね〜
 優しそうでさ〜
 もう一人くらいいないのかしら、あんな男」

ハム男とすごく違う

と言うと
2人からそれぞれ頭を叩かれた

「彼氏がいるだけいいじゃないの
 …ハム男君だって、優しいでしょう?」

今日の新郎ほどは優しくないよ
自分が面倒臭いことはしてくれないし
私から言い出さなければ会おうともしてくれないし
自分が楽しい時は連絡してくれないし
(現に今日も、友人と遊んでいるだろうから
 23時現在も電話はかかってこない)

新郎の光に照らされて
うちのハム男の汚くてどうしようもない部分が
うき上がって、見えてきてしまったよ

明日、逢えるんだろうか


2001年12月05日(水) 中絶費用

最近、ほぼ毎日のように

『中絶 費用』

というキーワードで私の日記が検索されているようだ


少し以前に書いた、『ガールズガード』
という中絶費用保証つきのコンドームのことを書いたものが
どうやら検索にひっかかるようだ


画面の向こうで、自分自身のためか
もしくは彼女のためなのか分からないけれど
中絶の費用がどれくらいかかるのか
知りたがっている人がいる現実


〜中絶の費用を知りたい皆様へ〜

私の日記はあまりデータ性がありませんので
他の中絶に関したホームページをご覧になることを
お勧めします

ちなみに私は妊娠6週目で堕胎しました
前処置、手術、後日の診察1回分を含めて
10万円(税込み)でした



2001年12月01日(土) 蟹しゃん

これ…民家デスカ?

と、本日泊まる予定の宿の前で立ちつくす私達

サザエさんやちびまる子ちゃんが住んでいそうな
純和風の一軒家

しかし、『民宿 庄○』と看板はしっかりついている

おそるおそる引き戸を開けると、中は一応それっぽい造りになっていた

17時過ぎぐらいにハム男がふと
「見て見て、ここにスーパーがあるよ」
と宿においてあった周辺の地図を見せた

宿に入る前に、今宵の酒をゲットしようとしたのだが
まったくもって酒類を扱っている店を発見できなかった私達

「あ、ほんとだ。
 でも、17時30分から食事が始まるから外出しないでって
 女将さんに言われたもんね…
 そうだ、ハム男はここにいてよ
 私、こっそり行って探してくるからさ!」

「そう?うんうん、行っといで」


…引き留めてくれとは言わないけどさ

すでに星が見えるほど真っ暗なお外
しかも見知らぬ土地で、
どこにあるんだかハッキリ分からないスーパーに
彼女を一人、よくもマアためらいもなく送りだせるわね、アンタ


この時に、すでに私のエネルギーは
漏れて居たのかもしれない


夜、17時30分から蟹づくしコース開始

う〜ん

全てイマイチ!



いつも家で食べているような味だった
「やっぱ新鮮だと甘い味がするんですね!」
なんて屁にも思わなかった

初めて食べる蟹ミソも、なぜかカラッカラに干からびてやってきた
どうやらじっくりと焼いたらしい

「スープ状につくってくれたほうが美味しいのに〜」
とハム男は意気消沈
確かに、なんだか生臭くてボソボソしているだけの
奇妙な食べ物だった

最後の最後に勝手につくった蟹雑炊だけが
一番美味しかった


食事が終わり、19時すぎ
さあ、散歩にでも行こうかとハム男を見ると、

爆睡中

焼酎お湯割を2杯飲んだだけなのに?

叩いても叩いても起きない
「車で5分くらいのとこに
 温泉があるって女将さんが言ってたやんか〜
 早く行こうよ〜」

「んあああ、無理!
 寝かせて…明日帰りに温泉に連れてってあげるから…」

と、目も開かない状態で呟くと
再び夢の世界へのバスへと飛び乗ってしまったハム男


19時からひとりぼっちにされて
あたしゃいったいどうすればいいんだい?

しぶしぶと浴衣に着替え、宿のお風呂へ入る
誰もいなかったのでノビノビはいることができた


部屋へ帰るとまだ寝ている
こんどこそ起きない


一緒に来た意味がないじゃん


とりあえず、冷蔵庫がないので窓の外にくくりつけておいた
ビールを袋から出そうと窓を開ける

うう〜、寒い寒い、と窓を閉めようとして
見てしまった

カランコロン
と小気味いいゲタ(旅館の)の音を鳴らしながら
浴衣を着た男女が両手に買い物袋をさげて歩いている

笑ってる

少し重たそうな彼女から彼氏は荷物を受け取る


やばい


と思った時には泣いていた
(情けなさ120%)


あれが普通だよね?
歩いて10分もかかる所に一人で買い物に行かせないよね?
食事が終わったら散歩するよね?


気がつくとビール3本、缶チューハイ2本
カラになっていた
泣いて泣いて泣いて
電車があったら一人で帰りたいとすら思った

寒くなったので体育座りをしている膝まで
布団をひっぱりあげた
布団に顔を埋めてまた泣く

「あ…がちゃ子、俺、車から財布持ってきたっけ?」

叩いても噛みついても起きなかったハム男がフト目を覚ました

「うん、私の鞄の中に入れてあるよ」

ごく普通の声を出しても
布団につっぷしたままの私はあきらかに不審

ハム男が私の顔を上げさせる
「…なんで泣いてんだよ」
「私達、つきあってないみたいだね
 知らない人どうしみたい。刑務所みたいだ」

アハハハハと笑って
ハム男は私を布団にひきずりこんだ
ぎゅうぎゅうと、寝起きで体温が高いハム男に抱きしめられる




そして私は寝てしまった



夜中、逆に目が冴えたハム男は、
民宿の前に通りかかった屋台のラーメン屋に行き、
民宿の中の自動販売機でビールが売っているのを発見し、

私を起こした

やっと2人の時間だ

ラーメンを半分ずっこして
缶ビールを飲んで


「なんか、旅行に来たみたい」
「…来てるんだっつーの」

だってだって
やっとそんな風に思えたんだもの

近頃あなたは手を抜きすぎる
なんの根拠があって、そんなに安心して
私を大事に扱わなくなったの?

あなたの安心に反比例して
私はどんどん不安になっていくんですけど…


がちゃ子 |偽写bbs

My追加