バカ恋
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■ 産まれました ■



明け方4時半に出産しました。

助産婦さんもびっくりのスピード出産。

しかも超安産。

さすが戌年。恐るべし。

因みに、2,880gの女の子でした。



取り急ぎ、報告まで。



■ おしるし ■



今朝、四時頃ふと目が覚めてトイレに行ったら、

ピンク色の出血。おしるしを発見。

そうこうしているうちに、

子宮がキューっと収縮していく感覚。

どうやら陣痛が始まったみたい。

まだ、ごくごく軽い状態だけど、

此れから本格的に始まるんだろう。




しかし、何でまた、よりによって今日なの?








自然の摂理には逆らえないな。

取敢えず、部屋の中を整理して、

ストックしとく料理の支度をして、

洗濯をして、

あとは、リラックスして出産の事だけ考えよう。




やっと会える。

アタシの赤ちゃん。

どうかどうかどうか、無事に産まれて来て。






■ 決行は今夜 ■



シュウの前妻との密談は二時間近くにも及んだ。

次々と明らかになる真実。

彼女の話に嘘はない気がした。

此処数ヶ月、家の中で起こった奇妙な出来事、

弟から貰った結婚祝いが無くなっていたり、

父から貰ったスーさんへの入学祝が無くなっていたり、

アタシの財布から郵便局のキャッシュカードが無くなっていたり。

彼女も過去に同じような経験をしていた。

やっぱりシュウか・・・・・・・・




其れだけのお金を、シュウは何に使っていたのだろう。

総額でどれだけの借金をしているのだろう。

考えたら恐ろしくなった。

シュウの前妻は言う。

何を聞いても、正直には答えないと思う

アタシもそう思う。

こうなったら、シュウが言い逃れ出来ない状況を作るしかない。








シュウは、

アタシと彼の前妻が結託しているとは夢にも思っていないだろう。

まさに青天の霹靂だろう。

『決行は今夜』

そして、彼女は帰っていった。




一人になったアタシは、いろいろ考えていた。

アタシは一体、シュウに如何して欲しいのか。

アタシの目的は何なのか。

此の先、どうやって生きて行きたいのか。

家族とは何なのか、夫婦とは何なのか。

そして何より、

シュウを愛しているのか、愛していないのか。




そんな思いを巡らせていると、

アタシのケータイに着信があった。

それは、シュウの前妻からの電話だった。




■ 二人の女の危険なカケヒキ ■


突然やってきたシュウの前妻は、

シュウから何も聞かされていなかったようで、

再婚した事も、子供が生まれる事もまるで寝耳に水だった。

暫く呆然として身体を震わせる彼女は、

コルクボードに張ってあるアタシとシュウの写真を見つめていた。




彼女は一体、何をしにきたのか・・・




最近のシュウの言動に不信感を持った彼女は、

市役所へ行き、住所を調べて此処まで辿り着いたと言った。

てっきり一人暮らしだと思っていたのに、

アタシが居て、しかもおなかが大きくて、

何と言っていいか判らないくらい驚いたと言った。




アタシに言わせれば、そんなのは甚だ迷惑な話なのだが、

アタシには、彼女に聞きたい事がたくさんあった。

シュウの事、養育費の事、

そして何より、

総額参百萬を超える借金をシュウに背負わせた真意を。

けれど、彼女の口から聞こえてきたのは、

意外な言葉だった。








実は、頭の隅っこでは、そうじゃないかと思っていた。

だから、彼女の話を聞いてもさほど驚かなかった。

寧ろ、其のほうが話の辻褄が合う。




其れから約二時間近く、

奇妙な関係の女フタリの密談が続いた。





■ 修羅場の予兆 ■



つくづく、自分の人生はドラマチックだなあと思う今日この頃。

ドラマチックと云うよりも、

安いメロドラマ。

此れが 『運命』 ってやつなのか?

ならば、挑んでやろうじゃないか。




真実だと思っていたものが、全くの虚実で、

次から次へと、笑ってしまえるくらいに、

シュウの嘘があばかれていく。

情けない思いと、裏切られたと悔しさ。

またか・・・やっぱり・・・

毎日がほぼ其れの繰り返し。




そして、決定的な出来事は、

昨日突然にやってきた。

うちの庭で、怪しげに家の中を覗く人影。

不審に思ったアタシが、窓を開けて尋ねると、








俺の人生はあの女にめちゃめちゃにされた

と、シュウが言っていた人。

シュウの名前を勝手に語り、

手当たり次第に借金を作りまくっていた人。

其の人が、今、アタシの目の前に居る。

アタシは、動揺している彼女を家の中に招き入れた。




彼女の身体は、驚くくらいに震えていた。




■ うそつきはどろぼうのはじまり ■



若い頃の苦労は買ってでもしなさい

母がよく言ってた。

アタシはこの九年間、其れなりの苦労をしてきた。と、思う。

母一人子一人の暮らしは楽しくもあり、厳しくもあった。

だから、

やっと掴んだ幸せを心から喜んだし、

大切にしたいと願った。

其れなのに、

掴んだと思った幸せは、砂みたいに落ちていった。





今更苦労なんてするとは思ってもみなかった。

しかも、アタシはそんなに若くはない。

幸せの真ん中で生きていくのはまだ許されないのだろうか。





あれから何度も話し合った。

もう隠し事はない

話し合いのたびにシュウはそう言ったのに、

また騙された。嘘つかれた。

こんな事何時まで続くんだろう。

嘘を嘘で固めて、何処まで本当で何処までが嘘なのか判らない。

シュウを心から信じていたあの頃のアタシを返して欲しい。








けど、其れが許される状況ではない事くらい判ってる。

逃げ出すのではなく、

もっとポジティヴに考える努力をしなければ。

生まれてくる子供の為に、スーさんの為に、アタシの為に。

そしてきっと今も、

もがき苦しんでいるであろうシュウの為に。





■ 結婚一ヶ月目の真実 ■



臨月に入りました。

腹の子は無邪気におなかの中でグルグルと動き回ります。

偶にキューっとおなかが張って、

出産が間近に迫っているのを実感します。




此処のところ、シュウに対する疑心暗鬼が増幅していて、

頭の中で推理するには限界で、

直接、彼に問いただしてみたところ、

めまいがするような告白をされました。









最初はアタシを心配させない為の小さな嘘。

けど、

その嘘を突き通すために、次々と嘘を重ねて行ったシュウ。

アタシに言わせれば、

そんなのはただの言い訳に過ぎず、

ひたすら現実から逃げていただけ。

本当のことを言い出す勇気がなかっただけ。

男として、夫として、父親として、とても無責任なだけ。




今ならまだ、引き返せるかもしれない。

この手を離せば、少なくともアタシやスーさんやおなかの子は、

降りかかる火の粉を払えるかもしれない。

そんな気持ちもなくもないのです。

アタシに出来る事は何だろう。

アタシがやらなきゃいけないことは何だろう。




また夜が長くなりそうです。





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