本日の感想文。

2006年11月19日(日) 映画『コープス・ブライド』

以前から見たかった作品で、テレビでやっていたのを録画してみました。
期待していたほどいいとは思いませんでしたが、あとからジーンとくるいい映画だと思います。
映像は、やはり一見の価値があります。
キャラクターの動きや表情もとてもいいし、何よりもダークで美しい画面。
特にブライドのベールやスカートの動きが、本当に恐ろしくも妖しく美しいです。

色って本当に重要ですね。
この作品に登場する生きている人たちは、皆とてもすさんだ感じがします。
金や品格が欲しくて、そのために子供を結婚させようとする親。
親が「愛がなくたって結婚できる」ほら、私たちをごらん……って場面には、ああ、確かに価値観が一緒っていうのも大事な要素だな……と苦笑。
その世界は、グレーとブルーのモノクロに近い色合いです。
ところが! 死者の国は陽気でにぎやかで明るい世界。ビビットな色にあふれています。
一見、どちらが死後の世界? という戸惑い。
確かに欲も何もなく、骨だけになったら、人は明るくなれるのかも?(^ー^;
イタリアで文無しになった時、本当に「これで何も盗まれる心配はないわ」と思ってほっとしましたもの。(笑)
誰が語る事もなく、色彩だけで語っちゃうところがすごいです。

ストーリーは……ネタばれしますが。
ラスト・シーンで、ああ、これは人魚姫だな……と思いました。
同じ美しさを感じお話です。
ただ、全体的にはコメディなんですけれどね。コミカルになり切れていないところもある。
そこが物足りなくて、この作品を今ひとつにしているかな? と思います。
中盤の盛り上がりに欠け、少しテンポが悪い気がします。
主人公がコミカルなことをするには、あまりにも真面目だからかも知れません。
小心者で優柔不断のビクターが純真無垢な花嫁を騙して地上に戻るまではいいのだけれど、ビクトリアというお相手がいるとばれたのち……。
ビクターの本心を知って落ち込む花嫁。ビクターも落ち込ませて落ち込む。両方落ち込んで、しっとりした場面が続く。
どたばたするには、二人ともいい人過ぎるんです。
三角関係のもつれで戦うこともなく、花嫁がヤキモチをやいて騒ぐわけではなく。コメディーにありがちな、もつれがないんですよね。

でも、最終的にはこの二人の優しい気持ちが、ラストを引き立てたと思います。
欠点があるけれどいい人たちだから、救われるんですよね……。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』の2作目は、私個人として今ひとつだったのですが、なぜって、コミカルにするために人間性がぶっ飛んでいるからなんですよね。
友情を分かち合ったはずの二人が決闘してみたり、きれいに身を引いたはずの男が絡んできたり……と、どたばたさせるには、利害がぶつかりあわないとなりません。でも、やりすぎると、そんな事で殺しあおうとするのかよ? ってことになる。
花嫁もビクトリアも戦いあい奪い合ったのではないし、ビクターも花嫁を騙そうとしたわけではない。自分の中の心の痛みを、人にも置き換える事ができる優しさがあるから、悩み、悲しみ、落ち込み、嘆くわけで……。

花嫁を殺した犯人は、すぐに見当がつくわけですが、どのようなラストになるのかは、全くわかりませんでした。
死者たちがこの世に蘇ったあと、あちらこちらで懐かしい再会があり、微笑ましいシーンがありました。コミカルでありながら、ハートフル。ダークでありながら、温かい。
物足りなさを感じながらも、やはり、この映画は見ていてほっとして優しいなぁ……と感じます。

そして、ラストですけれど……。
いやぁ、泣きました。ものすごーく泣けました。
なぜってね……。花嫁がとても等身大で愛らしくて……。そして、きれいで……。
彼女は、ただ、幸せな結婚がしたかった。愛する人と巡り会いたかった。純粋で無垢だから、悪い男に騙されて殺されちゃっただけで。
元々悪い女ではなくて、いい人過ぎたんです。だから、どたばた意地悪することもないし、改心する必要もない。自分の真実の思いに従えば、ああいう結果になったのです。

――相手の男が死ねば、この愛は永遠になる。
でも、花嫁は結局、ビクターに死を選ばせなかった。そして、自らが昇天していく。
美しい花嫁は、この世に戻った時に美しい月に感激し、森を飛び舞う蝶と戯れていました。
今度は、自らがたくさんの蝶となって、月へと飛んで行く……。
そのシーンの美しいこと。
人魚姫が船から身を投げ出し、泡となるシーンと重なりました。

もうひとつ。
ジョニー・デップはいい役者です。でも、やはり声優としては今ひとつだと思います。
やはり声優のほうがいいなぁ……と思うのは、日本もアメリカも一緒でした。
俳優は、やはり声と姿で演技するほうが、ずっと魅力が増します。声だけだと……うーん。


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