夢見る汗牛充棟
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「ぽかぽか」
お風呂に入って
ぽかぽかになる
凍えた心といっしょに
あったかくなるように
身体を洗って
すべすべになる
ざらついた想いごと
きれいになるように
曇りガラスに ぽたぽた滴
外では風の踊る夜
お湯に顔を半分沈めて
涙しても誰にも内緒
さっぱりしたら
閉じた扉を開いて
たった一人の部屋を出よう
湯冷めしないように 気をつけて
「たいせつなひとへ」
元気でいてください
一年をつつがなく
生き抜くのは
容易なことではない
日が昇って沈むまでの
試練の数々が
心と身体を叩いても
まだどこかに
行ってしまわないで
つらいけど
たぶんきっと大変だけど
できることなら
笑ったり 冗談を言えるように
力をうしなわないように
せめて愚痴をこぼすのでも
かまわないから
怒るのも泣くのも
本当は見たくないけれど
なにもできないで
横たわっているよりいいもの
『とほほ〜な話』
私は小さな会社の事務員です。名前はないしょ。 今日は、数年前にあったかなちい出来事についてお話します。
商品売上も工事代金も一月分を決まった日で締めて、んで 請求しますよね。 んで、相手も翌月の決まった日にお金をくれる。 でも、入金が遅れたりなんかすると、一応確認の電話するわけです。まぁ、軽く問い合わせ。 「金払え〜。すぐ払え〜。たちどころに払え〜。」 などと目くじら立てて凄んだりはしません。 消費者金融じゃないもんね。 「ご入金の件で確認させていただきたいのですが…」 とかなんとか言って経理の人に問い合わせるわけ。
ある日、やっぱし軽い気持ちで入金が遅れた会社に問い合わせを しました。
「××と申します。いつもお世話になっております。あの…」 本題に入ろうとした私の一瞬の隙を突いての先制攻撃でした。 「専務が今朝方、社印や手形、小切手帳一切合切持って逃げちゃったんです…」 泣きそうな声でした。
「は?」
電話の向こうは、そこのまだ若い社長さんでした。途方に暮れた声で、 「どうしたらいいんでしょ〜ね〜」 「………」 どうしたらいいのかわからないのは私でした。 そんなこと聞かれてもかなり困ります。 途方に暮れた社長さんと途方に暮れた私は、受話器越しに深く重く沈黙しました。
しーーーーん。
その会社はもちろんもうありません。
でも、売掛金残としてまだ償却されずに残っているので、 見るたびにその日のこと思い出してしまうのです。 社長さんのことより、逃げちゃった専務さんのこと。 手形はその辺の怪しい金融業者で割っちゃえばいいけれど、 小切手はばれる前に換金できたのかも知れないけれど…。 いくばくかのお金手に入れたその専務さんが無くしちゃったものは、 きっともっと高価なものなんじゃないだろうか。 奥さんや、子供とか。社会的な生活。 そう考えると、なんだかとっても、とほほだなぁと思うのです。
小さな家でも、ご飯が食べられて、みんなで笑ったりできて、仲良しで。 そういうほうが私には素敵に思えるんだけど。 人間は多様だから、その価値観も多様なんだといってしまえばそれまでなんだけど。
でも、新聞やニュースで損したなぁ…と思うニュースはいくらでもあって、 それは第三者だからそう思えるのかもしれない。 時々ふと魔が差したり、計算ミスをしでかしたり、そういうのが不意に人間を 戻れない結末に突き落とすんだとしたらすごく怖いこと。
私の目の前にだって、そんな落とし穴が口を開けて待っているのかもしれないんですから。
くわばら、くわばら。
「影の上で…」
ごめんなさい
すみません
申し訳ないです
あさはかで
かるい言葉
口にすると
うわすべり
どこにいったんだろ
みつからない へんね
もうおそいと
誰かがあざわらう
おろかものの
影の上で
タップダンス
今日の舞台は
わたし
たたたつたたった
たたったたったた
夕日にながい
ひとりぽっちの
影法師
がんばっても
きのうまではとどかない
おろかもののうえで
タップダンス おどる
たたたつたたった
たたったたったた
「鼓動」
心臓の音 心地よい音
幸せな音 生きている音
ふれあえて
君が あたたかな あかし
理由なく いとおしい
生き物のぬくもり
絶え間ない 鼓動
湧き上がる安らぎ
目を閉じて
闇の中でも 感じられる
変わらない リズム
永遠に 刻んで 続けて
かなうなら ともにね
やわらかな うたにたゆたい
しあわせな 夢をみたい
「唯一のうた」
スケッチブックに絵を描いている
広い草原と広い空
色を塗ります 色鉛筆
空はラベンダーの色が好き
そしたら君は言いました
「そんな空は間違ってる」
手に握らされたコンポーズブルー
本を一冊手渡され
読んでみなよというのです
ページをめくるしばしの時間
読み終わった私の顔を見て
それから君は言いました
「この話に泣かないなんて!」
取り返された感動の本
「くりごと」
私が「好き」と言った
君は信じてくれた?
君が「好きだ」をくれた
私は不安になった
なんで?
もう一度確かめても
またすぐ不安になる
壊れてるの?
なんかおかしい?
「あそび」
感情の裸体を 幾重にも
色とりどりの絹布でくるみ
弄び もはや原形は留めない
珠をつけ 裳裾をつけ
僅かばかりの肌すらも曝さぬよう
これはなに
自ら首を傾げるまでに
変化を遂げるも
言葉のいと面白きこと
言葉は著すたび心から
果てしなく乖離してゆき
心は葛藤を吐き出したのだと
錯覚を起こし満足を覚え
遊びや遊び音になり流れになり
リズムになりうたえば
忘却しその鉛はもはや井戸の底に
たゆたうも
言葉のいと面白きこと
「透明」
高い昼間の空がリンと鳴ります
風の子供が戯れに 硝子の鈴ひとつ
天の高みに置いたのです
(風の子供が手にとりて)
ふるりふられた 鈴の音清ら
切ない青透明のかなたへ届けと
祈りにも似たその音は
ひたすらに飛翔を続けるので
追いかけるこころもいつしか
ほんのり寂しいいろに染まるのです
澄んだ夜空がシャラと鳴ります
天の楽師が帽子に受けた銀のお金が
縁からあふれてこぼれたのです
(天の楽師はいいました)
あれらは星になりたかったのだね
星になりたい銀のお金は
無限に見える闇藍色の果てまでも
懸命に転がり昇るので
捕らえようと伸ばした手はいつしか
ほんのり哀しいいろに染まるのです
「raru-ru」
銀杏通りの一つ裏路
呼び名もない暗い小路
しばらく行くと
影に沈んだ古びた店
看板はなく
木の鎧戸は固く閉じ
呼び鈴も音を忘れた頑なな扉
もしもあなたが見出したなら
ゆっくり押してみるといい
重たい扉は軋んで開く
そこは密かな人形工房
壊れた椅子に腰掛けて
顔も上げない男が一人
澄んだ瞳に夢の色合い
傍らにひっそり寄り添って
人形が見つめるその姿
彼が長い年月と
褪せない思い出
思慕と祈りを吹き込んで
創り上げた人形は
名前をraru-ruというのです
彼女は昔小鳥のように
身を翻して歌っていた
その口ずさむ旋律を
忘れぬようにraru-ruと
娘のような恋人のような
妻のような魂のような面差しをした
raru-ruの眼差し深き空の蒼
永遠の菫のような微笑みを
口元にたたえ
頬にたゆたうその優しさ
けれど聞こえるその歌は
過ぎ去りし時の影法師
耳に届かぬ心の歌を
聞くたび男は涙をし
目元の皺を深くする
男とraru-ruその場所で
時の川底沈んで暮らす
流れる水面に太陽が
幾度ぬくもり注ごうとも
輝く水面は流れゆき
水底までは届かない
男の傍らで
ついまでともに微笑むかたちは
魂だけが足りなかった
魂だけが足りなかった
だが男もまた
なぜなら彼女は行ってしまった
何故なら彼女は行ってしまった
「ホットミルク」
寒くて 凍えそうだから
神さまにお願いしたの
一杯のあたたかなミルクを
そうしたらきっともう寒くないでしょう
すると神さまは 天の子供をつかわして
すぐに優しく くださったわ
ほわほわ 湯気の立つカップ
少しためらい 手に取った
両手で抱え ゆっくりすすると
凍えた身体は熱くなり
こころもまた ほかほかになった
甘い ミルク
甘い ホットミルク
きっと少し蜂蜜が入っているの?
なんでか こんなに簡単に幸せ
差し出した 両手の上におりてきた
甘い幸せ ホットミルク
座ってるだけで こんないい思い
神さま ありがとう
わかっているわよ
もったいないから
少しずつ飲まなくちゃ
カップはそれでも空になる
空っぽ だけど恐くないの
お腹もこころも今はいっぱい
(またじきに お腹もこころもすくのです)
(膝を抱えて待ってますおかわりのミルク)
一杯で充分だったでしょう?
ううん 足りない まだ足りないの
もう一杯だけほしいの
もう一杯だけこの手にちょうだい
それできっとお終いにするから
(膝を抱えて待ってます)
(てのひら差し出し天眺め)
(凍えた土に座り込み)
(これをどうぞを待っている)
(髪に霜がおりようが)
(肌が夜風で凍ろうが)
きっとちょうだい?ホットミルク
それできっと お終いだから
来てよ神さま もう一度だけ
ホットミルクを与えてほしいの
『弱き虫けらどもの哀歌』
その日、ミュフォーン市はどうしょうもない位暑かった。 海からの風は、やみくもに強く吹き荒ぶが、濡れたように湿り気を帯びていて、身体にまとわりつくようで何の足しにもなりはしない。 夜になっても依然として、暑さは収まらず人々を苛つかせた。 そんな、ある日のことである。
既に、陽がとっぷりと暮れてしまってから男は、勤務先のミュフォーン造船所を後にした。男は40代半ばといったところか。残業を終えてようやく帰途についたところのようだ。首筋などとんとん叩いて抜かりなく疲れている己をアピールしつつとっくに人通りの絶えた東大通りを中心街に向かって歩き出す。 何故歩くのか? 聞くな!!馬車代浮かして飲む。これは、親父の涙ぐましい知恵だ。 カツーン。カツーン。カツーン。カツーン。 1人で歩く夜の石畳というやつは、足音をめったやたらと響かせる。そして、不安な気持ちを呼び起こすものだ。 男は、決して臆病な性質ではなかったが、なんとなく急かされるように歩調を速めた。
カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。
カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。カツ。……ヒタ。
「………?」
己のものではない足音が混ざった。 (おお!こんな辺鄙な場所で馬鹿みたいに繁華街めざして馬鹿みたいにてくてく歩いているのは、私だけではなかった!…同志よ!) 一瞬、男はひたすらに嬉しかった。 が、しかし。 カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。 カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。カツ。ヒタ。 カツカツ。ヒタヒタ。カツカツ。ヒタヒタ。カツカツ。ヒタヒタ。 カツカツカツ。ヒタヒタヒタ。……………(10分経過)
これは、恐い。とっても、恐い。
どこの誰だか知らないけれど、そいつが人気の絶えた夜の大通り、己のすぐ真後ろ(だと思う)をずーーーっと、延々と、無言で歩いてくるのである。 刃物をもった、強盗だったらどうしよう。人には言えない嗜好をもった危険な人だったらどうしよう。いまにも、私はどうにかされてしまったりするんじゃないのか?恐ろしい…。 男は、振り返りたくて仕方がなかったが、本当の通り魔だったらどうしていいかわからないし、ただの通行人だったら、それに脅えた自分が悔しすぎる。
ちくしょう!けしからんっ!!誰だ!私の後ろに誰がいるんだ!!
カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ
男は耐え切れずに走り出した。
カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ
男は40数年の人生の中で、これほど必死に走った事はなかっただろう。
ヒタヒタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
足音がいきなり速度を増した。やはり、足音の主が男を追いかけているのは疑いがないようだった。
ヒタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ……。
「だ、誰だっ!」 男は、立ち止まって怒鳴った。 「あんたは一体どういう理由があって私の後をつけてくる!?」 くるり。 相手を見極めようと振り返った男の前には、やはり1人の男が立っていた。 「…………」 夏だというのに黒いマントをはためかせ、その下には黄色い長袖ハイネックのシャツ。黒いレザーのぴったりしたパンツ、同じく黒のロングブーツ。仕上げに被った黒い覆面は、両目と鼻と口の三箇所にOの字に穴があいている。 なんとも、危険な香りのする日常的な姿ではないか。 「……………」 「………………」 男と、覆面男の視線がかち合った。ふういっ。 男は、視線をそらした。(それはそうだろう)
「さあてと……すっかり、遅くなっちゃったなぁ…」 無理矢理なまでにさりげなく男は、その場を立ち去ろうとする。 わしっ。その肩を覆面男が掴んだ。 「ひっ」 「待てい」 硬直してしまう男。 「お前は、ミュフォーン造船所の者だな。隠しても無駄だ。お前が正門から出てくるところを俺は見ていた」 「だからどうだというんだ!?」 覆面男はふむ、と頷いた。 「やはり、そうか。ならば、お前個人に恨みはないが、俺はミュフォーン造船所の連中全てが憎い!幹が憎けりゃ葉っぱも憎い!よって、お前を成敗する。覚悟せいっ!!」 「ま、ままままま待てっ!何のことだかさっぱりわからん!何かの間違いだ。そうだろう!?」 覆面男に胸倉を掴み上げられながら男が叫ぶ。覆面の奥の目が、狂おしくギラリと光ったようだった。
「暑い…。またこの季節がやって来た。…この暑さがな、俺に命ずるんだ。お前をしばき倒せとなぁ…」 「そ、そんなぁ…。無茶苦茶だ」 「無茶苦茶か。ふ。確かに。……ならば、聞く。お前は、夏の賞与は貰ったか?」 「か、金がほしいのか?今回は2割ほどカットされたからあまり、余裕はないんだが…」 「2割カットだ?…ふふふふ…ふふ」 覆面男は、地を這うような声で笑った。 「この、けーき悪くて、来年までミュフォーン造船所はもつのか?とかなんとか囁かれている中でも、やはり…もらうもんはきっちり貰っていやがったか」 「ししししししょ賞与は生活給の一部だぁ!当然我々には貰う権利があるんだぁ!!」
ぴく。
覆面男の肩が震えた。 「やはりお前は成敗だ。もう変わらん」 覆面男はそう告げた。低い低い声が覆面男の本気を象徴していた。 「ミュフォーン造船所。諸悪の根源。この俺の憤りは火山より烈しく、恨みは底無し沼よりも深い!その身をもって思い知るがいい。行くぞっ!!」 「わ、私はしがない雇われ管理職だぁ!私には何の権限もないんだぁ」
「やかましいわっ!」
たあっ。 覆面男が跳躍する。 大きく何かを振りかぶりそして、男に向かって振り下ろした。 「天誅!!」 「ひぃぃぃぃぃっ」
ぺしっ。
いやに軽い音が男の頭頂部で炸裂した。覆面男がマントの下から取り出したハエタタキが、寸分の狂いもなく男の頭の真っ芯をとらえたのだ。ちなみに、竹でできている。
「ぐぅわあぁぁぁぁぁぁっ!!」
頭を抱えて断末魔の呻きをあげつつ男は、石畳に転がった。 「ふ」 その様子を覆面男は、冷ややかに見下ろした。 「…あるところに小さな下請け業者さんがおりました。下請け業者さんは仕事をし、そして働いた分の金を貰いに行きました。そんな下請けさんに元請さんはいいました。『今回棚上げね』……下請けさんは思いました。そんなに大変だったのか…けれど、けれど…風の噂で下請けさんは聞きました。あの日の午前に賞与を払い、午後に万歳していたことを…そして…くっ」 覆面男は、こみ上げてくる烈しいものを押さえ込むかのように歯軋りをした。 「その日を境に、下請けさんちの辞書からは、賞与という単語が消滅したのです。 …そして、一年の月日が流れました。……どうだ?楽しいフェアリーテイルだろ?心が洗われるようだなぁ。くっくくくく…」
赤い月は、中空に浮かび、石畳の上の異様な男たちを仄かに照らしだしていた。 もはや笑い声だか、泣き声だか判然としないそれは、夏のねっとりとした闇の中へ散り散りになってゆくのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おわってやがる(笑)
「………」
こんなにも 無限に近いまでに
表現する 言葉は存在し
目に力をこめ 瞳に色をのせ
伝えたいと 足掻くのに
なぜ?
この口は このように重く
のどは 乾上がるのか
頭を渦巻く 思いのひと欠片も
転がり落ちて くれないのか
なぜ?
音にしなければ つたわらない
誤解しないでと 心が絶叫しても
目の前の 君はがっかりしたまま
かなしげに 「大丈夫」という
なぜ?
沈黙は 何ひとつとして
伝えては くれないまま
途方にくれて 言葉をなくす
わたしだって かなり泣きたい
なぜ?
「アイ」
アイをつたえる ことばを紡ぐ
もどかしい もどかしい 重たい舌
まわらない頭と 臆病なこころ
アイって なんでしょう 知りませんが
伝えたいのです 破綻したうた
アイをつたえる アイは叫ぶ
アイに満ちた 世界の中で
ときおり 血をしたたらす たましい
その血しぶきを はねとばす如く
うたうのです 耳ざわりなアイ
「夢」
うろこ雲の 大陸を渡れたなら
そこには 風の王国があるのだろう
限りない白さと ひろがりの上で
だれかが きっと人懐かしげに
緑と茶色の大地を 見下ろして
笑っている
きっと 雲の広がる風の王国も
うつくしい 郷だろう
愛着も 苦悩も あらゆるものが
融解し洗われた故郷で 透明な存在は
風の民となって もはや無限に
行けるのだから
色なくうつくしい かたちのない国で
ふいに出会い久闊を叙して さざめく人の
声を聞いた そんな…
「アンテナ」
あたまのてっぺんには
ちいさなアンテナが立っていて
いつも小さなシグナルを捉えようとしている
雑多な信号が多いから きみの呼びかけを
取り落とさないよう たましいを
研ぎ澄ますのだ
いつも 細胞のどこか一部分でも
きみの 気分とリンクしていたら
今 元気かなとか 幸せかなとか
私のことのように わかるなら
いつも心配しなくても
いいのに
「今日見たいろ」
道の両脇には コスモスがゆれていました
注意をこらして みてみれば道端の
花たちはすっかり 装いを変えています
人間だけが間抜けにも とりのこされ
時間に追われる隙間をぬって 気がつけば
締め切った窓ガラスの 向こうに遥か
高くなった空を 見つけるのでしょうか
もうすっかり そんな季節みたいです
『ココロノカケラ』 なんだか、今日はとてもくたびれているのだ。
力が体からどろとろと流れ出てゆくような気分。
昨夜は、恋人なのか、友人なのかはっきりしない奴が 遊びに来ていた。家で、ご飯を食べて、日付が変わるまで一緒だった。 そして、私達はお互いが、お互いにとってどういう存在なのか、という事で 口論をやらかした。 きっかけは、ほんの些細なことだった筈だけど。 そして、そいつは電車のない時間にそのまま帰って行った。 公衆電話から電話がきた。私は、受話器を取った。会話は一言二言。 言葉といえば、間違いだらけだった。
ガチャン。
耳障りな受話器を叩きつける音だけが耳に残った。
翌朝まで、自己嫌悪が押し寄せてきて私は、くさっていた。
寝不足も加わって、ただでさえやる気が出ないまま、それでもちゃんと 出かけた午前中のバイトをどうにか終了し、私はこの先どうしようかと思案していた。 仕事場は、駅ビルの最上階に入っている中華料理店。 だから、そのまま駅の出入り口の柱の陰によっかかって、悩んでいるのだ。
疲れているけれど、部屋に帰るのは嫌だった。 どうせ、一人暮らしだし。 しかも、都会サイズ、6畳のワンルームときている。 誰もいないところに帰って、固い床に寝転んでみても、ますます 暗い気分に陥って、もはや再起不能になるのは目に見えている。 意味もなくそこいらへんをぶらぶらしていたほうがましってものだ。 どっちにしても、一人で過ごすのなら喧騒の中が好きだ。 雑踏は、嫌いじゃなくて、自分に無関心なたくさんの人間の存在は 心を落ち着かせてくれる。 あ、でも、満員電車は嫌い。…わがままをいうと、パーソナルスペースを きちんと確保できた上で、無意味に雑多な人々が集っている場所が好きなのだ。
ほとんど心の赴くままに、迷子になりそうな勢いで私は歩いた。 もしかしたら、迷子になりたかったのかもしれない。 歩きながら都会は緑が多いと感じる。 でも、それは本当に多いというわけじゃなくて、多分田舎の木々はごく自然に 生えていて、わたしは緑よなぞと叫ばないのだ。 ここいらの木々は、わずかな空間を見つけては最大限に生やされている。 安らぎが欲しいように。乾ききるのを恐れるように。 灰色と濃緑のコントラストがくっきりと浮かび上がるから、たくさんあるように 感じるだけじゃないだろうか。それって、何か騙されている。
そんな事をとりとめもなく考えながら、ふと気づくと公園に辿り着いていた。 名前は知らないけれど、街の公園らしく隙なく整えられている。 風景のなかで多少のだらしなさは、全て訪れた人間がもたらしたものだ。 平日だけれど、人は多い。 平日の昼間に暇な人々は、忙しく働いている人々と同じくらいの数いるのだろうし。 (大体、私もそうなのだ) そして、人の数に負けないくらい犬もいる。 一般的な公園の風景だ。
いいかげんにくたびれたので、そこらへんの芝生に入って座り込む。 草の上に座るのは、かなり久しぶりの事だと気がついた。 他人のことなど誰もが無頓着なのをいい事に寝転がる。 前方に広がる色は薄灰青色でいかにも都会らしい空だ。 晴れだからそれなりに気分は良かった。
人のざわめき、笑い声、犬の鳴き声、風の音、遠くのクラクション、救急車の音…。 そんな音が身体を通り抜けていき、そのうちに少し瞼が重たくなった。
「ねぇ、ねぇ」
声を掛けられて、私は目を覚ました。
「不用心じゃない?こんなところで、一人で居眠りしてちゃ、駄目だよ」
「え?…あ、…ええ」
目を開けてみれば辺りは少し薄暗くなっている。驚いて私は身体を起こした。
「ま、わかるけど。今日は、うん。いい天気だ。うん。ああ、俺怪しくないよ?俺はテツ。よろしく」
テツは一気にそう言うと、私の傍らにとまって器用に片目を瞑って見せた。なんだか、夢の続きみたいだった。
「…よろしく。私、あきら」
名乗られた以上、なんとなく私も名乗った。まるで警戒心はわいてこない。 私は一体何を平然と会話しているんだろう?まだ寝ぼけているのだとしか思えない。 私の困惑など知らぬ気にテツは小首を傾げて訊いた。
「で、あきら、帰らないの?」
「え、ううん。帰るよ、帰る。ちょっと、休むつもりで何でか寝ちゃっただけだし…。あんたこそ帰んないの?じき夜でしょう?」
「くふん。俺、やる事あって来てるの。これから」
テツはきらっと目を光らせて言った。
「ここで?何を?」
私は聞き返した。テツは得意そうにくふふふと笑い声を上げた。
「それは、だねぇ」
「それは?」
「そだ、あきら、立ってみて」
何の関係があるんだ、と私は思った。「…何で?」
「そしたら、説明が、簡単」
「…?……?」
首を傾げながらも好奇心から、私は立ち上がった。 無意識に、パンパンと身体についていた枯草を手で払い落とす。 テツはそんな私をじっと凝視している。
コロン…。
枯草と一緒に何かが払い落とされた。 ガラス玉か石ころのようなもの。もちろん私は気にしない。けれど、
「あった!…これ、これ」
テツは嬉しそうに弾んだ声をあげると、その何かを咥えた。
「ほうら、ね」
手を差し出すと、テツは手のひらの上に落っことしてくれた。それは小さな薄紫の玉だった。少し歪んだ形をしていて、でもきれいな宝石みたいだ。
「俺、これ、探してんの」
「ええと、…ってことは、あんたの捜し物を私は、お尻の下に敷いて居眠りしちゃっていた訳なのね?」
いたたまれない気分でテツを見ると、テツは、ちがうちがうと目を丸くして首を横に振った。
「こういうのが、探すといっぱい落ちてるの。俺、それを集めるの。ちなみに、これが誰のかっていうなら、これは、あきらの」
「私の?」
さっぱり、わからない。「私、そんなの持ってなかったけど…。」
「でも、そうなの。あきらが知らないだけ」
「…そもそも、何?それ」
「ココロノカケラ」
「…?」
「これのこと、ココロノカケラって俺は呼んでる。えとね、あんま難しいことわかんないよ?これは、サキシロのじいさんの受け売り。ひとがいっぱい暮らしているでしょ。いろんな気持ちで、泣いたり、怒ったり、辛かったり、憎かったりする。あと、幸せ、嬉しさ、愛しさ、慈しみ…数え切れないたくさんの思いが毎日毎日生まれてるの。昨日も、明日も、明後日もね。どんどん増えていく。で、それをみんな蓄えて、抱えながら暮らしてる。でも、それって重たくなるばっかりだから、時々無意識にこぼれたり、捨てられたりするの。それが、こういうカタチになるんだって。きれいでしょ?…じいさんは、オモイダマって呼んでたな…」
「…想い玉…?」
「うん、そう。特にこういう公園とかは、なんかほっとする場所だから、気を抜いて無意識のうちにいらないオモイを捨て易いのだって。」
「…いらない想い?」
「うん、ずっとひきずってると疲れるとか、そういう理由で、外に出すの」
私は、あらためて、手のひらの上の紫の玉を(ココロノカケラというらしいけど)しげしげと観察した。近くで見ると薄紫だけじゃなく。少しマーブル模様で別の色も混じって複雑に光っている。
「これが、想い、ねぇ…」
「ね、ね。あきらは、今日、どんな気分だったの?」
「気分って…。」
思い返してみて、そういえば私は落ち込んでいたんだっけ。 (変な出来事に遭遇したせいなのか、そんな気分は既に吹き飛んでいたけど)
「うーん、自己嫌悪とか、やり場のない怒りとか、あとちょっといじけてた。」
「じゃあ、それがきっとそうだね」「これが?自己嫌悪の塊?きれいすぎると思うけど」
「だって、ココロから、なんの飾りつけもしないで、出てくるものだから、きれいなの当たり前だよ。怒りでも、たとえ憎しみでも、一つとして同じ色じゃなくて、それなりのきれいさがあるの。だから、俺、そういうの集めるの好き」
「それ、本当だったらちょっと、悪趣味なコレクションだと思う。」
「そう?でも、こんな、きれいなのが、土にまみれて、踏まれて、力づくで砕かれて散るほうが、かなしいと思うしなぁ。」
テツは考え込みながら言った。
「だから、ついつい拾ってまわっちゃうの。集めて、大事にしまっておくの。…そうするとね、ある日、ふわって空気に溶けて消えるんだよ。そうするとね、その『ココロノカケラ』はちゃんとどこかに帰ったんだと思うの。その瞬間に、俺とかちょっとだけ気分がいいの」
「そっか」
私は、手のひらの玉をテツに差し出した。
「はい」
「あきらが持っててもいいんだよ」
「う〜ん。いいや。いらない。…捨てたってことだけ覚えておくから、テツが預かっていてよ」
「うん」
テツが笑って請合った。私は、満足して伸びをした。
「もう、帰る?」
「うん。もう帰る」
公園の灯が砂利の道を照らしている。その中に無数の小さな星が光っているのがわかる。
多分その数だけ、いろんな人々の様々な想いってやつが、こぼれ落ちたんだろう。 そんな童話みたいなお話を、今日は信じてみてもいいやと思った。
「今日も、大漁だといいね。テツ。じゃあね。」
「ありがと。あきらもね。ばいばい。」
私たちは手を振って、別れた。私は振り返らなかった。もちろん、テツは瞳を輝かせて楽しそうに皆が捨てていった宝物を拾い集めているんだろう。
こうして、私の変てこな一日は幕を閉じた。
そんなこんなで、私は毎日いつもどおり生活している。時々、公園に行ってみることもあったけど、テツに会えることはなかった。
あれは特別の日だったのだ。
その内、バイトをやめたので、その公園に行く事も今はない。不思議な感動も時間とともに曖昧になるけれど、一つだけ習慣がついた。
立ち上がる時や、誰かが身体についた埃を払う時、そこからそっとこぼれ落ちて光るココロノカケラがないかどうかと探してしまう。
「砂粒」
何気なく空を見た
嗅いでみた空は 仄かな匂いがした
過去にも未来にも眺めた空だ
青が眼球をまさぐる
振り返った懐かしさも はるか先の不安も
容易く暴き立てる音楽のようだ
空には白い雲がはいていた
刷毛で一筋こすったようで
かすれた線の向こう側にも青い空は
続いていた
その広がりを思ったら嬉しい気がした
けれどそこに行き着けないことを
思い出して 直に哀しくなった
ちっぽけな魂のひとつなぞ きっと
輝きもしない砂粒なのに
砂粒のこころはなんでか痛い
しくしく痛むから べそをかいた
最近は 涙腺の蝶番が壊れたのか
やたらと泣きたがりな 私がいる
「ヌクモリノウタ」
たくさんたくさんのなかから
とりたててどうということもない
ちっぽけなわたしを
みてくれるひと
あたたかなてをくれるひと
まるできせきみたいにおもえる
うんがいいとかわるいとか
いきながらうじうじくやむけれど
わすれがちなわたしが
くうきではないと
おしえてくれるひとたちが
やわらかでつよいかたちをくれる
不確かで危うげで儚くて脆い現世
移ろわざるものは存在せず
懸命に握りしめても終には
失われる確定の未来を描くもの
約束された一秒後を誰も持たない
それだけが世界が平らかな証だし
しせんがまじりあったきっかけと
ことばをかわしたぐうぜんが
だからうれしいようで
ゆえにななめなわたしも
ながいあいだみていたいとねがうし
てをのばしてふれたいとおもったりする
「きんきょう」
いつかほしがおちてきて
ちじょうのおおかたがしに絶え
こうりょうとしてしまったとしても
そのときはわたしも為すすべもなく
いっしょに無にきするのだから
それでいいようなきがします
そこに立つひとはいつかかくじつに
いなくなると誰でもしっています
それがきょうか明日かとおもうことが
とてもこわかったりします
わたしのしらないところで前触れもなく
ふっとほのほのきえるごとくついの日は
来たりますが
そのときわたしは笑いごえさえあげています
その報せをみみにしてはじめて
呆ぜんとかなしみはおとずれ
そのあたたかい手をうしない
ふれてもよい肩をうしなって
声をかわすことももはやないとき
なにもかんじなかったおのれをせめたり
はしゃいでいたのをくやんだりして
けれどもそれは既におそいのです
さきにわたしがいなくなる形も
あり得ることなのだし
ふかくていな何かに
日々こころをおびえさせることは
いのちのむだづかいなのだと
おもわないでもないですが
さいきんの私はそういうことを
怖がっているみたいです
「移ろいと忘却」
いつも雨だと思っていても
いつのまにか雨でない日が増えて
いつか空は曖昧を失って
鮮やかな夏の色になる
いつも自転車で通る道端の紫陽花は
いつか かさりと色褪せている
忙しい時間をじたばたする私は
それを目の端に捉えながら
通りすがりに少しだけ胸が痛い
曇りがちだと少し憂鬱だった日々
ひとの心は他愛もないし
それは 梅雨だから仕方のないこと
けれど物静かな雨にさようならして
これからしばらくぎらぎらした夏なのだし
そんな鮮やかさに炙られて
薄暗い灰色はちいさくほそくなってゆくばかり
その日
わたしは 空を見ただけで
浮き立つような気持ちになった
ごめんなさい
あたしは 大きな画用紙いっぱいに
紫陽花が描きたいと思った
2000年01月09日(日) |
ちいさなうた いろいろ |
小さなうた
★君しらず 放つ礫が われを研ぎ 日々すまされる やいば鋭し
★降る雨の 野山に落つる 滴さえ いつかは海へも 行けましものを
★ただありて なにものこらぬ 日々のなか 拾いて記す はざまの繰言
★おもしろし 泥中のもの 天のもの 二人を分かつ 線をひくもの
★そのツラを 拝みたくなし 下の身の かしこみて見る 板敷きの目
★咲き初めてかすかににおう枝先の桜が教うめぐるひととし
★まだしらぬ 明日を今日にし 今日をまた 昨日に変えて 生きてゆく我
★飢え乾き 食らえど満てぬ わが身より 清らかなりし 花を食う鬼
★かみわすれし こころによどむ虚ろさを 知るほどに欲しき 海山や空
★つかれても 慰むうたのひとつなく くらきを抱え ひとり寝る夜
★ひとならば もっとかなしい おにならば もっとやさしい わたしなんなの
★手をのべて 確かめてみても ゆめのようで かなしくさむい 君の手触り
★ひとだけど おもわずしらず あがかずに いきておわれる われならいいのに
★たわむれに てんがたおりし 一花を 忍びしつちの なげきこそしれ
★ちらばこそ美しきものといわずともよいからきみがありさえすれば
★なきひととしりつつなおもなきことをおりにふれてはおもいしるわれ
「わし」
1. 素朴な朝のひかりのなか わしは祈った 「わしら 存在するだけ 罪深いですか けれど わしら 生きたいのです 死にたくはないです ほしよ わしら ゆるしてくれますか」
衣を着替え 食卓で味噌汁すするとき わしは もう迷わない わしは ほしをいじめにでかけてゆく
月の無い夜の床で わしは祈った 「わしら わるいこと いっぱいしました けれど わしら まだほしいです しあわせになりたいです ほしよ わしら ゆるしてください」
闇の中で てをあわせるわしは 気のよく 無垢なもののふりをして ちいさく よわく おののいていた
そして よくあさまでは きよらかなる わし
2. 朝 起きる 夜 眠 る そうして わしらは また次の日 目覚めます 世界が 住み良くないと 嘆きながら 一生 夢の中にいられたらと 言葉を紡ぎながら わしらは 朝のひかりに おしげもなく まぶたの裏にはりついた ゆめを くずかごへと ほうりこみ いきおいまかせに 布団を 蹴飛ばしてゆく めんどくせえ とつぶやきながら 奇妙に いそいそと 服を着 身体をととのえ 奇妙に 嬉しそうな顔をして 階段を下り 食卓へむかいます
3. わしは ひとの幸せを ねたみます ひとひとの ばいの幸せをと いのります わしは おのれの生命を あいします ひとひとの生命を あいするよりも それはつよいです わしは てまえかってなわしなので わしは ほしに いのります
(当然 わしが しあわせであるという前提のもとに)
せかいじゅうのひとひとがしあわせでありますように…と
[87] 日々 投稿者:もけ 投稿日:2004/03/08(月) 21:17:32 [返信]
そらをしらないのに そらのあおをかなしみ
うみをしらないのに うみのふかさをしたい
ひとをしらないのに ひとのあおさによう
おもいをしらないのに おもいのいずみにしずみ
たましいをしらないのに たましいのいろあいをあわせ
ことばをしり うたをしらず ことばをさり うたをねがう ■
[88] よいのあと 2004/04/08(木) 11:05:11
かぜはらい さくらはちり はらはらとちり さざめきおこり わらいうたえり そのうたによい さかずきにくみ さけにうつろう おもひでともに はなびらをのむ かさねがさねに さくやのあかり うたげのおわり きのうへおくり うつつへかえり おしみてさらん すいきょうのゆめ
■
[89] ゆるむ 2004/04/11(日) 23:34:52
偶々月が頭上にある
したたり落ちそうなあやふや
そんなことで保てるのか
髪をなぶる散漫な荒くれが
遠くからやってきて
生ぬるい砂埃が戸を叩く
あれはうすぼけて今にも壊れそうだ
目を瞑り耳は塞ぎそして知る
冷えた土がぬるみゆるみ
みなこぞってぬかるみを
這いずりはじめる気配
融解の季節
静謐に固まっていたよろずが
なしくずしに息をはじめて
混じりあい収拾を忘れて
蠢く おと
■
[90] ほとほと 2004/04/15(木) 22:29:00
うすうすぐもり やわやわにじみ つきつきあかり ぼやぼやかすみ しみじみうれし うつうつのとい さらさらわすれ さやさやとふけ ふるふるあめと やうやうたどる くさぐさのおと うとうとききて ほろほろかさね ゆらゆらあそぶ うまうましさけ
■
[92] 疵 2004/04/22(木) 23:06:36
なにが足りなくて どれが多すぎて 持て余しているのだろ 世界は乾いていて 雨をずっとまっていると わたしは言った 世界は雨が多すぎて ゆるゆる腐ってゆくと あなたは言った 嬉しいと笑うほどもなく 哀しいと嘆くほどもない 道をただよこぎるだけで 誰がどうして血を流す
手にしたチョークで 何が描けるのかと あなたは言った 未来など片手で消せる 路上の絵だけれど 画家とメアリーは 素敵な旅をしたのに あらゆるすべては 幻だと思っても どんな風に歩いたひとの 後姿も頼りなくて どうしたらいいのか わからないふりをして わたしの刃は誰を刺した
世界を持て余して 虚しく愛を祈る 足りないものが うつくしいものを生み 欠けたものが かなしいものを儚む ゆるゆる腐る前に 天も地も確かであれと 祈る両足と 言祝ぐことばだけ 空しくないといいと 叫びながらひとつまた どこに屍の山を築いた
[76] 非現実的な日没 2003/12/21(日) 16:48:27
猫と突風の混じりけ 砂埃と敷石と鈍い海と 天の鼓動 透明がすぎている ガラスの青灰色を ギザギザに切る黒い山 ぐるり見まわせば 人形劇の円形舞台 名残の色ともしびめぐる 一枚の童画 鈍色外套に帽子の男が 立てた鞄の横で 小さな笛を吹くと ぴょるるるると 船着場に流れる調べを 林立するヨットのポールが 銀色に照りかえす その先端に猫の瞳のように ひときわに輝く星 天使のような夜の訪れ ■
[77] 一息 2003/12/27(土) 21:25:14
生活と生活の破れ目から あおい空を思い出すように 忙しなく息を切らせたあげく ふと 立ち止まったとき いつも眼の前に並べられながら 見ようともしないものたちが かようにうつくしいのだと 気づいてしまうことを すこしだけ惜しく思う 空気のようなものたちが いかに愛しいかを知るときも ■
[79] 平穏な喉の痛み 2004/01/03(土) 01:30:02
吼えて 吼えて 吼えて 声が空に食べられて 苦笑をする やすらかさ
怒り 怒り 怒り がらんどうに失せるばかり 声枯れした子の しずけさ ■
[80] 2004/01/06(火) 21:05:47
メールはいい 便箋よりもペンよりも エンピツよりも ずっといい 言葉を選ぶのに これほど心揺れたことや 二枚目に染んだ筆圧や あらわれなかった言葉 余韻も心地もきみには 絶対伝わらないでいいから メールがいい さびしいけれど それでいい ■
[81] おかしなの 2004/01/08(木) 23:55:22
へこんでいた昨夜は 石蹴る自分の爪先と 凸凹に陰影の帰りの道 でも今日は空向いて まんまるの月見て歩く
■ [82] いくさのきみ 2004/01/24(土) 20:57:07
ごおうごおうと 君が吼えた
砂塵にけぶる視界で 木々が大きくしならせ 甲高い雄たけびを上げ おしよせる軍勢
軍旗のように高々と 枯葉を振りたてて
■ はしる 2004/01/28(水) 23:39:07
ひゅひゅと かぜをきって ほっぺたつめた じゃぶぶと かぜがなぶる 耳たぶいたた はなのきいろ 抹茶色の小鳥 はなの紅 きいろい猫のあくび 視界を彩るいろいろ ながれ りんりんと かぜにはしる こころあったか
■
[84] 無題 2004/02/08(日) 18:32:26
あい ある あす 或いは あかり 命も意味も遺棄し息する怒りが居て うたは移ろう空ろ現も嘘も洞に渦まく 永遠に描きえぬ詠じえぬX得難きエエテル求め 鬼は檻に居り 朧な音を織り 懊悩は重たき澱のごと
■ [85] 砂になるまで 2004/02/22(日) 16:13:4
のぞみ路傍の石になれ 辛抱強く地べたに在れ 灰色でいい灰色でいい 誰の土踏まずも 傷つけちゃいけない たくさんの雨粒に洗われ まろくまろい石になれ 砂になるまで 砂になるまで
■
無題 2004/03/08(月) 21:13:38
さびしがるのは
それはことばたち
美しいものに触れたいと
井戸の奥そこで溜る原形質や
生まれたいと願う繊細な泡たち
優しく連ねてみようと
うつくしく重ねてみようと
思い出したように苛む
試行錯誤のなかで
彼らは何一つ
不満をもらさないけれど
はなから手に持たないものを
あらわそうとする虚偽を
赦してくれながら
裏面で静かにさびしがる
おしころしたすすり泣きが
ときにはわたしの胸を
すこうし痛ませる
[70] いわいことば 2003/11/18(火) 21:27:24
大丈夫?元気出してと 伝えるのは難しくて 頑張れというのは 尖ってちくちく痛いから この小箱のなかに いわいの祝詞があればいいのに なんだかずっと探しているのに
カモマイル ラベンダー 温いミルクにブランデーの滴 赤ワインにひとすくいの蜂蜜 背中を撫ぜる優しい手や 耳に伝わる内緒の吐息は 言葉よりよほどやさしい魔法で
それでもなお たとい月ほど遠くとも ひと飛び届けばとびきり幸せ そんな祝詞があればいいのに
■
星をいただくこと 2003/11/22(土) 17:48:08
苦しみながら言葉を削る 詩人さんは くらい空に果てしなく星を 生んでいます あらゆる星の火のようです
その飛散する火花によって わたしの洞も刻々灯り 色とりどりの空にかわります
■
[71] 夜明けに徒然 2003/11/22(土) 17:15:52
あそびせんとやうまれけむ たわぶれせんとやうまれけむ あそぶこどものこえきけば わがみさえこそゆるがるれ ほとけはつねにいませども うつつならぬぞあはれなる ひとのおとせぬあかつきに ほのかにゆめにみえたまふ
聞きおぼえた好きなうた かつてのあまたのひとの かなしみより来るいとしさを 今日もしり明日もしれども 塚山まろくちとせに増せども 幾多の骨埋むくに立ち なお毅然として首をあげ 今もしきりとうたうひと 今もしきりとうたうわれ ふりしぼる力の源流は 決して枯れることはない
夜明けにつれづれ 2003/11/22(土) 17:18:45
浮き上がる瞼の裏側に 僅かにかあはれとどめる 明けのひととき
ひとのさすらいうしなう ことわりかなしも闇のうち 漸く訪れた微笑みやら 仄かな夢のいろもはや 暁ほどに鮮やかでなし
うつつのほのほに炙られつつも 好んで歩むがわれならば ほとけはあとにあればよいかも ふと立ち止まる宵のほどには まぶたに触れるほどの遠さで
■
今がいちばんいい 2003/11/26(水) 22:54:40
雨の次の日には そらにとろけそうな あおい円錐を 白がせっせと浮かべる ようやく冬になるのかな 銀杏の葉もすこしだけ 明るくなったみたいだし 海っぱたの道はますます 風を強めていくかな どんな冬でも走っていくのは おんなじだけど またしばしのおつきあい ■
明日は晴れらしい 2003/12/01(月) 20:38:58
12月の男のお披露目は 夕方5時のまっくろ外套 街路樹に瞬く人造の星 道路に溢れる流星の群 眩しいから眩しいから ほんものが見たいのにな
■
[74] かえりみち 2003/12/04(木) 23:15:31
くらいみち くらいまち 電燈のひかり溜まる砂利の道 かげがわたしをくるくる廻る 静かな夜のかえりみち どこからただよういいにおい レースの向うにうれしい明り たったひとつのおうちを目指し わたしとかげがくるくる廻る まだまだ遠いかえりみち
悔 2003/04/27(日) 22:21:24
たった一通でなく 手紙を書けばよかった 届かないなどと 怖れることはなかった 何のための言葉なのか
■
夢 2003/05/02(金) 21:06:16
境界を越えて あおい丘の家を訪ね とぼとぼと歩いていく 屋根も壁も庭石も砂利も 植木も下草も苔も 郵便受けも あおい硝子で造られて どこもかしこも閉じている 何度も扉を叩いて呼ぶ声は すべてあおにのまれてゆく 帰ろうかと哀しく思うころ いつも主は扉を開く 「溺れそうなあおで呼び鈴が 聞こえない」 一つきりの椅子を勧め 主は床に腰下ろす 「またあおさがましましたね」 私は世間話のように 口にする
■
恋歌 2003/05/04(日) 19:38:42
潰れた喉で君を呼びます どうせ君には届かぬ言葉 空気が漏れる細い笛の音 寂しい寂しい調べを奏で 私の喉は壊れた笛で 君が塞ぐを待つのです
潰れた喉で君を呼びます 架空の狭間に封じる言葉 穴から漏れるのぞみといき 偽り空の調べを奏で 私の喉は壊れた笛で 指先絡まる夢など見ない
■
あめのひ 2003/08/03(日) 19:22:26
あめのひ とほとほ おとなるせかい つちぬれ ひとかぜ すべる はきもの
かわらをといをつたってゆくよ
どろはね とぽとぽ ほはばにあわせ かさはね ふるみず つらなるは みち
青空さがしにほたほたあるく
■
羨望 2003/08/09(土) 22:02:14
あなたは 眼にせいれいをすませている 足には地をすませ もくもくと手は土を掻く 何より素朴な生活の 漏れ出してくる音の調べ 羨む気持ちがわかるだろうか あなたは 捻り出さない 詩というものを
私は呻吟する すぐにうろたえ破綻する 舗装道路上の構築物を 尤も それは曰く詩のようだ
あなたは いきる うたと いのりと その 厳しさと優しさと 眼にせいれいをすませている
■
八月の道端 2003/08/14(木) 15:05:04
日陰の朝顔 からまるはいあがる 竹ざおと蝉とまろい花 ぽかりとした穴の奥のあい
粘こい空気の中を 捩れながら泳ぐ 時間に追われる蝉を ねこが咥える
あおみどり 雨のあとゆだりながら もえる下草は ゆらゆらふるえ
匂いに溺れ そらのガラスを醒めた眼で 両腕ごしにながめやり おかしな陽気だと呟いて ひとは黙々と草を刈る ■
[61] 晴れ 2003/08/20(水) 16:46:02
蜂蜜とろとろ 流れるひかり ぐるぐるまわった バターになって ながなが伸びてる ねこさんの 丸いおめめも きんいろの日
■
[62] 高い空 2003/09/11(木) 20:30:53
切れ切れの雲と空のあお 背丈ほどのすすきがゆれる うつくしい昼と夜 風がきてはさらっていく この今日の熱ほど 名残惜しいものはないけれど ■
無題 2003/09/25(木) 20:26:37
ひとふで えがいてはぬり 日々とかさねれば そらはえもいわれぬ 風合いににじみ しきりに想像をかきたてる
ひとは無垢なひろがりに 心象風景を写しながら おののく身体を じっと見つめている
一喜一憂を 笑うのかもしれず 一喜一憂を 愛しむのかもしれず そらは気まぐれな 占いのように 今日もここにある
■
[64] 町の中で 2003/09/29
歩道橋を歩く大人が 空を飛んでいるようだった 儚いものをねだる子供は 大急ぎで階段を上ったけれど 行き交う車を見下ろしながら アスファルトにくっついている靴底が 空はとても遠いと囁いた
■
わたしたち 2003/10/04(土)
たぶん つぶつぶは 晴れが嬉しいみたい どこがだろ? あおいそらが 気持ちいいみたい どれがだろ? ちょっとした 水気の多い少ないに うきうきと わたしを歌わせるの おまえたち どして? ■
無題 2003/10/04(土)
そらが透きとおり 目に映る山はあおくあおい うつろうようにうつろい この道を歩く鼻をくすぐる 今日の金木犀の甘さ むせるような濃緑は 肩越しのおぼろ 遠ざかる妙 ■
無題 2003/11/14(金) 01:17:51
混沌のひとかたまりになれないわたしは
時にはもどかしいけれど
ちゃんと形を損なわないで
受け取れるといいなと思うのです
■
[69] 思へば 2003/11/15(土) 19:31:18
曇天の深さかなしむ あなたを濡らす 滴かなしむ
見えぬ無尽の塵を抱きて ついにしたたる その音すらも 雨だと笑ふ
夕べの声のその小さきを
[35] 夜 2003/02/27(木) 00:35:15
疲れたから苛々するのか とにかくチョコレートを食おう 叫びたい口に濃厚な甘味を 流し込み沈黙しよう
ああ 静かな夜だ
■ 省 2003/03/02(日) 20:53:30
雲の向こうの 空は晴れで良かろうが 雲の向こうの 人が晴れやかだと思う 根拠は何もなかった
■ 夜の食事 2003/03/21(金) 00:48:56
血の匂いもすすり泣きも 海の途中で霧散する今日 戦争を眺めながら食卓に て家族に塩を手渡します 空が繋がっていても地が 繋がっていてもその人の 死の重さを受け取れない のです死臭を嗅がぬ私は 何も学ばないまま知らず 人殺しを続けました地球 の回転の上積み重なる骸 が知人になるまでずっと
■ うすら寒いうた 2003/03/21(金) 19:57:17
あたしを憎まないでおくれよ あたしゃ歯車や螺子に過ぎないのさ 敵だと看做さないでおくれよ あの爆弾はあたしの望みじゃないんだ 殺したくなんかなかったんだよ そんなつもりじゃなかったんだよ あんたが死んだのは遺憾なことだった 壊れたあんたの家族を援助するから 壊れたあんたの街を再建するから 壊れたあんたの碑を建てるから どうかあたしを憎まないでおくれよ ■
空 2003/03/30(日) 16:33:05
空にはなにもない 空しい穴があるばかり 人は空に祈りを唱え 人は空に魂を手放す 空にはなにもない 空しい穴があるばかり 人は空に鏡を描き 人は空を神々で満たす 空にはなにもない 空しい穴があるばかり
■
穴 2003/04/01(火) 21:13:03
しまりのない世界に穴を掘り からだを潜らせ安らぐいのち 四方を硬質の岩石に塞がれ 閉塞の中で深く息するひと かように 固い岩盤に遮られる夢を見て 穴を掘り続ける酔狂なうつわを 他に知らない ■
檻 投稿者:もけ@2003/04/02(水) 19:55:21
遮られないと息をつけぬ 人は鳥になれない 檻から見る魅惑の外のうつくしさ 人は鳥になれない
■
あらた 2003/04/06(日) 00:09:52
裸だった木の枝の先端に あらたな葉が揺れている ひそやかに頼りなく揺れ 決して鮮やかではないし 緑ですらないが ふっとそこに在ることで 盲目の私を嘲笑う
■
誰 2003/04/06(日) 23:17:44
あなたは誰だろう 言葉を綴り わたしの何処からか 地図にもない泉から 透明な水を汲む人よ
■ 夜 2003/04/08(火) 04:03:37
瞼をしたたる夢の屑 目をこらせば 闇に漂う無数の細かい点が 集束しては散り 路上の砂絵描きが描くような かたちならぬ絵をあらわしている 静寂の天井から かすかな鈴の音が降る これが天のうたならば ひとのおとせぬあかつきに 枕辺にたつらしきあなたは さまざまの枕辺でいま 仄かに微笑みながら わたくしの眠りをも 待ってくれているのに ちがいない
■
風 2003/04/09(水) 23:45:58
風が吹く中を歩いていきました 空はあおくあおく あおの何処かから透明な風はきました 世の全ての雑音は轟くうなりに敗北し 耳はただ一つの音にひたされ 貫かれながら空を見上げれば うすべに色の首級をかかげ 誇らかに眼前を横切るものたちは まるでいのちのようでした
■
ふたつ 2003/04/11(金) 21:15:03
世の中には 純血という言葉がある 純潔という言葉がある なぜふたつは同じ音なのか わたしはそれがわからなかったが ふたつの言葉がとても嫌いだ
■ 欺く 2003/04/17(木) 22:09:14
言葉は常に私を欺いている 真摯な顔をして 私は常に言葉を欺いている 貞淑な顔をして お互いが実は憎しみ合っていた 結合者たちのように 確信に満ちた裏切りをしている
■
日々色々 2003/04/23(水) 22:15:11
褪せた朱の屋根の連なり たれ下がる電線に丁子の雀 近くて遠い墨染の山なみ 富士が頂く白練のひかり 灰色の岸壁で佇む鰹船 船底にからまる藍色の海 錆止めの赤茶けたペンキ 色彩無く明滅する鉄塔の群れ 大型クレーンが軋む鉄錆の音 並ぶ工場の気だるい煤と灰 すりガラス越しの溶接の光 風まかせの白煙と雲が漂うまちで 砂色の舗装道路に腹ばいて わたしを見ていた黒い猫 ■ 部屋 2003/04/26(土) 04:17:17
部屋の真ん中らへん 六方に壁がありその一面の上で この人は胡坐をかいている 尻には板の冷たい感触が伝わる 頭上の蛍光灯が観葉植物で 淡い影をこさえている おだやかな作りものの空気が 肺を行き来するが 外は雨風が激しく鳴っている 濡れるのを厭うように この人は内側でじっとしている 絶え間ない雨粒が 太鼓の皮を叩くように 天井や窓や壁をくまなく叩いている 壁どもは雄々しく立ち向かっている 雨と風に怖じているからか この人は部屋の中で 耳をすましてじっと動かない 外の様子をうかがいうかがい 雨が止み風がやむまで 胡坐をかいたまま動かない
戯れうた数えうた 2002/12/20(金) 17:37:52
ひとつ伸び ふたつ伸び みっつめにあくび よっぴいて君の便りを待ち いつまでも床の上 浅はかな女 むだだと知っているよ どこかで ななめで頑なになってるだけ やくそくなんて本当はあてにしない この場所でずっと待ってるわたしを とおくから笑ってるの わたしも ■
夜 2002/12/22(日) 03:34:04
冷気を纏う月にうたう鳥 青白く繕う星にたゆたう魚 漆黒の虚空に踊る幻想のものども 戯れ深々とした夜に何を騙ろうか
■ しるべ 2002/12/23(月) 17:19:25
ささいな夜は流れている ほしが無言で天をわたり ちいさな家を朝へと導く たゆまず僕を朝へと導く
■ 夜 2002/12/27(金) 12:23:39
四角い部屋には蝋燭が置かれ 小さなほのほが頼り無く揺らめく 器にはった水が溢れそうに 震えるのを見つめながら 両手を組み合わせ天に真摯な眼差しを向け 艶やかな唇で神への愛を騙ろうか 夜 2002/12/28(土) 23:11:11
冷気を纏う月にうたう鳥 青白く繕う星にたゆたう魚 漆黒の虚空に踊る幻想のものども 安息の小箱と君を緑の小舟に流す 境界にて混沌を抱き揺れながら 静寂を掻き分け水に似た空に浮かぶ 戯れ深々とした夜に何を騙ろうか 穢れ赤き淵底に澱む凝りを指で弾き 暮れ蒼陰に清らに遊ぶものやもののけ
■
[25] 今日 2003/01/07(火) 01:55:14
今日は山の頂に映える 薄橙の夕日がきれいでした それはあったかい色なので 雪の下の草にも届きそうでした
そのうちあたたかくなって そのうちあかるくなって そのうち花が目覚めるように 今日は夕日が咲いていました
■ 少しづつ 2003/01/24(金) 23:21:46
蝋梅がきれいに咲いている小路 つくりものめいた黄色に 和みながら行き過ぎれば 抹茶色の小鳥が隣家の垣から ちょちょと飛び出してくる
堅い芽をつけた枝が囁く声 もうじきだよ もうじきだよ 応えて風が笑う まだだよ まだだよ
■ 雨降り 2003/01/27(月) 20:21:18
雨ふり合羽と自転車 夢中で走りひとりきり ぶつかる水滴と自転車 ただこぐ私だけリアル だだ広い世界をすべる
■
対処療法 2003/01/30(木) 21:04:46
温度や風や光や音に一喜一憂しながら 何かとぶつかって概ね暗い気分だとしても こんな寒い日はたまらなく星が美しいし 風の強い日は木々の歌が止まないでいるし お稲荷さんはやっぱりさざめいているし かみついてもへこたれてもくさっても 痛み止めのような些細な光を見つけては 苦笑いして「また明日ね」と挨拶する ちいさな 呪い
■ 目盛 2003/02/22(土) 13:42:43
透明の物差しに普遍の 目盛りを刻まなくては 手渡された 小刀を右手に私は思案する ここに一筋の尺度を刻み入れ 疑いなく変わらなく これを信じ続けられるような 目盛りの位置は何処だろう
■ あれこれ 2003/02/23(日) 20:42:48
空飛ぶ鳥が日を映す光 同じ時 舗道の路肩に 凍りついた冷たい雀 誰かが弾くおはじきが一枚 陣地から取り除けられる
いつもの朝
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声無き 2003/02/26(水) 01:17:34
草や花や木や苔 黙してひとをうつ ひとだけの魂を揺する 叫び多く語るゆえに 沈黙にうつくしい意味を聞く ひとの耳 ■
夢見る木 2003/02/27(木) 00:30:01
あらゆるわたしは 土や水や風によって 幾千万と色を変じ 掌の温もりによって また色を変える
もしもひとつの木ならば 囁く風に感じては 枝を解き ちいさな葉や花びらを 世界に降らせてゆこう
ひとつの葉がひとの 掌におりる さいわいの夢を見て 木であるならば歌おう
2000年01月01日(土) |
ちいさなうた(まとめ) |
2000年1月1日〜:ちょこまかした詩のまとめ
2002/12/06(金)
ぬくぬくとした 冬が少し奇妙でも 山茶花は垣に灯る 移ろいは仄かに確かに ひとをとりまいている
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領国 2002/12/07(土) 17:26:04
あなたはわたしの王でない わたしはいま点を結び囲いを作った あなたを遠くへとり除けば わたしは深く息をすることができる ■
のぞみ 2002/12/08(日) 14:51:47
ちいさな草花がここいらに咲いている筈だ 今は闇が深くてよく見えないが 微かな明かりを待ち望んで揺れていることだろう 風が運ぶ微かな気配も逃さぬようたましいを澄ませ 小さな花を踏み潰してしまわないように
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雨あがり 2002/12/09(月) 20:24:30
雲がきれた隙間から鋭い月が覗く夜 濡れた黒い舗道を走りながら 空を仰ぎ大気を吸う吸う吸う 冴えた冷気は背骨を強くし 凛とたましいを張り飛ばす
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ちいさい 2002/12/10(火) 20:08:35
とても好きな景色というものがあります ほんの些細なひとひとの日常ですが 出会うと嬉しくなるものです いつまでも変わらぬものであるような気がします 永遠に変わらぬものであるように祈ります 祈りながらどこかで信じていないような気がします だから祈りを含めてそれらはきれいなのかもしれないけれど ふと見えなくなるその日は寂しいのです
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ま・いいか 2002/12/11(水) 17:36:33
路面が落ち葉と花弁で埋まる朝 箒で掃き集めると悪戯者の風の子が 塵取りの中を攫ってはやしたててゆく こんちくしょうと呟く まあ俺でも見て安らげよと 言いたそうな山茶花から 新たな花弁がはらはらと降る 苦笑いして力が抜けた
■ ないものねだり 2002/12/12(木) 20:05:22
煙突から煙が流れてゆく 煙は雲になりたそうに 空と平行して流れてゆく
雲を横切って飛び去る鳥 屋根瓦の上で温もる雀 鳥になりたそうに見つめるわたし
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帰り道 2002/12/13(金) 20:53:06
天と地は黒く狭間に点々灯る輝き 闇のなにを恐れて人は灯を欲しがる 人は人を恐れて闇を掃っている
■ 旅立つ帆船1 2002/12/14(土) 20:55:30
船は透きとおる水晶細工に似て 揺れるたびに澄んだ音をたてた 天に楽の音が満ちる夜 宙の深淵に祈りは吸い込まれる 旅立つ帆船2 2002/12/15(日) 17:15:48
僕が見た帆船は トトキの丘をふわりと発った 船の縁で貴女が遠くを見ている 見送る僕には切符はない 旅立つ帆船 3 2002/12/16(月) 19:05:57
僕が見た帆船は 白々として天にあった 漆黒の清かな夜の天に滑り ゆるゆると翔け往き星になった
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ひそか 2002/12/17(火) 17:13:05
砂で符牒のような絵をここに描こう 君のためだけに描いたから 風よ去り際には吹き払うがいい
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きん 2002/12/18(水) 22:17:01
うつくしいきもちを 留めておけません やさしくやわらかなまま 密封できないのです なぜわたしのこころだけが 金ではないのでしょう?創り手よ かれらにはひとしく 変わらぬこころを込められたのに
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一滴 2002/12/19(木) 19:21:00
ことのはの隠した うつくしいたましいは あふれてこぼれた水の欠片 滴は大きな海に辿り着き わたしを見つけてくれるだろう
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