冒険記録日誌
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2014年02月26日(水) 探偵 神宮寺三郎 原宿・表参道殺人事件(関島りょう子/勁文社)

 勁文社のアドベンチャーヒーローブックス第43作目。
 ゲームブックブームの当時によくみかけたレーベルでも、このくらい後期の作品ですと、遊んだことがない方が多いのではないでしょうか。
 “神宮寺三郎”という言葉だけでわかる人はわかると思いますが、人気TVゲームシリーズを原作としている作品です。
 知らない人に説明すると、探偵 神宮寺三郎シリーズは、私立探偵が事件を解決するアドベンチャーゲームでして、主人公の神宮寺は寡黙かつ冷静沈着、強面だが不器用なだけで本当はやさしい人物というハードボイルドを絵に描いたような人物です。あと神宮寺三郎といえばまず煙草をくゆらせるシーンが思い浮かぶほどのヘビースモーカーぶりが特徴です。

 ゲームブック版ですが、TVゲームの移植作品としては珍しく完全オリジナルストーリー。つまり原作にない事件に神宮寺達がかかわるわけです。
 これは神宮寺三郎というキャラに魅力があるからこそ、成立するのでしょうね。仮に「ポートピア連続殺人事件」をオリジナルストーリーでゲームブックにしたら、別物の作品になってしまうでしょうし。
 あとぶっちゃけると、TVゲーム第1作目の「新宿中央公園殺人事件」は殺人のトリックがアホっぽいので、より小説に近いゲームブックへそのまま移植するのは難しかったのではないだろーか。

 さて、ゲームブックはどんなストーリーかというと、主人公と親交の深い熊野警部から、殺人事件を解決するよう依頼されるというもの。被害者はアイドルの卵だった女子高校生、宇田川飛鳥(うだがわあすか)で、駐車場で遺体が発見されています。(熊野警部の「そう後藤久美子、ゴクミばりの美少女だよ」というセリフが時代を感じさせます)
 唯一の身内の姉夫婦や、飛鳥の友人関係などを調査していく神宮寺。果たして犯人は?という内容です。

 ゲームシステム面では2つのルールがあります。一つはアルファベットによるフラグチェック。聞き込みで得た情報などをQとかHなどの記号で管理します。最初はメモを取らずに遊んでいましたが、だんだん覚えきれなくなり結局最初からやり直す羽目に。
 もう一つは能力値管理で、これは体力値の一種類のみ。10点スタートで、相手に殴られるなどで怪我をすると1点減ります。0点で死亡というわけではなく、一晩休めば10点に戻るので、7〜10点の状態にしかなりません。
 普段はあまり存在感のない数値ですが、逃げる容疑者を追いかける!といったようなここぞという時に、「サイコロを1個ふり、体力値を足して、何ポイント以上なら」といった判定に使われます。このゲームは滅多にゲームオーバーにはなりませんが、ここで失敗してカーチェイス中に事故を起こして入院してしまいお役御免、なんて結末もあるので油断は禁物です。

 このゲームはひととおりの聞き込みや調査をしていけば、読者が考えなくても主人公たる神宮寺三郎が事件を整理して進行してくれます。謎解きができなくても捜査が行き詰ることはなく、コマンド総当たりすればクリアできるアドベンチャーゲームと大差ない難易度です。もっとも油断していると、不意に熊野警部あたりから「君は誰が犯人と検討をつけているんだ?」とか尋ねられ、犯人を当てる選択肢が出たりしてあせりますが。
 ミステリーとして見ると、序盤は、飛鳥は喫茶店で一人悲しそうにしていたとか、入ってくる情報が事件とつながらず、事件の全体像がなかなか見えてこなかったのですが、真相がわかってみると、複雑なトリックや驚くようなどんでん返しの展開もなく、この手の作品にしては地味目な事件でした。神宮寺三郎の世界観には人間ドラマ重視のシナリオの方が似合うだろうし、現実味もあって私はいいと思います。そんなに簡単に殺されるかな?と感じた部分もありましたが、TVの2時間サスペンスドラマでよくみかける被害者たちの見事な死にっぷり(突き飛ばされて転んだり、灰皿や石で頭を殴られただけで即死)を考えれば一種の形式美と思った方がいいのかも。
 全体的にオーソドックスな推理物ゲームブックと言えますが、神宮寺三郎ならではの特徴として「煙草を吸う」という選択肢がやたら出てくるのが良いです。適度に情報が揃ったり、落ち着いた方がいいときに選ぶと、煙草に火をつけ煙を吐きながら、主人公が考えをまとめてくれます。喧嘩騒ぎの真っ最中とか、人が倒れた時みたいなあり得ないタイミングにも「煙草を吸う」という選択肢がでるのはご愛嬌。もちろん選ぶとロクなことはありません。

 本書の欠点は挿絵のイラストですね。単純に絵がしょぼくてやる気が削がれます。ハードボイルド風なのはいいのですが、ラフなタッチというか絵がぼやけてて、漫画のネーム状態みたい。
 現在では本書は、ゲームブックコレクターと神宮寺三郎ファン双方が欲しがるレア作品と化しているらしいですが、もしもイラストレーターが、原作のキャラクターデザインを描いていた寺田克也さんだったりしたら、さらに価値があがっていたことでしょう。悪くない作品だけに残念なところです。


山口プリン |HomePage

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