冒険記録日誌
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2014年01月19日(日) もしもソーサリーがライトノベルだったら その7

 仲間をあとにしてあなたは一人で洞窟の奥へと進んだ。
 洞窟の中は案外と乾燥していて、地面にこそやや湿り気が感じられたものの、ブーツの汚れさえ考えなければ快適に歩くことができた。
 今のところ怪しいものは何も見当たらない。音にも注意をはらうが、何も聞こえない。ただ真っ暗な空間にあなたの松明が放つ光が浮いて見えるだけだ。
 穴は奥深くまで続いており、途中で何度か枝分かれしていたが、特に判断材料がなかったので広い穴を選んで進んでいく。
 しばらく歩き続けると、どこまでこの洞窟が延びているのかわからないことに不安を覚え始めてきた。選ばなかった枝道に村長の娘が捕らわれているのかもしれないと考えると、このまま進んでいいのか心配になってくる。
 また新たな分岐点に差し掛かったところで、唐突にあることに気がついて立ち止まる。あまり使ったことはないが、道に迷ったとき、答えを教えてくれる呪文があったのではないか?休憩をかねて適当な大きさの岩に座り込み、松明を立てかけると、記憶の中を必死にさぐり始めた。試みるのはいいが、魔法というのは危険なもので、仮に唱えた呪文が間違ったものであったら体力を著しく消耗するのだ。記憶に自信がない魔法の扱いは慎重にならざるえない。

「あなたは誰?」
 いきなりの声にあなたは飛び上がった。見ると、洞窟の少し先にまだ幼げな少女が立ってこちらを不安げに見つめている。気づかなかったとは迂闊としかいいようがない。
 それにしても予想外だ。誘拐された少女が縛られもせずに自ら歩いてやってくるとは。あなたは驚きながらも優しく声をかけた。
 少女は笑顔になってあなたに飛びついてきた。
 女の子特有の甘ったるい香りがわずかに感じられ、思わずマジマジと少女を見てしまう。粗末な服を着ているし、まだ子どもといっても差し支えない気もしたが、こうして近くでみるとあの酋長とは似ても似つかないほど可愛らしいのだ。
 あの村の住民はオークの血をいくらかひいているように見えたが、この子の顔だちはむしろエルフの血を引いているかと思うほど整っていた。第一村人の住民の髪は暗い色あいの者が多かったのに、この子の髪の毛は明るく太陽のように輝いて見える。登場の仕方といい何か辻褄があっていないように思えた。
 だが、今はそんなことを気にしても仕方がない。少女の手を引いて引き返そうとするが、少女は首をふった。
「駄目なの。まだ入口には戻れない。生贄がいなくなったら鬼神は怒って村を襲うかもしれない。お兄ちゃんは強いんでしょ?いっしょに奥に来て」
 この洞窟に詳しいのかと少女に問う。
「ううん。鬼神が住む洞窟だから、ここには誰もこない。でも言い伝えを聞いたことがあるから、正しい道はわかると思うわ。ここから先は岩がごろごろして明かりがなくちゃ進めないし、奥に行っても私一人じゃどうにもならなくて…。困っていたの」
 年の割りにはしっかりした言動にあなたはますます妙な気分になった。それにしても次はどうすればいいのか。鬼神はあなたが戦えるような相手なのだろうか。
 悩んでいると、少女はあなたの松明を拾い上げて奥へと進もうとした。
「こっち。言い伝えではこっちの道を選んでいけば安全なはずよ」
 危険だから勝手に動かないように言い含め、あなたは先頭にたった。
 松明の明かりはいつまでも持たないし時間が惜しい。考えるのをやめ、奥に向って歩き始める。
 少女は不思議なほど落ち着いているように見えたが、さすがに内心では今まで一人で怖かったのかもしれない。あなたの腕を、小さな両手でしっかりとつかんで寄り添うようについてきた。


続く


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