冒険記録日誌
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2014年01月12日(日) もしもソーサリーがライトノベルだったら その5

 シムタンティの山々ももうすぐ終わる。半オークの住む、ここスヴィン族の村で一晩過ごした後、翌日にはカーレの街にたどり着けるだろう。
 できることならこの村で、危険とされるカーレの街の情報を収集しておきたかったが、村人たちは広場でなにやら寄り合って話しをしている。彼らの輪に入りこむことも出来なくはないが、なにやら深刻そうな表情を見ると首を突っ込むのが躊躇われた。
 結局、今日はおとなしく宿で体を休めようと判断し、濃厚な獣肉のスープと黒パンの食事をとると、今夜をすごす部屋をとる。アリアンナと相部屋だが、ベットは2つあるし、かまわないだろう。実際、あなたが部屋に入ったときは、アリアンナはとっくにベットにもぐりこんで毛布を頭からすっぽりかぶって寝ていた。
 そのまま夜になった。

「起きてよ。なにか様子がおかしい」
 ジャンがあなたに呼びかけてきた。その声を聞くまでもなく、扉の外で数人の人の気配がするを感じてあなたは目を覚ましていた。自分の使命が、ここから遥か遠いマンパン砦まで届いているとは考えにくいから、刺客の類ではないだろう。だとすれば物取りか?
 剣を握り締め、脱出口の確認に窓側へ近づくと、窓越しに遠くからこちらを覗いている男たちと目が合った。なんてこった。
 あなたは急いでいまだ毛布に包まっているアリアンナの背中をゆすって起こす。
 アリアンナはむくりと体を起こすと、目が据わったようなまだ寝ぼけているような半端な目つきであなたを睨み、続いて目線を下に向けた。
 なんとあなたの手は薄い毛布ごしにアリアンナの胸に触っていたではないか。アリアンナは細身の体つきなのでうっかり気がつかなかった。こんな状況ではあったが、あなたは慌てて反射的に謝った。
「い、いや。すまん、背中と間違えたんだ…」
 ピシッ!
 心底気のせいだろうが、空気が凍った音が聞こえてきた。あなたは致命的なミスを犯したのだ。ジャンは悲鳴をあげると部屋の隅に逃げ込んだ。
 アリアンナが顔を下に向けて、「なかなか正直だな」とボソリとつぶやいた。そしてあなたの手を軽く払うと立ち上がり、鉄鋼製の小さな輪がつながったものをゆっくり各指にはめ始める。拳闘士は堅い革ひもを手に巻きつけて戦うというが、それに近いものに見える。
「拳術熟達の腕輪だ。あのくそいまいましいミニマイトのせいで魔法が使えないからな」
「アリアンナ。こんな話をしている暇はないんだ。早く逃げないと危険だ!」
 あなたが説明しようとしつつも半ばに逃げるように扉へ足を向けた瞬間、アリアンナの右フックが見事に顔面に決まって、あなたは薄っぺらな扉ごと廊下まで吹き飛ばされた。
 意識を失う寸前に視界に扉の外で構えていた男たちが見えたが、彼らも異様な雰囲気を察したのか、気絶したあなたと、仁王立ちになっているアリアンナをただ呆然と見つめていた。

 翌朝になると、あなたの前に村の酋長がやってきてプロセウスと名乗った。
 彼はまず昨夜の非礼を詫び、召し使いにパンとミルクの朝食を運び込ませた。食事をするあなたの前でプロセウスが事情を説明する。
「実は私の唯一の跡継ぎである、年端もいかぬ娘がさらわれてしまったのです。略奪者は娘を、洞窟に住む恐るべき悪鬼の生け贄にするつもりです。残念ながら我々にはそれに対抗する力をもった勇者はいない」
「それで私たちに助け出してほしいと?それにしては少々強引な依頼の仕方ですね」
 あなたの顔が腫れ上がっているのはアリアンナのせいだが、村人たちはあなたとアリアンナを監禁してでも村に引きとどめようとしたのだ。
「非礼は謝ります。しかし、我々にはもう手段がないのです。無事に娘を救い出したおりにはお礼をします。このとおりお願いします。娘を…助けてください」
 あなたには大きな使命がある。こんなところで道草をとっている暇はない。
 そう思うのだが、言葉をつまらせてうずくまった村長を見て、このまま村を立ち去る気にもなれない。チラリとアリアンナを見る。
「ハッ、あたいは連中のことなんか知ったことじゃない。だけど、おまえのお人よしぶりは短い付き合いでも、十分わかったさ。好きにしな」
 まだ怒っているのか、ぶすっとした顔のまま横を向いた。


続く


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