冒険記録日誌
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2013年12月22日(日) ループ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂(ケヴィン・ブロックマイヤー/ランダムハウスジャパン)

 「ゲームブックにはまだまだ可能性がありそうですし」と山本弘さんがブログで仰っていましたが、具体的にはどんな新しい可能性があるのでしょうか。
 ゲームブックの新境地と言えば「送り雛は瑠璃色の」をあげる方は多いでしょうし、私的にはドラゴンファンタジー(現グレイルクエスト)シリーズはゲームブックであるからこそできるユーモアを開拓したと思っています。
 しかし、今後はあるでしょうか?理想はいっても実際のところは、出尽くしているのではないか?
 そんな考えになった方に可能性の一例として、今回紹介する作品はいかがでしょうか。

 「ループ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂」は、「第七階層からの眺め」というSF短編集に収録されている作品で、ゲームブック仕立てとなっています。
 普通の本の中の一編にゲームブック作品が混ざるというのは、日本ではライトノベルやコミックで、作品の番外編的にゲームブックが収録されることは、まれにありますが、海外作品では珍しいですね。もっとも、あっても単に日本にまで翻訳されてないだけかもしれませんが。

 いずれにせよ、本作品のゲームブックシステムは特にルールのない単純な分岐小説ですが、ゲームブックとしては特殊です。なんといってもゲームとして目指す目的がないのですから。
 物語は現代に住む主人公の平凡な一日を描いているだけです。選択肢の内容は、休日だが外に散歩に出かけるか?家で過ごすか?とか、時間つぶしに本を読むか?メールを打つか?といった他愛のないものばかり。
 1人でとりとめのない考え事をしながら、友人や知り合いに会えば何気ない会話をしながら、ゆるゆると一日が過ぎていきます。
 そして途中で主人公は心臓発作を起こして唐突に死にます。
 バッドエンドかと思ってやり直しても、やはり心臓発作を起こして死にます。
 どんな選択肢を選んでいても心臓発作を起こして死んでしまうのです。
 避けられない運命として人生最後の一日を味わうゲームブックともいえ、ある意味ドラマティックです。しかし、核戦争が起きたとか病気の末期など、あらかじめ人生の最後がわかっているなら、読者もどう最後を迎えるべきかと選択肢に悩むかもしれないのに、この作品では主人公は突然死が襲うとは知らないので本当に淡々と物語が進行します。

 そして主人公が発作を起こすと、全ては同じ最終パラグラフに進んで終わりです。
 結末は不思議な気分にさせてくれる内容ですが、SFのアイデアとしては決して珍しいものではありません。ネタバレを避けているので説明しにくいですが、おそらく普通の小説として主人公の日常生活を描写しただけでは、結末を読んでも平凡な印象しか残らなかったでしょう。
 ゲームブックでは主人公が読者であるので感情移入しやすく、また人生最後の行動を自分で選択してきただけに、この結末には感慨をかきたてられます。これはゲームブックという形式を利用したことで成立する文学作品ですね。
 なおタイトルにある仰々しいループ・ゴールドバーグ・マシンという言葉は作中には登場しませんが、巻末の解説によると、無意味に複雑な仕掛けや装置を指す言葉だそうです。そういえば作中では、何気ない日常行為に対して主人公の心理描写がよく書き込まれていますが、このことを表現しているのでしょうか?
 ゲームブックとしては簡素ですが、考え始めると深くなる作品です。

 


山口プリン |HomePage

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