冒険記録日誌
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2002年03月02日(土) チョコレートナイト(鈴木直人/創土社)

 「そう。この本を手に取った時、あなたはぼく自身と化す。
 身長100センチ、体重30キロ、毛むくじゃらの顔、大きな目。
 ちょっと利口で、一見気弱そうで、でも勇気はある。この冒険は、そんなあなたでなくてはつとまらない。
 さあ、ぼくの足を使って、あなたは歩き始める。右、左、右、左、そう、いいぞ。
 うん。これならバッチリだ。ぼくらは息が合いそうだ!」

 2001年の秋。
 「ドルアーガの塔」など執筆し、日本のゲームブック界では一番の巨匠と呼ばれた、鈴木直人氏の新作が10年ぶりに発売された。
 この情報を最初に知ったとき、一緒に紹介された上の鈴木氏独特の文章を見て真実だと信じました。衝撃でした。
 創土社さんの活躍によりゲームブックは息を吹き返したと言えるでしょう。思いもかけない喜びです。
 それでは、ネタバレにならない程度に紹介してみます。

 ストーリーは、「悪い魔法使いのジェットフィンガーが人間の国の王様を病気にしてしまいました。治して欲しかったら御姫様と結婚させろと言ってきた。そこでファジー族の勇者ポポレイポラは、結婚を止めてもらうよう嘆願するために、魔法使いの城に向かいます」というもの。
 わかりやすい子供向け童話のようなお話しで、街の人もブタさんだったり、猫さんだったり、かわいらしいです。
 従来の鈴木直人氏の作品を知っている人は、この作品に違和感を感じるかもしれない。
 鈴木氏の芸術的とも言われた緻密なパラグラフ管理による魔法システムも、特徴とも言えた双方向システムによるマッピングもないから。
 しかし、鈴木氏の文章にはユーモアがあふれていた。ブレナン作品の溢れるようなユーモアとは違う。
 ちょっとした文章の言葉使いの端々に、にじみ出るような笑いのエッセンス。そこが妙に楽しかった。
 鈴木氏はこの十年間も物書きをしていたのだろうか。
 独特のセンスはそのままに、文章表現が10年の間に大きくスキルアップしていると感じた。(追記1)
 ゲーム内容的にはパズル要素が強い。
 ゲームブックの知識がない人に対しては、ストーリーがついたパズルの本 と紹介した方が早いかもしれない。
 実際にプレイしてみるとジェットフィンガーとの対決シーンなど、職人芸とも言えるパラグラフ管理も健在だったと分かってうれしい。(追記2)
 はやり良く練り込まれて作られている。

 ただし、少しは不満点も書きたい。
 まずプレイヤーは、冒険中にアルファベットを書き込んでいくだけで良いという部分。
 双葉社のペパーミントシリーズなど、同じ手法を取っているゲームブックは他にもある。どれも初心者向けの作品だ。
 しかし本書の場合、同じ記号を複数書き込んで数えたり、消したりとやたら煩雑に書き換えを要求するので、かえって面倒に思えた。
 この手法でカバーするには本書のシステムは複雑すぎたと思う。
 金貨何枚、体力何ポイントと数で表した方が分かりやすかっただろう。
 もう一つはサイコロを使った戦闘シーン。
 パズルメインの本作品では違和感があった。ゲームブック初心者には、敷居にならないだろうかと心配になる。
 次回発売を控えたパンタクルに向けて、戦闘ルールに慣れてもらう為の布石かとも思ったが、それでも蛇足の感はぬぐえない。

 まあ不満と言ってもこんなところで、どちらも作品の本質をどうこう言うものではない。
 かつての鈴木作品を期待した人などには、ガッカリしたと言う評価をくだす人もいるかと思うが、それは好みの問題だろう。
 私は本書が名作だと思っている。
 ゲームブックを殆ど持っていないという人は、まず先にこれを購入する事を自信をもってオススメしたい。

 本書が、21世紀の「火吹き山の魔法使い」とならん事を祈っています。



(追記1)
 あとでこの作品が鈴木氏が昔書いて眠らせていたままの、未発表作品だったと知る。なんか恥ずかし…。
(追記2)
 他の読者から、このシーンは完全に運任せだという不満の意見もあったようだけど、ここはジェットフィンガーの言葉をヒントに、効率的な矢の使い方と、最低でも2回分の稲妻が当たらない場所を予測できるように出来てます。


山口プリン |HomePage

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