19の頃に知り合った彼のお話。
入社して初めてのクリスマス商戦前でした。

その日はチーフとサブとわたしで、勤務先近くのお店に飲みに行きました。
そこで3人まとめてナンパされたわけですが。
みんなそれぞれに名前を偽り、年齢を偽り(笑)、
わたし以外のおふたりは人妻なのはおくびにも出さず　　というか
見たらわかるだろ、ってな感じではありましたが
とにかく適当なことを教えてました。

その時のわたしの偽名は「森田さとみ」、
これって実名を微妙に変えたような名前だったんですけど、
森田くんっていう子を好きだったのと、なんとなく「さとみ」で。

さてナンパされたご一行、そろそろ帰らないといけない時間になって、
精算してエレベーターを待っておりました。
すると、ナンパ野郎たちが引き止めに来まして「もう帰っちゃうのー？」と。
それはいいのですが、チーフったらひどいんですよ。
「若いの置いてくから♪」って、エレベーターに乗ってたわたしを追い出して
「明日は遅刻しても許す！」と吐き捨てて、サブと一緒に笑顔で去って行く・・・
えええ！　そんなぁぁ！　・・って、仕方なく残ったのですが
翌日はとりあえず早番なので、なんとしても帰りたい。
遅刻しても許すと言われても、一応は遅刻しないのが当たり前。
残されたあとのことは忘れてしまいました。

で、結局、その中のひとりと付き合うことになっていくのですが、
彼はひとつ年上でＯ原簿記に通ってる子でした。
その後、彼側のその3人とまた飲みに行って、その日はなぜか出かける前から
「今日はタクシーで帰ろう」と思っていたのですが
飲酒のくせに「送っていくよ」という彼の先輩のクルマにみんなで乗って、
帰った先は病院でした。

そのクルマ、単独事故を起こしました。
酔っ払いが運転するクルマは、雨が降り出したゆるいカーブの続く道路で
片側に寄っていってしまって、ひとりが「危ない危ない！」と言って
運転手はハンドルを切ったそうです。
そしたら見事にスピンして壁に激突、その反動で反対側の壁にまた激突、
その結果は、
運転手は脳挫傷で1ヶ月以上意識不明、
助手席の子は鎖骨骨折で通院だけのわりと軽症、
運転席後ろはシートに足を挟まれて動けず、レスキューに引っ張り出された模様、
スネ複雑骨折でギブスで入院、
助手席の後ろはわたしで、わたし側の窓は何ともないのに、隣側の窓は壊れてて
わたしは道路に落ちてたということは
そっちの窓から放り出されたということですよねぇ。
すごい音で出てきた近所の住人の方が、わたしを道路の端っこに寄せてくれたそうです。
そのままにされてたら、さらに通りかかったクルマにひかれて大変だったのかも。

事故ったクルマは
「ティッシュの箱を横っ面から殴ったように」　くの字になってたそうです。
誰も死ななかったのはすごいと思う。
うちの両親は事故現場をわざわざ通って確認してから病院に来たらしく、
さすが父上・・　と思いましたけども。
わたしは見ることができませんでした。

事故の様子は全部聞いたものなので、わたしの記憶には残っていないものです。
診断名は「逆行性健忘症」というやつで、
きたのたけしが原付で事故を起こした時のものと同じ診断。こわ。
顔はひどいことにはなりませんでしたが、
右目の横には傷あとが残っています。あんまり目立たなくてよかったです。
もうちょろっとで失明してたかもしれない、微妙な位置。

先に退院したわたしは、それからはレスキューに引っ張り出された彼の病院に
ほとんど毎日通うようになりました。
そんなに好きでもなかったのに、あんな事故があって、
みんな別々の病院に収容されちゃって、どういう心理が働いたのか謎ですけど
どうにも心配で、会いたくて。

入院してて、足にはギブスで、移動は車椅子だったので、
何かしようにもどうもできない彼でしたが、それでも
わたしが帰る時には立ち上がったりして壁に体重をあずけて
キスぐらいはしてました。
病院につきもののユニフォーム姿で、彼女との別れを惜しむ男。

キスをする時ってわりとカラダが密着するじゃないですか。
そうするようになって、わりと前から気づいてはいましたが
彼、いつも勃ちまくりでした。
それについては特に触れずに過ごしていましたが、ある日、彼が言ってました。
言われなくても明らかにわたしに当たってたのでわかってました。
当時ハタチの若者ですもんねぇ。しょうがないだろ。