酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年11月04日(火) 『枯葉色グッドバイ』 樋口有介

 羽田空港の明かりが見えるマンションの一室で親子三人が惨殺された。殺された中学生の娘は死後、陵辱されていた。悲劇の夜に外泊していたため、生き残ったたったひとりの美少女・美亜。彼女は心に悩みと迷いを抱える高校生だった。事件を担当する女刑事・吹石夕子は、たまたま災難を逃れた美亜に疑念を抱く。そして美亜のアリバイを証明した友人が代々木公園付近で乱暴されて殺された。このふたつの事件に接点はあるのだろうか? 吹石は代々木公園を調べている時に、かつて切れ者エリート刑事だった椎葉を見かける。彼はホームレスになっていた。破天荒な吹石は、ホームレスの元刑事をアルバイトに雇い、無理矢理事件を探らせる。ホームレス・ホームズの誕生。そして美少女・美亜が心を開いたたったひとりの大人だった・・・。

 これ、すごく良かったです。なにがいいかと言うと訳あって切れ者エリート刑事からホームレスに転向(?)していた椎葉の放つ言葉たち。彼はまだ人生を捨てきっていないのだと思うほど優しかったり、憎たらしかったり、ウィットに富んでいます。現実から逃げようとしても彼のもともとの人間性や才能は失われることがなかったのでしょうね。
 事件は、美亜というひとりの少女の人生を巡って大きく動きます。とんでもなく悲劇のヒロインなのですが、美亜もまた逞しく、心美しく生きていくだろうな、と思わせてくれます。事件の顛末もなかなかいいところへオチましたv
 椎葉さんがものすごく切れ者でばりばりエリートだったのに、刑事をやめ、社会からはぐれ、ホームレスになるきっかけは、とても悲しい事件でした。このあたりをあまりうじうじ表現しすぎなかった点も好感が持てます。この物語ではそれで正解だったと思いますね〜。とってもオススメです。

 宗教で救われたい人間は救われればいいし、地獄へ落ちたい人は落ちればいい。宗教の善意は否定しないけれど、宗教で人が救えると思う無神経さには腹が立つ。

『枯葉色グッドバイ』 2003.10.10. 樋口有介 文藝春秋

 



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