酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEX|past|will
2003年10月20日(月) |
『晩鐘』下 乃南アサ |
新聞記者の建部の企画<事件のその後>が動き始めた。そしてその取材を通してあの7年前の事件の被害者の娘・真裕子と加害者の息子・大輔の両方と関わってしまう。取材したものが記事になり、さまざまな反響が寄せられる。記事で読まなければ、自分たちを不幸に陥れた加害者の家族のことも知らずにすんだのに・・・と復讐心を持つ男の心情を聞き、悩みとまどう建部。動揺する建部を救ったのは、真裕子だった。建部と心を通わせあうようになり、すこしずつ癒されていく真裕子。しかし、少年・大輔の短い人生は悲劇の連鎖に絡めとられたまま、より悲劇へ突き進んでいくのだった・・・。
ただいま乃南アサさん攻略中なのですが、そのきっかけとなったのが10月頭に読んだ『晩鐘』上でした。今までは音道貴子シリーズをメインに捉えていたので他の作品を本気で追いかけていなかったのです。 この『晩鐘』は読後感は悪いかもしれませんが、とてもいいです。矛盾した感想ですが、私には心にものすごく残りました。事件に巻き込まれた人々のその後は続いているのだと思い知りましたから。起こってしまったことは消えない。その後をどう生きていくかは、周りの人によるのかもしれません。人に恵まれるといい方向へ進めるかもしれない。その点、この『晩鐘』の悲劇の主人公・大輔は可哀想でした。一概に言い切ることはできないかもしれませんが、大輔の母親・香織に問題がありすぎた気がします。香織自身も自分が生き抜くだけで必死だったことはわからないでもないけれど。そして香織も被害者のひとりなのだけれど・・・。でも香織さえもう少しと大輔のために思えてなりません。香織は大輔にこんなことを言います。「考えてもご覧なさい。やられた側は、ただ泣いてりゃあ、いいのよ。だけど、やっちゃった側は、これからが地獄なんだから。ずっとずっと、地獄。白い目で見られて、いつまでたっても人殺し扱いされて、まともな仕事にも就けなくて、それでも、生きていかなきゃいけなくてー」そんなことを大輔に言う香織はもう母親ではなかったと言うことなのでしょう。
だからといって、では殺されたから殺し返そう、そうしなければ気が済まないというのではない。いや、たとえ犯人を死刑にしてもらったところで、気が済むとは到底、思えないのだ。本当に望むことは、返してもらうことだった。失われたすべて、生命さえ返してもらえれば、それで良いと思っている。だが、それがかなわない以上、何らかの方法をとって欲しい。せめて、遺族と同じ哀しみや苦しみを味わってもらいたいと思う。
『晩鐘』下 2003.5.20. 乃南アサ 双葉社
|