『遠い未来の話』
ここは機械の島。 花も木も、魚も鳥も犬も馬も・・・ 住人達も皆ロボットである。 と言っても、肉眼では容易に見ることは出来ない。 全てはミクロの世界だから。 ロボット工学とバイオテクノロジーがオーバーラップしかけた頃に、 科学者と呼ばれる者のあるグループが、私的好奇心と有り余る援助金で、 これらの創造を成し遂げた。 それから数世紀後、彼らは何処か遠くへ行ってしまった。
ある時、機械人の中でも頭脳の優れた者が荒野を旅していた。 そしてとても深い谷底へ降りたとき、彼は今まで見たことのない遺物に遭遇した。 それは長年の風化作用で腐食しかけた何かのフレームやネジの山だった。 一見すると自然の岩山のように見えた。 彼は考古学者らと共に、遺物を発掘しては街へ運び詳しく調査した。 何千何百という遺物は、試行錯誤の末一つに復元された。 それは現存するどんな生物にも当てはまらなかった。 手も脚も無く、ただフレームが蛇のように絡み合って複雑な迷路になっているのだ。 物体は巨大なトレーラーで、街から離れた中央博物館へ移された。 復元を引き継いだ生物学者達は、早速復元図を描いた。 それは無数のマッスルシリンダーで肉付けされ完成した。 人々は興味深く見学に集まった。有る者は「芸術品」として、 有る者は「遺跡」として鑑賞し、口々に論評し合った。
数世紀後・・・ 何時しか遺物は人々から忘れ去られた存在となった。 島全体が、種族的衰退を始めると、街の発展も停止状態となった。 そんな中、ただ遺物だけが本来の姿を保っていた。
そしてマクロの世界では・・・
あるマイクロマシーンの研究者が以前使っていた研究室へ足を向けていた。 何のために? それは彼しか知らない事だ。 網膜スキャンでロックを解除すると、重いドアーが開いた。 彼はガラスケースを開けるとミクロの世界を電子顕微鏡で観察し始めた。 緩んだ口元から聞き取れない小さな呟きが発せられる。
「・・・これはいったい」
ある日、機械の島で大地震が起きた。全ての建物は積み木細工のように崩れてしまった。 ・・・その時だった。沈黙するオブジェに甘んじていた遺物は、初めて作動を開始した。 創造主の意志によって組み込まれたプログラムは敵を見つけ、 そこへ向けて内部のエネルギーを放射し続けた。 そう・・・自らを崩壊させてしまうまで。
マクロの世界では・・・ 研究者が見守る中、電子顕微鏡の中の世界はみるみる崩壊していく。 彼は諦めにも似た表情を浮かべると、研究室を後にした。
おわり
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